モルモルモ! ―ショートショート―
お題「地底でフルスイング」
(お題提供者 モフモフ さま)
………………
――ん。痛い。
庭で穴掘りをしていたときのこと。
えっちらおっちら掘ってたら、頬に何かがぶつかった。小石的な。ひょっとすると穴掘りで石でも飛んだのかなとそいつを拾ってみると、どうもそいつは石じゃなかった。
「…………?」
鼻くそみたいな野球ボールが、そこにはあった。
工作に詳しくない俺でもわかることなんだけど、このサイズのボールを作り上げるのはかなりの技術だ。でもどことなく獣臭い。
ほぉ、へぇ、と観察していると、掘った穴から「モルモルモ!」と叫び声が聞こえた。獣のような臭いがした。そして獣臭さはどんどん増した。叫び声は一つじゃない。「モルモルモ!」それが三つ四つ五つ六つ……どんどん連なって「モルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモルモ!」
そして掘った穴が噴火した。
「モルモルモ!」
そこから出てきたのはモグラの大群だった。大中小、色んなモグラが穴から出ては太陽のまぶしさに「モルモ!」となって、それでも彼らは「モルモル!」と言った。
モグラ、60匹。
辺り一面のモグラ。それはもう、汚いカーペットのような有様だ。モグラどもは太陽に怯えながらもキョロキョロとした。何かを探しているようで――と、そこで何となく思ったんだ。
このボールを探してるんじゃないかって。
「モルモルモ!(あったぞ!)」
モグラの一匹が何かを宣って俺を指さした。俺の口には、小さなボール。
「モルモルモルモ!(よくも俺たちのボールを!)」
「モ!(あれは決勝戦15回延長、モグラ界の伝説とも呼べるモグーラ・モグモグさま復帰戦第一号の代打サヨナラ満塁場外ホームランなんだぞ!)」
ぶっちゃけ何言ってるのかわからないが、どうやらこのボールを狙っているそうだ。
モグラも野球するんだなぁ……。楽しいもんな、野球。
「モルモル!(奪い取るのだ!)」
モグラ大群の先頭のやつが声を張り上げた。するとだ、モグラどもが俺を取り囲んだ。右も左も前も後ろもモグラモグラモグラモグラモグラモグラモグラモグラ。それが気持ち悪いのなんのって!
彼らは一斉に俺の足を引っ掻きだした。さすが世の穴という穴を知り尽くすモグラどもだ。その爪は刃物ののように尖っていて、俺は痛みのあまり飛び跳ねた。
飛び跳ねた衝撃で、俺のことを引っ掻いてた何匹のモグラも空を飛ぶ。空を飛んでも、野球をするモグラだから飛んでった彼らを上手くキャッチした。でも俺はそうじゃない。
すってろりんと転んでしまって、今こそ狙い時とばかりに彼らは襲いかかった。
砂の臭いと獣の臭い。
爪が引っかかっていたいし臭いしこそばゆいし土で汚れるしそういえばさっきせっかく俺が掘った穴をめちゃくちゃにしてくれたし……。
そこで俺の頭がプッツーンとした。
「ワンワンワワワン!(おめーらうるせぇぇぇぇ!)」
のど奥から俺は叫んだ。どっか遠くの犬が俺の叫びに反応して「ワゥォォーン!(いやあ今日も元気だな!)」と吠えている。
俺の叫びに驚いたモグラどもは後ろに一回転二回転して固まった。
俺に恐怖したのか、と思ったが、どうやらそれは違うようで、俺が吠えたと同時に口にくわえてたボールがぽーんと遠くへ飛んだのだった。
「モルモ……(まじか……)」
モグラの顔が悲壮に染まるのを見て、俺は「クゥン(なんかゴメン)」と言った。だが彼らは肩を落とす。
「…………」
あのボールの臭いなら覚えてる。……仕方ない。
「ワワン(俺が探して来てやんよ、てめーらはそこで待ってな)」
日差しは強い。
俺がボールを見つけるまでにこいつらが干涸らびてないことを祈る。
………………
※ショートショートのお題、待ってます!10文字程度のお題をください。
ショートショート集目次 (←お賽銭はこちらから)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?