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掌編旅行

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これまでに書いたショートショート集。
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記事一覧

とある戦場の隅っこで ―ショートショート―

お題「世界の中心でアイアイサー!」
(お題提供者 プランニングにゃろ さま)

 走る。僕は走る。

 この足を止めてしまったら、どれだけの人が傷つき、悲しむのだろう。逆に、止めなかったらどれだけの人が傷つき、悲しむのだろう。僕の二本の足はちっぽけで弱いけれど、でもこの足を動かさなければいけない。

 背後からは爆発音。痛くて、心臓まで揺さぶる。次いで悲鳴。叫び声。そこに善なんて見当たらない。飛び

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めくらの絵 ―ショートショート―

本作は、現代とは異なる時代設定を行っております。現在、差別用語として認識されている「めくら」という言葉が作中でしばしば用いているのはそのためです。ご了承ください。

 むかしあるところに盲目(めくら)がいた。

 そのめくらは絵描きであった。盲人の絵であるから、見た目そのままを書き写すなどと言うことは出来なかった。ましてや、色使いと言うべきものも不可思議で、七色を用いて描いたそれを林檎だと言い張っ

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深い穴 ―ショートショート―

 むかし、ある村の外れで、穴を掘り続ける男がいました。

 村の人が気づいた時には人ひとりが入るほどの穴が地に空いていましたので、誰もいつから彼が穴を掘り始めたのかを知る者はいませんでした。そして村の誰も、男の名前を知りませんでした。しかし誰も知ろうとは思いません。

 彼のことは遠巻きに「穴スケ」と呼ぶことにしました。

 穴スケは朝も昼も夜も掘り続けますが、やはり村の人々は「穴スケがまだ愚かな

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でかカボチャの冒険 ―ショートショート―

お題「カボチャを割らないと」
(お題提供者 ヤマケン さま)

 おばけカボチャ大会が今年も開催されます。

 かねてよりおばけカボチャの覇者を目指していた農家の道夫さんは、軽トラックにどでかいカボチャを載せました。まるで力士のように巨大なカボチャです。道夫さんはそれを見て、にんまりとしました。これで今年こそ優勝できるに違いありません。

 道夫さんは意気揚々トラックに乗り込むと、会場目指して走り

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灰色のクレイ ―ショートショート―

お題「愛し愛されて愛になる」
(お題提供者 ならざきむつろ さま)

 不定形で弾力があり、さながら粘土のようなそれを、私は「クレイ」と名付けた。

 その表面は不透明な灰色で、加えて細かな粒が混じっているため、遠目からはただの丸い石のように見えるかも知れない。事実、私がこれを発見したときは上記の理由からか何も気づかず、通り過ぎようとしていた。

 しかし、それは動いたのだ。

「粘土のよう」と形

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ぺらぺらばあちゃん ―ショートショート―

今日は「皮膚の日」です。
というわけで、書いてみました。

 ばあちゃんはババアだから、顔のうすっ皮がぺらぺら剥げている。日焼けした後に皮が剥がれるみたいなのが年中無休だ。僕がちっちゃいころからばあちゃんはぺらぺらしてたから、気味悪いとは思わない。ただ、変だなぁ、と思う。

 ある日ばあちゃんに

「それ、剥がしてみたい」

 と言ってみた。

 ばあちゃんは自分でもぺらぺら剥がしてみたりするから

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その男の名は、 ―ショートショート―

お久しぶりです、空音です。
心新たに活動開始ということで、ショートショートです。

 ジョーの名前は西山祐介というのだけれど、彼は小三の体育の授業で跳び箱をするとき、先生に「もしかしたら祐介くんは六段でも跳べるかもね」と言われたので、「え、僕って六段跳べるの? というか、跳んで当然なの? 失敗は許されないの? 絶対に跳ばなきゃいけないの?」と考えてしまい、それだというのに「わかりましたっ! 跳ばせ

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「とある休日」

外国の方「『日本』はニホンなのですか、ニッポンなのですか」
「えっと、時と場合によるよ」
「それはどのように使い分けを?」
「……応援の時はニッポンって言った方が力強い、から?(小声)」
「オー!」
 数日後、彼が別の外国人にそれを自慢げに語る姿を見る。

「キユウ」

まさか【空】が落ちてくるなんて。
いつから空を「落ちないもの」だと思うようになったのか。
──自分で確かめたわけでもないのに。
そういうように教えられたというだけで、まるまるそれを信じてた。
疑う、ということを私たちは知らなかった。
今日、この日を迎えるまでは……。

「ファーストキスは蜜の味」

カブトムシが、私の部屋で待ち受けていた。
虫が大嫌いな私は、漏れなくカブトムシも大嫌い。そしてそんなカブトムシは、私の枕に鎮座していた。
立派な角をした、雄だった。
目が、合った。
彼はじっと私を見据え、四枚の羽を広げると、飛び上がって――。

「ア・ガール」

彼女には中身がない。
かわいた笑いと何も見ない眼差しと予定調和な意見と無難な服装と規則正しい生活と無趣味と好奇心のなさとだれにも嫌われない空気と、そしていつの間にか皆の記憶から消える存在感。
でもそれが、彼女の彼女らしさなのだ。
そんな彼女を、私は見ている。

「ぼくの戦争」

絵画の目が動いた!
右から左にギョロリ!って。
でもパパもママも信じてくれない。
いけない、このままじゃパパとママが食べられちゃう!
この絵はどろどろぐちゃぐちゃの女の人だから、どろどろぐちゃぐちゃで襲ってくるんだ。
ぼくは密かに、闘う覚悟を決めた。
目つぶし!

「忍者に休みを」

ときたま忍者がトラックに乗る。荷台に。
私は知らぬふりをするけれど、あれは間違いなく忍者。
スピード命の忍者でも、やっぱり疲れはあるみたい。
羽を休めた忍者は煙とともに消えていくんだ。
今日も私は知らぬふり。
でも今度は荷台におにぎりくらいは置いてみよっかな。

「夏の音量」

イヤホンして音楽流したら音量マックス。びっくり。
びっくりして口から魂が出た。
魂は地球を一周して、ほんの少しだけ通り過ぎた。
通り過ぎてしまっては仕方がないと、魂は怨霊に。
怨霊生活も悪くない、と魂は言う。
夏の怨霊はこうして生まれる。
今日も誰かの口の中から。