でかカボチャの冒険 ―ショートショート―

お題「カボチャを割らないと」
(お題提供者 ヤマケン さま)

 おばけカボチャ大会が今年も開催されます。

 かねてよりおばけカボチャの覇者を目指していた農家の道夫さんは、軽トラックにどでかいカボチャを載せました。まるで力士のように巨大なカボチャです。道夫さんはそれを見て、にんまりとしました。これで今年こそ優勝できるに違いありません。

 道夫さんは意気揚々トラックに乗り込むと、会場目指して走り出しました。しかし、あまりにも浮かれていたのか、道夫さんはカボチャをトラックに固定し忘れていました。

 ブロロ、ブロロと音を立て、トラックは進みます。すると、道に大きな石が落ちているではありませんか。道夫さんは鼻歌を口ずさんでいて気がつきません。そして片輪が石を踏みました。がっくん、とトラックは跳ねて、荷台に積んでいたカボチャも跳ねました。

 ここで道夫さんはカボチャを固定していなかったことを思い出しました。

 しかし、時すでに遅しです。

 カボチャは荷台から転げ落ちると、土手を下り、ごろごろ転がり、川へ入ってしまいました。道夫さんは慌ててトラックを降りますが、もうカボチャは遠くへ流れていました。


* * *


 あるところに、子どものいないおじいさんとおばあさんがいました。

 おじいさんは家の雑草刈りをし、おばあさんは川へ散歩に行っていました。おばあさんが川沿いの道を歩いていますと、川の上流から大きなカボチャが、ドンブラコ、ドンブラコと流れて来るではありませんか。

 おばあさんはこれほど大きなカボチャを見たことがありません。そこでおばあさんは「桃太郎」のお話を思い出しました。もしかすると、子どものいなかったふたりに、神様が子どもをくださったのでしょうか。

 おばあさんは嬉しくなって、そのカボチャを川から上げると、急いでおじいさんを呼びに行きました。やがておじいさんとカボチャを家に持って帰ると、ふたりは手をとり合って喜びました。

 さて、おじいさんは物置から古びた斧を持ってくると、カボチャへ振り下ろしました。しかし斧が古かったためか、傷ひとつ付きません。どうやらカボチャも相当かたいようです。おじいさんはもう一度頑張ってみますが、やはりカボチャは割れません。斧は刃こぼれを起しています。おじいさんの顔も真っ赤です。

 おじいさんは困った顔でおばあさんを見ますと、おばあさんはさらに困ったような顔でした。おばあさんはふと、このままカボチャを割れなかったら中の赤ん坊はどうなるだろう、ということを言いました。

 するとどうでしょう、さっきまで真っ赤だったおじいさんの顔は、みるみるうちに青ざめていきます。このままですと、赤ん坊が死んでしまうと考えたのでした。

 その後おじいさんは一生懸命に斧を振りますが、斧は壊れてしまいました。そして、それを見かねたおばあさんは、どこからか大きな石を持ってくると、カボチャへ投げ当てました。今まで体力を温存していたおばあさんですので、たいへん威力のある投石です。石はカボチャへぶつかると、どこか遠くへ飛んでいきました。

 そしてカボチャは、ようやくぱっくり二つに割れました。

 しかしそこには、赤ん坊なんて入っていませんでした。

 おじいさんもおばあさんも、呆れて腰を抜かしました。

 その日の晩に、おじいさんとおばあさんはカボチャを食べました。二人は笑いながらそれを食べましたとさ。


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#小説 #ショートショート

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