noteがこわくなるときがある ―ショートショート―

前から思ってたことをショートショートに。

半分くらいはフィクションです。


………………


 noteが好きだった。

  “note”――それはさまざまなものの創作と、人々の交流が一体となったサイトだ。右を向けばイラストを描く人がいて、左を向けば曲を作る人もいる。多種多様な人々に囲まれて、なんだか創作の新しいカタチを見ているかのようだった。

 話題好きな私はさっそくnoteのサービス開始日にアカウントを登録した。そして、ショートショートをnoteで公開した。反響は今ひとつだったけれど、何人かが「スキ」をしてくれた。

「スキ」っていうのは、「面白かったよ」とか「あるある!」みたいな気分をボタンひとつで知らせる機能だ。それがショートショートに付いたってことは、もしかしたら面白いって思ってくれたのかな? 私は嬉しかった。

「ミノリ、何してんの?」

 と、私のノートパソコンの画面をのぞき込んできたのは同棲している彼氏だった。

「あ、これはnoteっていうサイトで……ほら、こういう感じでショートショート書いたりできるの。有料で売ったりもできるんだけど……」

「ああ、ミノリ、小説家になりたかったしな」

「う、うん」

 彼の無垢な笑顔が、どこか痛かった。

 私は知っているんだ。自分が小説家になんてなれないことを。どれだけ書いたって新人賞にはかすりもしないし、書けば書くほど他の人との差が見えていくようで……。いつしか私は賞に作品を送ることをやめていた。それは、諦めたも同然だった。

 けれど、彼はそのことを知らない。

 優しい笑みをこちらに向け、私が微笑むのを待っている。私は、固い頬でなんとか笑った。

 私は今、色んな人に嘘をついている。大学に通っているというこの環境でも、大学で勉強したいなんてほざいていながら心の中では大学在学中に小説家になりたい、という密かな思いがあった。いわゆる、モラトリアム。両親に嘘をつき、何百万とお金を出してもらったのだ。それが今ではどうだ、小説家になりたいなんていう夢はしおれかけ、本当に大学にいる価値を疑い始めてしまった。

 両親、彼氏――そして私に、私は嘘をついている。

 なんだか、私の思っている私が、もういなくなってしまったように。

 不安になる。

 このまま自分を信じられなくなるんじゃないかって。

 と、そのとき画面の右上に赤いマークがでた。誰かが私のショートショートにコメントを書いてくれたんだ。

 そのコメントには「面白かったです。次回作も楽しみにしています。」と書かれていた。

 小説家になるなんて夢はとうに諦めたというのに、心の何かが震えた気がした。

 人に褒められるという感覚が、どうしてもnoteを続けさせる。そして「スキ」される度に、コメントをされる度に、嬉しくなる。こんな自分の作品でも面白いって言ってくれる人がいるんだ、って。

 だから私は、どこかの賞にまた小説を送ってみようと考えた。諦めかけていたはずの夢が、ふたたび息を吹き返したような気がして。


「ねぇ」


 誰かが言う。

 それは数年前の私の姿をした少女だった。

「もしあなたの夢が叶ったら、それはとってもすばらしい物語よね。noteのおかげで夢を諦めずに入れたんだもの。でも、夢が叶わなかったら?」

 ふいに、のどの奥が痛んだ。細い糸で締め付けられるように、胸が苦しくなった。私は両耳をふさいで彼女の声を拒絶する。でも、声は私の思いとは無関係に指の隙間から蛇のように襲いかかる。

「夢を諦めずにいられるって、逆に言えば、ずっとずぅっと夢を“諦められない”っていうことじゃないのかしら? その夢が叶わなかったら、あなたはずるずると叶うはずもない夢にすがって生きていくことになるのよ?」

 うるさい!知ったようなこと言わないで!あんたに関係ないことじゃない!

「そうよね、私には関係がない。でも、あなたの周りの人には? あなたが嘘をつき続けてきた人々にも、関係がないって言える?」

 少女の顔は、私の両親、そして私の彼氏のものへと変容する。

 やがて、数年前の私の顔へと戻った少女は、哀れむような目をして言うのであった。

「いい? このままnoteを続けていたら、あなたはせっかく諦めることができそうだった夢を、みじめにも追い続けることになるのよ? あなたは、これからどうするの?」

 私は――私は……。

 耳をふさいで、うずくまることしかできなかった。


………………


※ショートショートのお題、待ってます!10文字程度のお題をください。

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