世界史を変えた金属
『世界史を変えた金属』 田中和明 秀和システム(2023/10)
著者は新日本製鐵で40年間、製鉄現場技術者としてバリバリ勤務していた技術者の方で、金属・鉄鋼オタク。
海外への技術協力で各国の製鉄所に出かけたり、英国やフランスの技術者の受れ入れをメーカー勤務中を行っていただけでなく、退職後も海外の製鉄・金属の歴史遺産や遺跡を訪ね、個人調査のエピソードも豊富に語られており、これがまた、面白かった。
英国の王立研究所内にあったファラデーの研究室を訪れるくだりは最高で、電磁気の研究で有名なファラデーであるが、一時期、錆びない金属をつくるべく、合金の研究にも携わっていたという。
著者の個人的な体験と金属の歴史、そして、その製造、開発に携わった人々の業績が当時の技術背景と共に語られており、普段、理工書をほとんど手に取ることのない自分でも楽しめたのは、ひとえに作者の金属愛が本書に満ちていたからだ。
溶鉄、銑鉄、鋳鉄、錬鉄などなど、鉄にも様々な形態があり、また、その製鉄法にもるつぼ法、転炉法、平炉法、そして、日本独自の製鉄法が、たたら法があったことも知れた。
本書を通じて、インドのウーツ鋼より製造されたという現代の技術をもってしても再現不可能なダマスカス鋼の謎、そして、ファラデーの生涯にますます、興味を惹かれ、個人的にこれからも追ってゆきたいと思った。
他にもたくさんの金属トリビア(ブリキはすずと鉄の合金、トタンは亜鉛と鉄の合金など)も散りばめられ、飽きることがなかった。
以下、目次であるが、本当に人類の歴史は金属と共にあったことを実感させられた一冊であった。
第1章 金属はどこで生まれ、人類と出会うのか?―宇宙・地球・生命・文明と金属
第2章 金属の記憶―金属の神話と錬金術
第3章 金属の文明―金属変遷と東西の文明
第4章 金属の思想―金属は文明と錬金術を生み出す
第5章 金属の拡張―距離の拡張と技術の拡張
第6章 金属の衝動―産業革命へ準備
第7章 金属の胎動―産業革命への歩み
第8章 金属の躍進―巨大建造物と新金属の大躍進
第9章 金属と機能―金属に新たな機能の可能性
第10章 金属の成長―性質の成長と建造物の成長
第11章 金属の運命―戦争に翻弄される金属
人の世に熱あれ、人間(じんかん)に光りあれ。