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『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』 三浦英之 2019年5月刊 小学館

本書は新聞社のアフリカ特派員として3年間の駐在期間の大半をアフリカゾウの密猟組織の実態を追うことに費やした著者渾身のルポルタージュです。

1940年代には約500万頭いたといわれるアフリカゾウですが、著者が取材を始めた2010年代には約10分の1の50万頭に激減しており、このまま行くとあと数十年で、野生のアフリカゾウは地球上から消滅するといわれておりました。

この背景には勿論、アフリカゾウの持つ象牙を狙っての密猟があり、著者はアフリカ赴任後、モザンビークとタンザニアの国境近くにある国立公園に飛ぶのですが、そこで衝撃の事実を知らされます。

ゾウの楽園と謳われていたその地にアフリカゾウの姿は一頭も見当たらなく、たった3年の間に根こそぎ、密猟されてしまっていたのです。

その密猟の様子も本書にて描かれていたのですが、まず、密猟者はゾウの群れをみつけると子ゾウを狙って銃を乱射するそうです。家族の結びつきの強いゾウの群れは傷ついた子ゾウの側から離れることができず、次々に密猟者の銃弾に倒れていくとのことでした。

また、ゾウの皮膚は分厚く硬いので、死後硬直が始まってからではチェーンソーの刃も欠けてしまう為、ゾウがまだ生きているうちに顔面を抉(えぐ)り取り、象牙を持ち去ってゆくのです。

本書には痛ましいゾウの死体、夥しい白骨の数々の写真も収められており、凄惨の一言に尽きました。

全ては象牙のもたらす富と価値をめぐって行われる蛮行であり、著者は取材の中、密猟組織のある黒幕の存在に行きつきます。

本書では、その黒幕の存在をかつて一族の儀式でライオンとも戦ったこともある元・マサイ族の戦士、取材助手のレオンと一緒に追ってゆくのです。

アフリカは野生動物の命も軽いのですが、人間の命も同様に軽く、犯罪、殺人は日常茶飯事で、密猟組織の実態を追う筆者たちも例外ではありません。

密猟組織は国家権力とも密接に結びついており、裁判所や警察といった組織も取り込まれている可能性が高く、妨害、脅迫で済めばまだ、良い方で命の危険も伴う危険な取材でもあったのです。

秘密裏に、また家族を巻き込まぬよう細心の注意を払いに組織の実体解明に向けて取材を続けていくのですが、筆者たちが辿りついたのは、アフリカだけではおさまりきることのできない、現実と事実でした。

詳しくは本書で確かめていただければと思いますが、イスラム過激派のテロリストたちに誘拐された子供たちが爆弾を巻き付けられ都市部で自爆テロを強いられているアフリカの現実。

2000年代に入り、アフリカという巨大なマーケットを手中に収めるべく、国家総動員でなりふりかまわず進出している覇権国家・中華人民共和国。

印鑑の材料として、依然として象牙を使い続ける我が日本。

一見、バラバラにみえる各国の現実が結びつき、アフリカゾウの死体が積み上げられているのです。

本書を読み終え、また一つ確信したことがあります。

アフリカゾウだけでなく、世界中の野生動物を絶滅に追い込み、自然環境を破壊している要因が我々の無知、無関心にあることを。

自分ひとりが知ったところで、関心をもったところで何が変わるのか、そんな声がよぎる時もありますが、しかし、思わずにはいられません。

まず、自分のできることから始めよう。

やらないよりはやってみようと。

そんな思いで本レビューを記した次第です。

God doesn’t require us to succeed; he only requires that you try.
神様は私たちに、成功してほしいなんて思っていません。ただ、挑戦することを望んでいるだけよ(マザー・テレサ)


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