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”君はスパークル”がイコノイジョイ最高の作詞と思う理由

≠MEに、「君はスパークル」という曲がある。
同グループの中でもかなり評価の高い曲である。
この曲、音楽も良いが、歌詞もかなり評価されているということで、今回はこの曲がなぜオタクの心を打つのかという点を主に歌詞の面から考えてみたい。

理由①:オタクあるあるが解像度高く描写されている

この歌詞の主人公は言うまでもなくアイドルオタクで、アイドル=君=スパークルというのも、明白と思われる。ゆえに、この曲はオタク側からアイドルを見たときのことが描写されているのだが、すごく「オタクあるある」を解像度高く描写できているな、と思う。以下はそれらの具体例である。

オタクあるあるその1:オタクじゃねーし

好きとか恋とか ファンだとか
そういうのじゃないんだ

歌詞読む限り、主人公はそのアイドルのことがどう考えても好きだし、恋してるし、ファンである。っていうかアイドルのコンサートでペンライト振ってる人のことは一般的にファンと言われる。というか、オタクです。

オタクあるあるその2:推しメン以外救ってくれない

ハートは 黒ずんで
君しか磨けない、ねえ。

あなたのカウンセラーはこう言うでしょう。たぶんそんなことないはず、と。
主人公には友達もいるだろうし、趣味もあるだろう。でも、なぜか推しメンしか自分を救えないと思う傾向が、オタクには、ある。

オタクあるあるその3:自分が一番推しメンを理解してる

僕しかわからないんだから 誰も触れないで
他人が思うよりも 深くて
重い海を泳いでる
(中略)
君は ずっとずっと繊細で
もっと複雑な人だから

もちろん、アイドルに限らず、タレントはある程度自分のキャラクターをテレビで作って演じている人がほとんどというのは誰もが理解している。それでも、自分が推しメンのことを一番理解しているんじゃないかと思ってしまう。THE OTAKU…

オタクあるあるその4:推しメンのこと、自分が一番好き

この世で一番 君のこと想っているのになあ

…もはや説明は不要。

オタクあるあるその5:推しメンが好きすぎて苦しい

君はスパークルなんだ 僕を苦しめる

これも説明はいらないだろう。

ここまで5点のオタクあるあるを見てきたが、少し私も意地悪な書き方をした。

しかし、なんだかんだ、誰も笑えないのではなかろうか。
ここに書かれていることはSNSで発信するかしないかは別にせよ、誰もが心の奥底で1%ぐらいは思ったことがあることだと思うから。

いや、1%どころじゃないかもしれない。
今我々が生きているのはSNS時代。推すという行為は推しメンとオタクである自分の関係性を作る行為であると同時に、オタクとオタクの関係性を作る行為である。
我々も大人だし、俺が一番想ってる!俺が一番わかってる!とは表でデカい声では言わない。でも誰もが心にそういう芽があるだろうことは誰も否定できないのではないだろうか。

推すという行為は上述のとおり、推しメンと自分の関係性と、自分とその他のオタクとの関係性を成立させるが、どちらが本質かといえば、言うまでもなく前者(推しメンと自分の関係性)である。
そしてこの関係性に客観的視点は不要なのである。
客観的視点というのは、自分がどう考えても「ガチ恋のファン」だと認識する能力であったり、他のオタクと比較して、自分はあの人ほど推しメンのことを理解してないかもしれない、と認識する能力である。
確かにこれらの冷静さはオタク同士の社会(後者の関係性)で生きていくうえでは必要である。しかし、逆にこれらの冷静さが自分の熱量を削いでしまう可能性もある。自分はあの人ほどお金ないから、自分はあの人ほど古参じゃないから、自分は地方組だから、自分は若くないから、自分はイケメンじゃないから・・・。とか。

その点この曲の主人公は素晴らしい。他のオタクのことを恋敵とさえ思っていないので。

ちなみに、この曲の主人公は、特にお金をいっぱい持っているわけでもないし、時間を持て余しているわけでもない、若い大学生や社会人の男性が私はなんとなく脳に浮かんだ。あるアイドルのTOで、CD1,000枚買って、個撮全通して、「俺が一番想ってる!」というタイプのオタクにはとてもじゃないが思えない。
理由は下記。

今日の夜空の星
僕みたいで嫌だな
そんな光り方 何も見えないよ

たぶん、モブなんだろうと思われる。少なくとも自己肯定感は高くなさそうだ。

理由②:アイドルとオタクの交わらない運命を実は理解している

この曲を名曲にしている点はここだと思っている。
先程この曲の主人公は他人と比較したりしないオタクだと書いたが、一方でアイドルをどう追いかけても自分がアイドルとお近づきになれないことを理解しているとも解釈できる描写がある。

秀逸な歌い出し

歌ってる君が綺麗 ちょっと泣いた
縮まることのない距離が 眩しかった

君はスパークルは、この歌い出しから始まり前奏に入るが、最初にこのテーマを提示しているのは恐るべき手腕と思う。
この最初の歌い出しだけで、様々な情報が理解できるからである。
「歌ってる君が綺麗」で、たぶんオタク視点でアイドルを見てる曲なんだな、ということが即座に理解できるし、「ちょっと泣いた」という表現(多分本当はちょっとどころではないのでは、と思わせる余地がある)からは、主人公の少しひねくれた性格と相当なアイドル好きであることがわかる。そして、「縮まることのない距離が 眩しかった」と、アイドルとオタクが交わらないという運命を受け入れているようなニュアンスがたったこの2行で理解できてしまう。

話は脱線するかもしれないが、太宰治の「走れメロス」の書き出しは素晴らしい書き出しだと言われている。なぜなら、

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

太宰治「走れメロス」

書き出しの2文だけで主人公のメロスの性格がだいたいわかってしまうからである。正義感が強く、権力を恐れず、直情的で、一度こうと思い込んだら変えない、一本槍な人間像が浮かぶ。

話を戻すと同じように、この曲の冒頭だけで我々は歌のテーマと主人公の人格を瞬時に理解できる。それが、恐るべき手腕と言った理由である。

One of them である自覚

電車でぎゅーぎゅー揺られ、君を想う
あの広い空から僕は どう見えた?
Ah 今日の帰り道はいつもよりも
ちょっと苦しかった

「広い空」は、前後の文脈から「アイドル」であることは明白。であれば、これは、自分が推しメンからは見えていないし、ただの星の一つ、つまりOne of themでしかないということを良くわかっている描写である。
自分が数多くいるオタクの一人でしかないという事実は、主人公にとって目を背けたい事実である。

「あーあ」というため息

追いつこうとしても 遠くなるばかりで
あーあ なんかもう僕の全てなんだ

上記では「Ah」と、「あーあ」が区別されて使われていることに注目したい。「Ah なんかもう僕の全てなんだ」と書こうと、響きは同じである。敢えて「あーあ」と書いたのは意図は明白で、けだるさ、あきらめ、絶望、そう言ったニュアンスを込めたかったのではないだろうかと思う。

運命を受け入れながらもただ願う

夜が明けてきた
Wow oh oh
今、何をしてるの?
どこかで歌っていて
スパークル

推しメンが好きすぎて徹夜したと思われる。
この主人公の人格からして、人と遅くまで飲んでいたとかそういうことは想像しがたい。もちろん、夜勤かもしれないが。

冷静に突っ込むと、夜明けの時間に歌ってるわけがない。
今、何をしてるの?って、多分寝てる。

そんなことはわかっている。けれど、決して交わることはないとわかっていても、自分とスパークルがどこかで交わる奇跡を願ってしまう。それが、夜明けの時間に、「どこかで歌っていて」という願いに込められている。私は、そのように思った。

総括:君はスパークルとは、喜劇であり悲劇である

君はスパークルはオタクの、なかなか他人には言えない深層心理を正確に描写したという点では喜劇であり、オタクとアイドルの交わらない現実・運命を歌っているという点では悲劇とも言える。

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