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小説【REGULATION】《10話》「クソガキ」

《10話》「クソガキ」

──この少年は何を言っているんだろう?
「み、見えてるって…どう言う意味だよ…」
「いや、だからさぁー言葉の通りだよ。おっちゃんは俺の事が見えてんだなって思っただけ」
おっちゃんは俺が見えてる?
何だよその、まるで見えている方が不思議だと言わんばかりの口振りは…。
勘弁してくれ。
もしかして、こいつもまた宇宙人とか何とかの類か?
それとも宇宙人の次は、幽霊とかそこら辺のやつなのか?
「──ちょっと待ってくれ」
少年は真面目な顔でこっちを見ている。
俺は視線を下に逸らし、少し考えた。
確かに〝怪奇現象は信じない!〟なんて事はもう言えなくなった。
何故なら俺は昨夜、この目でしっかりと未確認生命体を見てしまったのだから。
つまりこの少年が、仮に宇宙人であれ、幽霊であれ、俺は信じるほか選択肢は無い。
いや、でも待てよ…。
確かこの少年は店員とも話してたよな?
って事は店員もそっち系の何かなのか?
考えれば考える程、訳が分からない。
その時一人の中年男性が、ドリンクバーの飲み物片手に通りかかった。
「あ、あの!すいません!」
「はい?」
「いや、そのー。何と言うか…。つかぬ事をお伺いしますが、そこに立っている少年の事って…。見えてますか?」
中年男性は俺の指差す方向を見た。
「…。ん?」
見えていない!?
「だから!!そこに立っている男の子の事見えていないんですか!?」
「っっっくっくくくっ…」
「──!?」
俺が中年男性に必死に問いかける中、突然少年が笑いを堪えるような仕草を見せた。
「何だよ。何がおかしいだ?」
「あのー。貴方の言う少年ってシン君の事ですよね?見えてますよ。勿論」
中年男性は、俺に苦笑いながら告げ、そのまま去っていった。
「ギャハハハハハハッ!!」
少年は涙を浮かべ、大声で笑い始めた。
──やられた。
この少年は俺をからかっていた事に気がついた。
このクソガキ…。
「お前は何がしたいんだ?」
「やっと気が付いたのかよ!?いやー最高だったぜ?おっちゃんの最初の顔!!」
──落ち着け。京祐…。
相手は子供だ。ムキになるな。
「宇宙人とか信じるやつだったら、こう言うのも信じるかなって思ったらドンピシャだったな」
「あのな。大人相手にこう言う事はするもんじゃねぇぞ?親御さんが悲しむぞ。あと、俺はおっちゃんじゃない。二十五歳のお兄さんだ」
「まぁまぁ、そう怒んなって」
少年は突然、ポケットに手を入れ一枚の紙切れを取り出し、俺に渡してきた。
「ほら。面白かったからこれやるよ」
「──!?」
少年がチラつかせているそれは、紛れもなく俺の知っている一万円札だった。
「お前…。大人をからかうのもいい加減にしろよ?」
「え、何?欲しくないの?」
「いらねぇよ」
──クソ欲しい…。
「またまたー。これ欲しくない奴なんてこの世にいんの?」
「いらねぇって」
──まじで欲しい…。
「ふーん。なーんだ、いらないんだ。まぁいいや。何かおっちゃん思ったよりつまんなそうだし。じゃ、頑張って生きろよっ」
少年は、憎たらしい言葉だけを置いて去って行った。
──何だったんだ?あのクソガキは…。
妙にかんに触るやつだった。
そして何をしに来たんだ?
俺をからかいに来たのか、それとも万札を見せびらかしたかったのか…。
「ふんっ」
辞めだやめだ。俺にはやる事があるんだ。
俺は少年について考える事を辞め、気を取り直し宇宙人について調べ始めた。

──一時間後。
「なるほどな…。宇宙人の歴史は思ったより古いんだな」
余程集中していたのだろうか。
体が強張っている。
「ぅう…」
俺はリクライニングチェアを目一杯使い、背伸びをした。
「──ん?」
天井がボヤけて見える。店内が薄暗いせいか…。
いや、違う。単に画面の見過ぎだろう。
──少し休憩しよう。
俺はドリンクバーを取りに行く為、席を立った。
「確かドリンクバーはこっちだったよな」
入り口とは反対側にあるドリンクバー。
ネットカフェにはあまり来慣れて無いが故、ここのドリンクバーが珍しいのか、普通なのかよく分からないが、どうやら自販機型をしている。
好きなドリンクのボタンを押せば、お金を入れずとも下から出てくるシステムらしい。
俺はホットコーヒーのボタンを押し、ドリンクが出来上がるまでの数秒を待っていた。
さっきまでは気づかなかったが、静かな店内には僅かにBGMが聞こえる。
鳥の囀りと水の音、マッサージ店なんかで良く流れていそうな癒し系BGMだ。
俺はそんな僅かに聞こえるBGMに耳を傾け、癒されていた。
「──ギャハハハハハハ!!」
静かな店内に響き渡る、不相応な甲高い笑い声。
ドリンクバーの裏側には、ガラス張りのビリヤード場がある。
──声はあそこからか。
どうやら数人集まって、何かをしている様だった。
「お前面白かったから合格。はい、一万円!」
「ありがとうございます!!」
この癇に障る、聞き覚えのある声。
俺は自販機型ドリンクバーの後ろを覗いて見た。
──やっぱり。
そう。声の主は先程俺に絡んできた、白髪の少年だった。
少年の周りには三十代〜五十代くらいだろうか。
五、六人おじさん達が集まっている。
──たく。アイツ…。俺にだけじゃ無くてみんなにあんな事やってんだな。金をチラつかせて…。きっと陸でも無い大人になるぞ。
『ピー、ピー』
出来上がったコーヒーを取り出し、俺は自分の個室へと戻った。
「あー言う奴には付ける薬はねぇ…。さて。第ニ回戦と行きますか」
『ガラッ』
「──!?」
『ガラッ』
俺は、一度扉を閉めた。
半個室の部屋番号を確認する。
──合ってるよな…。
俺はもう一度扉を開けた。
『ガラッ』
俺の個室。しかし何故かそこには人の姿があった。
「やーやー」
そこに居たのは、噂の宇宙人ルティナ・サンタ・ビトニュクスだった。
「またお前!てか、え?は?何でここにいんだよ!!」
彼女はリクライニングチェアに深く座り、足を組んでいる。
おまけに肘掛けに頬杖をつき、何やらニヤついている様子だ。
「──ヒクッ」
ん?よく見ると顔も赤らめている。
「お前まさか…。酔っ払ってんのか!?」

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