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小説【REGULATION】《1話》「銀色の玉」

 ──【十】──


 ──【九】──


 ──【八】──


 ──【七】──


 ──【六】──


耳障りな甲高い声が、部屋の小さなテレビ画面から発される。
『──我々人類こそ!全てを理解し手に入れた、この世で最も全知全能に近く、神とも調和する事の出来る絶対的存在なのです!』

──否。

厚顔無恥、夜郎自大…自惚れも大概だな…。
俺達人間の常識や化学…そんなもんじゃ説明のつかない事例なんて腐る程ある。
そうだな…例えば

〝宇宙人は実在するのか?〟

とかね…。

──
──


『ピピピピピピンッピピピピピピンッ』
カーテンの隙間から、僅かに朝日が差し込む、午前九時。
薄暗い部屋に鳴り響くアラーム音。
いや、正確には鳴り響いてはいない。
ただ俺の枕元で、けたたましく音を発し、小刻みに振動しているだけだ。
──何もしない。何もしたくない。
──何も起こるな。何も鳴るな…。
スマートフォンのスヌーズ機能をフル活用した所で、ようやく俺の朝が始まる。
目を擦りながらベッドから這いずり出ると、重い足取りで、最初に向かった先はトイレ。
俺の住むこの家は、都会の大通り沿いにある、十階建ての全室1Kマンション。
ユニットバスは不便を感じる事もあるが、俺のような一人暮らしの人間には、このくらいがちょうど良いのかも知れない。
トイレを済ませ、そのまますぐ隣にある洗面所で、電動歯ブラシを使って歯を磨く。
お次は鋼のように固まる、ウルトラハードジェル。これを手のひらに五百円玉程出し、両手全体に馴染ませ、髪の毛をセットする。
七三分けでも無く、オールバックでも無い、ウルトラハードジェルにも負けない、何とも絶妙な髪型。これが俺のスタイルだ。
最後は部屋に戻り、昨日棚の上に脱ぎ捨てたスーツを手に取り、慣れた手つきで身に纏う。
これで準備完了。
「──おっと、今日はゴミ捨てか」
ぱんぱんのゴミ袋を片手に、小走りで家を出る。
ベットから這い出てここまでの時間…。
なんと脅威の、十二分。
出勤前選手権があるのであれば、是非ともエントリーしてみたいものだ。
マンション下にある、ゴミ捨て場にゴミ袋を捨て、クラクションや工事現場の騒音が入り混じる、朝から騒がしい大通りへと歩き出した。

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俺の名は、京京祐(カナドメキョウスケ)
二十五歳、独身、彼女無し。
勘違いするなよ?勿論、童貞では無いし、こう見えても学生時代はそれなりにモテていたんだ。
ただ…ここ五年はいないだけ。
職業は少し珍しいのか?ホテルマンだ。
んでもって、会社までの出勤は、こうしていつも徒歩。
満員電車に揺られるのも嫌いだし、何より残業や呑み会で終電を逃す事が多いから、少し家賃は高かったが、会社の近くに住んでいると言う訳だ。
五分程歩くと見えて来る、大きく煌びやかなホテル。
タクシーが連なる、豪華なエントランス。
ここが俺の職場だ。そしてそんな光景を横目に、
俺は裏側の薄暗い従業員入り口からホテルに出勤する。
ホテルには従業員用の制服を、無料でクリーニングしてくれる場所がある。
前回出していた制服を手に、階段を使って地下へと向かう。
階段を降りきり、薄暗い入口の扉を開けると、そこは蟻の巣のように、縦横に続く従業員通路。
俺はそのまま真っ直ぐに更衣室へと向かう。
大きなホテルともなると、従業員もそれなりに居る為、更衣室も広い。
──が、一人一人のロッカーはとても狭い…。
俺は自分のロッカーの前で着替えを済ませ、職場である高級レストランに向かった。

ホテルマン…。最初良かった。
華々しく、なんだか凄くカッコ良くて、何より…憧れていた。
でも…。現実は違った。
華々しい外見からは、想像も出来ない程の安月給。
福利厚生もあってないような物。
不規則なシフトによる、不規則な生活。
休みもまばらで基本的には世間の休日、土日祝、年末年始なんかが仕事。
つまり、世間が仕事をしている時が俺の休日という訳だ。
見方によっては平日に休みが取れるのだから、メリットでもあるのだが、俺にとっては友人と時間を合わせるのが難しかったりと、デメリットでしかなかった。
仕事もそう。元々俺は人と話したり、人が喜ぶ姿を見るのが好きだったし、これとないまさに天職だと思っていた。
しかしある時、俺は気がついた。
〝笑顔にも限界がある〟という事に。
〝笑顔〟と一言で言っても、ここでは〝気配り〟や〝心遣い〟と言った〝Give〟の精神を指す。
結局人間は、どれだけ綺麗事を並べようが、自身が満たされていなければ、他人を心から満たす事は出来ない…。
勿論、これが俺の仕事だし、これで食べて行っている訳なのだから、文句を垂れるのは筋違いだと、頭では理解はしている。
でも…どうしても、どう頑張っても今の自分の現状と、お客様を比べてしまう。
そして、余りにも開いた差を目の当たりにしては、
絶望する──。

十九時三十分。そろそろ退勤の時間だ。
俺の働くレストランには、〝早番〟〝日勤〟〝遅番〟と言ったシフトが存在し、今日の俺は十時から十九時三十分までの日勤だ。
仕事が終われば更衣室に向かい、着替えを済ませ、ここから毎日のルーティンが始まる。
ホテルを後にし、仕事帰りのサラリーマンや、酔っ払いをかき分け、足早に向かったのは、大通りから一本裏側の道沿いにある、近所のパチンコ店。
現在の時刻は二十時。
俺はその店に、吸い込まれるように入店すると
すぐに空台を確認。
──君に決めた!
空台を見つけ着席し、慣れた手つきで台に一万円札を入れる。
ニ時間程レバーを握り、画面と睨めっこ。
「──負けた…」
ネオンが光り輝く、爆音の空間から外に出た俺に残るのは、圧倒的虚無感。
たったのニ時間で、三万円もの大金とおさらばした。
そんな俺が重い足取りで向かったのは、近所のコンビニエンスストア。
──今日は負けたし、贅沢は出来ないな。
二百円のカップラーメンと百円のお茶を購入。
今日の三万円があれば、このセットがあと百個は買えた…。
そんな事を考えながら、コンビニ袋を片手に帰り道の夜空を見上げる。
「なんか良い事ないかなぁ〜…」
こんな毎日を延々と繰り返している。

 ──【五】──

──翌日。
「よしよし、今日はニ万円勝ちぃと。コンビニで小贅沢だ!」
仕事を終えた俺は、懲りずにパチンコ店にいた。
そして今日は珍しくニ万円勝った。
──いやいやちょっと待てよ。
昨日は熱くなりすぎて三万円も使っちまったぞ?
昨日のマイナス三万円に、今日のプラスニ万円…。
「・・・・」
「実質勝ちだな」
そう結論付けた俺は、いつものコンビニで酒と、普段は買えないお高めのつまみ、それから締めのラーメンを購入。
昨日とは打って変わって、鼻歌混じりの軽い足取りで家へと向かった。
「──お?」
その帰り道。路上にキラリと光る物を見つけた。
「パチンコ玉みっけ」
今日はやけについてるな。
俺はパチンコ玉を拾い上げた。
大抵の人間がたかがパチンコ玉一玉…と思うかもしれないが、一玉四円の価値がある。
ちりも積もれば何とやらだ…。
「──っっっっっっ!!!」
その瞬間、俺は声にならない程の衝撃を受けた。
何故なら拾い上げたその銀色に光るパチンコ玉には、ただならぬ違和感があったからだ。
〝違和感その一〟まずはその大きさ。
よく見ればパチンコ玉より一回り程大きい。
〝違和感そのニ〟そしてその重量。大きさはパチンコ玉よりも大きいにも関わらず、それ相当の重さが無い。いや、正確には重さを全く感じない。
〝違和感その三〟そのパチンコ玉には、深海のように深く、青色に鈍く光る、大きな目玉のような物が二つ付いている。
〝違和感その四〟そのパチンコ玉には、駒のような形状をし、小刻みに動く足のような物が付いている。
〝違和感その五〟上手く聞き取れないが、何か言語の様なものを発している。
──そう。
俺が拾ったそれは、明らかに俺の知っているパチンコ玉では無かったのだ…。

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