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湯浅政明『犬王』(2022) 感想


2023/5/27土 アマプラで観た

トモナ(友魚)が友一(そして友有)になりロックミュージカル座をやり始めて以降、ずっと滑っていたかんじで非常にキツかった。

犬王のほうも同じで、序盤の片手長の異形態のときの踊りがいちばん良くて、それ以降のバレエやらストリートダンスやらを取り入れた踊りは特に何も面白みがなく、それと呼応するように次第に「正しい」人間としての四肢・身体を獲得していく犬王にとても失望した。

ただ、この友有座の音楽とダンスはおそらく意図的にあまり魅力的に見えないように演出されている節があると思う。だいたい同じリズム・メロディ・展開の、そこまで盛り上がらない音楽もそうだし、またカメラがありえないくらい動かない。ショーケースダンスの設置カメラかというくらい正面からの固定水平ショットで音楽と踊りをのっぺりと映し続ける。……これマジで何?? 

同じ展開を繰り返すのは犬王のダンスもそうで、リミテッドアニメーション的なものを押し出しているのか知らないが、立ったまま上半身を後ろに倒して地面につける動き(パンケーキという技)をそのまま逆再生して再び起き上がらせる、とか、ダンスの身体的な快楽ともアニメの映像的な快楽とも無縁の映像を見せられていた。

悲劇的な離別を遂げて数百年後、現代の街で再会した、少年期の友魚と犬王がふたりで奏でて踊るシーンでは「ちゃんと」普通のミュージカルアニメのようにカメラが動き、ふたりの姿をダイナミックに映していたので、やはりそれまでの禁欲的なまでの演出は意図的だと確信しているが、その狙いはまったくわからない。

ので、総じて、友有座ロックミュージカルが始まるまでの序盤はかなり好きで、通常シーンでの風景美術などの映像面も良く、また目が見えない友魚の一人称イメージショットの表現もすばらしかった。はじめがピークであとはどんどん盛り下がっていった印象。これは後半でようやくチューニングが合った『マインド・ゲーム』とは対照的だ。

友有座のパフォーマンスが苦手だった理由として、ロックのライブ・フェス的な文化が肌に合わないのは一つ挙げられるかもしれない。そんなに良いとは思えないような演奏を聞いて大衆がステージ前に集まってくるのもムカつくし、その観衆が一緒に手を叩いたり挙げたりする風習も苦手だし、それをアニメ映画の映像として魅せられてもまったく乘れない。

ダンスもこれと近しい話で、はじめの犬王の、人間の身体ではあり得ないような動きを野放図に自由に繰り出す踊りが見ていてかなりテンション上がったのに、なんかどんどん「知っている」普通の近代的なダンスの動きの模倣しかやらなくなってしまって、これが大衆産業か……となった。

あとは、まぁテーマとしてあるだろう、周縁化された失われた《歴史》・《物語》の再演・肯定……みたいなお行儀のよいお題目も、悪役が形骸的過ぎる故なのか、お行儀のよいお題目だなあとしか受け取れなかった。言いたいことが正しくても芸術としての強度が足りない。


それから、映像と音響のギャップについては着目すべきだろう。

序盤、友魚が琵琶法師の谷一に出会うシーン。はじめは(メタな)ナレーション的に琵琶の音色に合わせた語りが流れているが、友魚の主観ショットに谷一の存在が炎のように立ち現れて、ふたりが最接近することで "中断" し、その語りは作中人物のベタな位相にあったことが示される。たまによく見る演出技法である。

このシーンによって、この映画の音響・語りはすべて作中世界において鳴っているものなのかと思わせられるが、しかし、友有座のシーンでそれはすぐに裏切られる。明らかにロックが鳴っているのに、映像としては太鼓やら琵琶やらのみで、その音を鳴らしているはずのものは作中では描かれない。また、クジラの歌のステージのときにはデカい舞台照明が当たっていたが、そのような照明器具も描かれていない。

短絡的に「ちゃんと機材までリアルに描かなきゃダメだ!」と批判するわけではもちろんない。ないのだけれど、そうして見せられたステージ・パフォーマンスが滑っているとしか思えなかったので、そうなるくらいならば、いっそ、もっとフィクションとしての「嘘」を拡大させて、クソデカいアンプを橋の上に大量に並べたり、現代的な照明器具やらライブ設備やらを思い切って描いてしまったり、ついでに観客にいつの間にかしれっとサイリウム持たせるとかリストバンド付けさせるとかグッズタオル回させるとか、そういうおふざけがあっても良かったかな、と思う。

この映像と音響のギャップ、より正確にいえば「音が聞こえているのにそれを発している音源が見えない」演出は、むろん、友魚の目が見えない設定と絡めて解釈するのが批評的な王道だろう。ただ、これ以上掘り下げるモチベが今は特にない。。


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