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シンジケートローンを知っていますか(その2)

前回に引き続き、今回も資金調達に利用されるシンジケートローンについてです。今回はシンジケートローンにどんなメリットがあるのかについて解説します。


3. 貸付人(参加行)のメリット


 
シンジケートローンは、貸付人、借入人それぞれにメリットがあります。まずは、貸付人(参加行)のメリットについて説明しましょう。
 貸付人(参加行)のメリットは以下のようなものです。

  1. 取引関係のない企業への貸付ができる

  2. 標準的な契約書があり、銀行以外でも参加できる

  3. あらかじめ条件が固まっているので、経済条件が良ければ、参加表明するだけで融資することができる

  4. 貸付契約が売却を前提にしたものであるため、貸付金の売却が通常の金銭消費貸借契約と比較すると簡単である

  5. 面倒な事務手続や担保管理等をエージェントに任せることができる 


①取引関係のない企業への貸付ができる

これはシンジケートローンの参加行について最大のメリットといえます。

銀行が企業に融資するためには継続的な付き合いが必要です。事業内容、財務内容を知らない企業に融資はできないからです。全くの新規取引を開始しようとすると、企業の過去の決算書3期分を分析し、内部格付けを取得し、経営者と何度も面談を行ってはじめて融資することができます。

また、企業は既に付き合いのある銀行と取引します。なので、企業が新しい銀行と取引する機会はそんなにありません。銀行が取引関係のない企業へ融資するのは大変なのです。

シンジケートローンはアレンジャーの取引先ですから、その点は問題ありません。

②標準的な契約書があり、銀行以外でも参加できる 


シンジケートローンは標準的な契約書があります。
例えば、日本ローン債権市場協会(JSLA)は標準的な契約書を公表しています。

 
その標準的な契約書には、銀行が融資において利用する銀行取引約定書(銀取)の適用がありません。銀行以外の金融機関、例えば生命保険会社、ノンバンクや証券会社が協調融資するには銀取がやっかいなのです。

その点、シンジケートローンの標準的な契約書には銀取適用がありせんから、生命保険会社、ノンバンクや証券会社も参加ができます。
これは銀行以外の金融機関にとって収益機会となります。なので、シンジケートローンに参加するのは銀行だけではありません。

③あらかじめ条件が固まっているので、経済条件が良ければ、参加表明するだけで融資することができる

 
これはシンジケートローンの参加行にとって意思決定しやすくなります。
銀行が融資する際には、競争相手である他行と競いながら企業と条件を交渉します。
銀行の担当者は融資条件に幅をもって行内決裁をとります。もし、融資条件が他行との競争によって悪化した場合、行内決裁を取り直さないといけません。
シンジケートローンは予め条件が確定しており、参加表明するだけで融資できますから、銀行の担当者にとって楽なのです。

ちなみに、私が銀行員だったとき、シローンの担当者が書類を机の上に大量に放置しているのを発見しました。その時の会話がこんな感じです。
 
「その案件、やらないんですか?」
「あー、これ? やらないかなー。ちょっと収益性が悪いから」
「じゃあ、断ったんですね?」
「まだ。だって、資料貰ってから2日しかたってない。1週間くらいして断らないと『コイツ検討してねーなー』と思われて、次から案件紹介してくれなくなるでしょ?」
「なるほどー」
 
シンジケートローンのタームシートは約1週間担当者の机に置かれ、その後、お断りの電話をするのでした。

 ④貸付契約が売却を前提にしたものであるため、貸付金の売却が通常の金銭消費貸借契約と比較すると簡単である

標準的なシンジケートローンの契約書は売却することを前提にしています。これは、アレンジャーが一旦全額融資した後、参加行に売却するケースがあるためです。JSLAには標準的な譲渡契約もあります。

株式市場のように簡単に売却できませんが、一般的な金銭消費貸借契約と比べると、各段に売却がしやすいのです。

ちなみにシンジケートローンは双務契約である場合があり、債権譲渡ではなく地位譲渡となる場合があります。なので、「債権譲渡」とは書かず「譲渡」や「売却」と書いています。
ここで説明すると長くなるので、後で説明します。

⑤面倒な事務手続や担保管理等をエージェントに任せることができる


融資期間中、貸付人にはいろんな作業があります。借入人から決算書や月次報告書を入手したり、自己査定、担保評価などをしなければいけません。シンジケートローンの場合は会社との窓口はエージェントですから、参加行は事務的な手続きの大部分をエージェントに任せることができます。借入人の決算書や月次報告書はエージェント経由で入手すればいいし、担保評価もエージェント経由で入手すればいいでしょう。

 
ちょっと長くなってしまったので、今回はここまでです。
次回は「4.貸付人(アレンジャー)のメリット」から解説します。

<その3に続く>

<その1はこちら>

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なお、シンジケートローンについて詳しく知りたい人は下記の書籍を参考にして下さい。

【金融マンのための実践ファイナンス講座】

【金融マンのための不動産ファイナンス講座】


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