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映画『スーパーサイズ・ミー』『スーパーサイズ・ミー2:ホーリーチキン!』で学ぶ「自我消耗とハロー効果」

この記事では,みなさんと映画をベースに社会科学の概念を学んでいきます.ぜひ,映画を見てこのノートを読み,学術的背景に目を凝らしながら楽しんでください.

今回の映画は2作,『スーパーサイズ・ミー』,『スーパーサイズ・ミー2:ホーリーチキン!』です.


『スーパーサイズ・ミー』シリーズ

『スーパーサイズ・ミー』(以下『1』と省略)は,監督のモーガン・スパーロックが「30日間,マクドナルドで食事をし続けたら心身にどういう変化が現れるのか?」を体当たりで行った映画です.

モーガンはその過程でファストフードやアメリカの食品産業がどのようにして人々を不健康にし続けてきたのか,そして彼らがいかに顧客に対して不透明,不誠実な経営をしているのか,さらにはそれを食べる人々がいかに自らが日々食べている食事がもたらす不健康に関して無関心か,暴いていきます.実験当初は医者ですらファストフードの危険性を理解していなかったのです.

『1』から10年以上経過し,アメリカの人々は健康を気にするようになりました.フィットネスは一大産業となり,ファストフードでも「健康」は重要なキーワードになりました.あのマクドナルドでさえも,サラダを扱い始めたのですから,ファストフード業界の「健康」への意識は,かつてと比較すると段違いに高くなったことが伺えます.

しかし,モーガンは疑問を持ちます.果たして本当にファストフード業界は健康に気を使っているのだろうか? そこで,モーガンは彼自身が「問題の一部」になることで,つまりファストフード店を始めることで,その答えを見出そうとします.それがシリーズ2作目『スーパーサイズ・ミー2:ホーリーチキン』(以下『2』)です.

『2』では,モーガン自らフライドチキンサンドを中心とするファストフード店を経営します.その過程でわかったことは,ファストフード店はあまり変わっておらず,さらには養鶏産業の寡占がもたらす歪みも垣間見えました.モーガンは,これらのことを踏まえて「徹底的なまでに透明性の高いファストフード店」をオープンします.

モーガンの体当たりの取材や実践は,強烈な説得力をもって私達に現実を突きつけます.『1』では,その身体的な変化を通じて,『2』ではマーケティング戦略やロビー団体からの圧力を通じて,ファストフードを取り巻く状況を重みをもって示します.

今回のnoteでは,映画に登場する・関連する認知バイアスについてご紹介します.認知バイアスとは,私たちがなにかを感じたり,考えたりするときに生じる傾向です.一言で言い換えれば「感じ方・考え方のクセ」です.認知バイアスは心理学や行動経済学でよく研究されています.今回は2つの認知バイアスを紹介します.

認知バイアスその1:自我消耗――疲れとファストフードの悪い関係

まずは「なぜファストフードを食べるのか」から考えてみましょう.すぐ食べられるから,安いから,おいしいから,などなどポジティブな理由もあるでしょう.『1』の中ではビッグマックの味に感動して,毎日ビッグマックを食べ続ける男性が取り上げられていましたね.

モーガンはネガティブな面にも注目します.彼は,ファストフードが中毒性の高い食材(砂糖や脂質など)が多く使われていることを指摘します.どんどん大きくなるドリンク・ポテトのサイズも強烈なものでした.

では,あなたがファストフードを食べるのはどのようなときでしょう.急いでいるとき? それとも,お金がないときでしょうか? ひょっとしたら仕事帰りではないでしょうか?

たとえば,あなたが仕事でくたくたに疲れているとしましょう.おなかもぺこぺこです.道中,2つのお店が並んでいるのを見つけました.片方はクリスピーチキンに野菜をふんだんに使った「オーガニックフレッシュ野菜のクリスピーチキンサンド」を提供しているお店です.もう一方はジューシーな肉とトロトロのチーズを使った「肉汁爆発チーズバーガー」を出すお店です.さて,あなたはどちらのお店を選ぶでしょうか?

体に悪そうな肉汁爆発チーズバーガーの誘惑をあなたは振り切れるでしょうか? きっと難しいでしょう.これは自我消耗という現象と密接に関連します.自我消耗は,人が意思決定したりする際に消費するリソースのようなものがあり,それが枯渇すると意思をコントロールできなくなる,という現象です.さきほど「肉汁爆発チーズバーガー」を我慢できなかったのも,自我消耗によるものです.

認知バイアスその2:ハロー効果――「健康そうな言葉」がもたらす後光

『2』では,ファストフード店が健康を意識し始めたのか,ということを確かめるために,モーガンは実際に広告プランナーと一緒に店舗を回ります.そこで目にするのは,『1』の時代(2000年代前半)に比べて,店舗の内装もメニューも大幅に変わったファーストフード店でした.

まず店舗の内装はかつてのチープに見えたものから一変しました.木目調を中心とした自然な「感じ」のあふれるものになりました.高級「感」のある黒を基調とした内装,そして壁面やメニューには「フレッシュ」「オーガニック」「手作り」「注文を受けてから作ります」「クリスピー」などの「健康そうな」あるいは「きちんとしてそうな」単語が並びます.

しかしそんなことはありません.先ほど,2つのお店の例を出しました.「オーガニックフレッシュ野菜のクリスピーチキンサンド」は一見健康そうな料理に見えますが,よく考えてみてください.クリスピーチキンは要するにフライドチキンです.フライドチキンに申し訳程度の野菜を挟んでも,何の気休めにもなりません.つまり,不健康なのです.

私たちは「オーガニックフレッシュ野菜のクリスピーチキンサンド」をなぜ健康だと錯覚したのでしょうか.その理由はハロー効果で説明できます.ハロー(Halo)とは聖人の後ろから指す光,後光を指します.後光のように,何か優れた(ように見える)1点によって,他の部分にも同様の効果があるように見える現象をハロー効果と言います.特に,『2』では「健康ハロー効果」として説明されていました.

「オーガニックフレッシュ野菜のクリスピーチキンサンド」では,オーガニック・フレッシュ・野菜・クリスピーがハロー効果をもたらします.特に前半3つは健康的な言葉が並びます.この言葉の後光は「フライドチキンを食べている」という現実を覆い隠し「オーガニックで新鮮な野菜を食べているからヘルシーだ」という認識を生み出します.「クリスピー」という言葉もまた「油で揚げている」という事実を「サクサクしている」というポジティブな食感によって隠すのに役立ちます.

本当に自分の意思で食べている?

ここまでくるとファストフードを自分の意思で食べているのか,だいぶ不安に思えてきます.つまり,自分の心身の状態とマーケティング戦略に影響されて,自分が本当は食べたくないものを食べている可能性が浮かび上がってきます(もちろん選んで食べることもありますが).

こういった認知バイアスの影響は避けられませんが,知ることで緩和することができます.健康に気を使っているみなさんは,ファストフード店に入るときに,自分はなぜ入ろうとしているのか,問い直してみるといいかもしれませんね.

このnoteは以下の本を参考にしています.より詳しく知りたい方はぜひよんでみてください.


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