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おいしい「段落」の作り方:パラグラフライティングのすすめ

このnoteでは,より良い文章を書くためのポイントを話していきます.レポートや論文,報告書や企画書を書く上でのヒントにしてください.

今回は「文章のまとまりがよくないと言われた」という方へ,「段落」を考えます.

段落のないレポートは読みにくい

私は職業上,数多くのレポートを目にします.そしてレポートの中には,段落がまったくないものがしばしばあります.メールを通じて「読者のことを考えて書く」ことを考える編でも議論しましたが,読者に対する読みやすさを考えると適度な区切りが求められます.

無軌道な段落も読みにくい

文章の区切りとして段落が用いられます.通常,レポートや論文などの正式な文章では,一字下げて用いられます.一例を見てみましょう.

 社会にはさまざまな問題が存在する.たとえば,駅の近くや道端に佇んでいるホームレスは目に見える社会問題だろう.社会問題がどのようにして生じるのか明らかにするのが社会学である.また,社会問題という目立つ対象だけでなく,日々の生活や行動を成り立たせる条件を明らかにするのも,社会学の守備範囲だ.

この一連の文章は一字下げで始まっているので,形式上は段落です.しかし,この段落を読んで少し雑然とした印象を持つのではないでしょうか.この段落をどういう視点を持って,どのように改善するのか,少し考えていきましょう.

段落とはハンバーガーである

今回の話を一言で言えば「段落はハンバーガーをイメージして書くこと」です.ハンバーガーは一つのテーマに沿った具材がバンズに挟まれています.この形こそが段落の理想形になります.

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このような段落構成の書き方をパラグラフライティングといい,英文を作成する際に必ず学ぶ文章術です.

段落でも「一文一義の原則」を貫く

まず,前提として段落に対しても「一文一義の原則」を適用しましょう.文章(1センテンス)における「一文一義の原則」では「一つの文章には,一つの意味を」が合言葉でした.

段落では「一つの段落には,一つのトピックを」が合言葉になります.トピックとはまとまった内容を指します.ハンバーガーは一つのテーマの下に具材が調和して挟まっています.フィッシュバーガーにビーフパティはふさわしくありません.トピックに合わせて,中に挟む具=文章も厳選する必要があります.

最初に例示した段落をみてみましょう.どうやらこの段落のトピックは「社会問題」のようにみえます.しかし,別の文章を見ると「社会問題」を例示して「社会学」の説明をしているようにもみえます.しかも最後には「社会学」の説明を「日常生活」からしようとしているようにもみえます.この段落は複数のトピックが混ざっており,読者を混乱の渦に陥れます.

さしあたり,この段落では「社会学の対象としての社会問題」をひとつのトピックとしましょう.トピックを整えるために,最後の文章「また,社会問題という……」は日常生活を議論しているので,別の段落として独立させます.以後,上の段落に注目します.

 社会にはさまざまな問題が存在する.たとえば,駅の近くや道端に佇んでいるホームレスは目に見える社会問題だろう.社会問題がどのようにして生じるのか明らかにするのが社会学である.
 また,社会問題という目立つ対象だけでなく,日々の生活や行動を成り立たせる条件を明らかにするのも,社会学の守備範囲だ.……

トピックセンテンスで見通しをよくする

段落がどのようなトピックを扱うのか,ひと目でわかるようにトピックセンテンスを段落頭に書きましょう.トピックセンテンスとは,その段落で述べたいことを表した一文で述べた文章です.ハンバーガーで言えば,上のバンズに当たります.

さきほどの段落を見返すと,最初の文章は「社会にはさまざまな問題が存在する.」になります.しかし,この文章のトピックである「社会学の説明」と一致しません.

 社会にはさまざまな問題が存在する.たとえば,駅の近くや道端に佇んでいるホームレスは目に見える社会問題だろう.社会問題がどのようにして生じるのか明らかにするのが社会学である.

改善策は文頭の文章を,段落のトピックに合わせてトピックセンテンスに置き換える必要があります.たとえば,こんな文章はどうでしょう.

 社会学の対象の一つは社会問題である.社会にはさまざまな問題が存在する.たとえば,駅の近くや道端に佇んでいるホームレスは目に見える社会問題だろう.社会問題がどのようにして生じるのか明らかにするのが社会学である.

トピックセンテンスを配置することで,非常に見通しのよい段落となります.これは,読者への配慮としても,とても重要です.何が書かれているか見通しの悪い文章を読むと,読者は少なからず気が滅入り,読むのを放棄してしまう恐れがあります.段落によって文章を区切り,トピックセンテンスを置くだけで,文章が読まれる確率はグッと上がります.

サポートセンテンスで説得力をつける

ハンバーガーはバンズがなければハンバーガーではありません.しかし,かと言ってバンズだけでもハンバーガーとはいえません.パティやレタス,トマトやチーズが挟まって初めてハンバーガーと呼ばれる料理を形作ります.これと同じようなことが,段落にもあてはまります.

トピックセンテンスにはそれを支えるサポートセンテンスが必要不可欠です.サポートセンテンスには,トピックセンテンスを支える具体例や補足,根拠を述べます.

先程の段落を見てみましょう.ちょうど,トピックセンテンスの次にあるのがサポートセンテンスであるといえます.このサポートセンテンスは例示がしてあって,よさそうに見えます.

 社会学の対象の一つは社会問題である.社会にはさまざまな問題が存在する.たとえば,駅の近くや道端に佇んでいるホームレスは目に見える社会問題だろう.社会問題がどのようにして生じるのか明らかにするのが社会学である.

しかし,この例示は少し不十分です.なぜなら,この段落のトピックは「社会学の対象としての社会問題」である一方で,例示されているのは「社会問題」の例だからです.つまり,社会問題と社会学の関連を示すような例示でないといけません.この場合,もう少し書き足してあげると,例示が活きてきます.

 社会学の対象の一つは社会問題である.社会にはさまざまな問題が存在する.たとえば,駅の近くや道端に佇んでいるホームレスは目に見える社会問題だろう.ホームレス問題には,福祉社会学,都市社会学や社会階層論など複数の社会学の領域がなぜ生じるのか,どのような解決策があり,どのような効果が確認されたのかを明らかにしようと研究している.社会問題がどのようにして生じるのか明らかにするのが社会学である.

社会学の各領域と社会問題のつながりを明確にしたことで,ホームレス問題という例示がトピックセンテンスとつながりました.サポートセンテンスがきちんとトピックセンテンスを支えています.

コンクルーディングセンテンスでまとめる

ハンバーガーは上下にバンズがついています.下のバンズがないと,挟めるものも挟めません.段落にとっても最後の文章をしくじると伝わるものも伝わりません.

コンクルーディングセンテンスは段落の最後にくる文章を指し,大きく2つの機能を持ちます(どちらか一方の機能をもたせれば十分です).
 1. 段落の内容をまとめる機能
 2. 次の段落につなげる機能
さきほどの段落だと太字の部分がコンクルーディングセンテンスにあたります.

 社会学の対象の一つは社会問題である.社会にはさまざまな問題が存在する.たとえば,駅の近くや道端に佇んでいるホームレスは目に見える社会問題だろう.ホームレス問題には,福祉社会学,都市社会学や社会階層論など複数の社会学の領域がなぜ生じるのか,どのような解決策があり,どのような効果が確認されたのかを明らかにしようと研究している.社会問題がどのようにして生じるのか明らかにするのが社会学である.

この文章はまとめとしては十分ですが,内容に即して少し変えればよりよいものになります.

 社会学の対象の一つは社会問題である.社会にはさまざまな問題が存在する.たとえば,駅の近くや道端に佇んでいるホームレスは目に見える社会問題だろう.ホームレス問題には,福祉社会学,都市社会学や社会階層論など複数の社会学の領域がなぜ生じるのか,どのような解決策があり,どのような効果が確認されたのかを明らかにしようと研究している.このように社会問題を複数の視点からアプローチすることが,社会学の一側面として存在する.

一方,次の段落へのつなぎとして文章を用意するのであれば,以下のように前フリを置くとよいでしょう.

 社会学の対象の一つは社会問題である.社会にはさまざまな問題が存在する.たとえば,駅の近くや道端に佇んでいるホームレスは目に見える社会問題だろう.ホームレス問題には,福祉社会学,都市社会学や社会階層論など複数の社会学の領域がなぜ生じるのか,どのような解決策があり,どのような効果が確認されたのかを明らかにしようと研究している.このように,社会学の射程には社会問題が入っているが,このような目立つ対象だけではない.
 日々の生活や行動を成り立たせる条件を明らかにするのも,社会学の守備範囲だ.……

このようにまとめたり,次の段落への前フリをすることで,段落全体がまとまった印象を与えます.また,書き手としても段落のトピックから逸脱した文章を書くことを防ぐことができます.

パラグラフライティングのすすめ

段落を意識して書くことで,とても伝わりやすい文章を書くことができます.日本語のテキストでは木下(1981)がよくまとまって書かれていますので,ぜひ参照してみてください.

参考文献
  木下是雄,1981,『理科系の作文技術』中公新書.


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