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標高2250mの街で暮らすということ

メキシコシティは富士山5合目とほぼ同じ高さに位置している。

引越しが決まったあとこの事実を聞いても、私はまだ高地に暮らすということが自分の生活にどのように影響するのか、よくわかっていなかった。

ただ、メキシコシティでの生活を経験された方からの「圧力炊飯器と圧力鍋はぜひ持って行った方が良い」というアドバイスに従い、ドタバタの引越し作業の中で、昔使っていた圧力炊飯器を引っ張り出し、また父が貯めに貯めていたスーパーのポイントを使わせてもらって圧力鍋も手に入れ、なんとかどちらも引越し荷物に入れることができた。

今となっては我が家の暮らしはこの2つの神器に支えられていると言って間違いないので、アドバイスを下さった方にも父にも本当に感謝である。

高地は気圧が低いため、お湯が低温で沸騰してしまう。そう説明されて、「それは早くお湯が沸いて便利だね。」と言ったら、夫にとても軽蔑した目で見られた。もちろんそうではない。低温で沸騰してしまうので、たとえば普通の鍋で普通に麺を茹でても『芯は硬いのに表面は茹だりすぎてぐずぐず』の絶妙に不味い仕上がりになる。炊飯も同じだ。

ここで威力を発揮するのが圧力神器だ。まず圧力炊飯器。米3合を炊くなら3.5合分、4合なら4.8合分の水を入れて普通に炊飯スイッチを押すだけで日本と同じ表面ツヤツヤのふっくらご飯が炊き上がる。

そして圧力鍋。満水の3分の1まで水を入れて沸かし、パスタを入れ少し柔らかくなったら湯の中に麺を沈めて蓋を閉め圧をかける。高圧状態になったら火をつけたまままま2分放置し、火を消してさらに5分放置する。それから圧力弁を少しずつ開け、完全に脱圧されたら蓋を開ける。これでツルツルモチモチのアルデンテに仕上がる。

シンクが広ければ鍋ごと水で冷却でき安全かつ楽に脱圧できるが、我が家のシンクはとても狭いので長いトングの先端でおそるおそる圧力弁を動かしながら毎回身体を張って脱圧している。洗い物も含めて面倒といえば面倒だが、表面ぐずぐず麺の不味さを思い出せば特に苦にならない。うどんや蕎麦も茹で時間を調節すれば美味しく茹であがる。

今でこそ慣れたが、初めてうどんを茹でた時は、圧力弁を一気に開けすぎてやや塩気のある熱湯の噴水がキッチン中に飛び散り、突然の騒ぎに娘も泣き出し、夫と分担しながらなんとか後片付けをして、ようやく出来上がったのがただのざるうどん、というなんとも残念な感じだった。

料理以外でも、空気が薄さによって眠りが浅くなったり、息が苦しくなることがあっておかしくないようだが、私は横で眠る娘が気になってもともと眠りは浅く違いが分からず、また中高大学のバスケ部で鍛えた肺機能のおかげで呼吸に違和感を感じることも滅多にない。

夫も「低地の方が絶対眠りが深い気がするんだよねー。」と言いながら毎晩ストンと寝落ちしており、娘が泣いても全然起きない。そして1歳になったばかりの娘は今日も、自分が標高2250mにいるとも知らず、誰より大きな声で元気に叫んでいる。

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