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【写真エッセイ】メキシコ最大の祭り「死者の日」を彩るマリーゴールド

一年に一度メキシコが最も盛り上がる季節が、今年も終わりを告げた。"Día de Muertos"(ディア・デ・ムエルトス)、「死者の日」だ。

映画『リメンバー・ミー』によって世界に広く知られたこの祭りを、メキシコの人々は昔から変わらず愛し、守り続けている。

そんな「死者の日」には、いくつもの伝統がある。なかでも欠かせないのが太陽のように輝く花、マリーゴールドだ。今回は、スペイン語でcempasúchil(センパスチル)と呼ばれるこの花のことを写真とともに紹介しようと思う。

「死者の日」の伝統

カレンダー上の「死者の日」は、11月1日と2日。けれど10月の半ばにもなると、街は祭りの装いをはじめ、誰もがそわそわと浮足立ってくる。

パン屋というパン屋の店頭には、祭りで食べる伝統のパン、"パン・デ・ムエルト"が並び、レストランやカフェの入口には、華やかなメキシコの民族衣装を身にまとったガイコツの人形や、"パペル・ピカド”と呼ばれるカラフルな切り絵が飾られる。

そして最も美しく、この祭りの象徴とも言えるのが、死者の魂を迎えるために作られる祭壇、"オフレンダ"だ。

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カラフルなメキシコ伝統の布の上に、故人の写真、生前好んだ食べ物、ガイコツの置物などが並べられたオフレンダは、どれも美しく、同じデザインのものは二つとない。

そんなオフレンダにかならず飾られるのが、マリーゴールドの花だ。メキシコ政府のHPによれば、マリーゴールドのオレンジ色を太陽に重ねた先人たちが、死者の「里帰り」の際の道しるべとして、オフレンダにこの花を飾るようになり、その伝統がいまも続いているという。

大切なマリーゴールドを守るために

10月に入れば、メキシコ国内のどこのスーパーにもマリーゴールド売り場ができる。鉢ひとつがおよそ30ペソ(約170円)。しかし、物流業者やスーパーの取り分を考えると、生産者の手元に残る売り上げはごくごく僅かであろうことは容易に想像がつく。

そこでメキシコシティでは、「死者の日」に欠かせないこの花と生産者を守ろうと、数年前から新たな取り組みが行われている。死者の日の祭りに先立ってマリーゴールドの青空市場を作り、生産者と消費者が直接「適正価格」で売り買いできる機会を設けているのだ。

「フェスティバル・デ・センパスチル」(「マリーゴールド祭り」)と名づけられたこの青空市場は、メキシコシティの2か所で、およそ1週間に渡って開かれた。

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メキシコシティから南におよそ20km、車で約1時間ほどのところにソチミルコという地区があるが、今回の市場に並んだマリーゴールドは、その地区内の小さな村から運ばれてきたものだという。花はどれも大きく、こんもりと丸く美しい。1鉢30~40ペソ(約170~220円)で売られ、手入れをすれば1か月半ほど枯れずに咲き続けるそうだ。

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売られているのは鉢植えだけではない。マリーゴールドの花びらも袋売りされている。オフレンダの前に花びらを敷き詰め、魂が通るための「道」を作る家もあるのだ。

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ソチミルコからやって来たという店の青年に、パンデミックによって2年ぶりの開催になった"マリーゴールド祭り"について聞くと、笑顔でこう話してくれた。「この祭りをまた迎えられて嬉しいよ。僕たちが暮らす街まで買いに来てくれるお客さんは少ないけれど、この祭りのおかげで、たくさんのお客さんたちに僕らのマリーゴールドを買ってもらえるし、知ってもらえるんだ」

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色あざやかなマリーゴールドの鉢の横には、「死者の日」にちなんだおもちゃやアクセサリーを売る店、フェイスペインティングを施してくれる店が並び、祭りの雰囲気を盛り上げていた。

太陽のようにあかるく、ろうそくの炎のように温かく輝き、死者の魂を導いてくれる花、マリーゴールド。「死者の日」の祭りには欠かせないこの花は、メキシコの人々から深く愛されている。

また来年もきっと、この国は美しいオレンジ色に染まるだろう。染まってほしい。

秋晴れの空の下、2年ぶりの祭りに沸く街とそれを静かに見守るマリーゴールドを眺めて、心からそう願った。

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