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展覧会 #05 デ・キリコ展-不思議の世界へ、ようこそ-@東京都美術館

ジョルジョ・デ・キリコ(1888年~1978年)の芸術の全体像に迫る回顧展。
初期から晩年まで100点以上が出品していて、特に初期の形而上絵画」は世界各地に散らばっているため、まとめて見られる貴重な機会となっています。


SECTION 1 自画像・肖像画

弟の肖像》(1910年)や、後に妻となる女性を描いた《》(1935年)では背景に神秘的な風景が描かれていて、「形而上絵画」につながる雰囲気が感じられました。

SECTION 2 形而上絵画

形而上絵画」という名称は批評家や研究者が付けたのではなく、自身で名付けたことを初めて知りました。

イタリア広場

イタリア広場の赤い塔を描いた作品では濃紺または深緑から黄色のグラデーションで描かれた空が印象的で、作品の神秘的な異世界の雰囲気を演出しているように思えました。

《沈黙の像(アリアドネ)》1913年
《バラ色の塔のあるイタリア広場》1934年頃

形而上的室内

ここでも背景は背景は深緑から黄色のグラデーションの空。
ギリシャ彫刻や古代ローマの神殿建築の断片、定規や製図に使われそうな道具、数学を連想させるモチーフ、そしてビスケット。

セクションの解説では、第一次世界大戦で配属されたフェッラーラの町にあるユダヤ人街の店で売られていたビスケットがモチーフになっていると書かれていました。

無機質なモチーフに囲まれたビスケットがほっこりと和む存在で、なんとなく遊び心を感じました。

《球体とビスケットのある形而上的室内》1941年

マヌカン

人間をかたどった人工的な模型であるマヌカンは、デ・キリコの作品をイメージすると真っ先に思い浮かぶモチーフです。
存在の意味を探究する人間の神秘的な側面を具現化する登場人物として画面に現れているという解説を読んで初めてその意味を知りました。

1910年代から1970年代までの長い間に繰り返し描かれていて、重要なモチーフであることが分かります。
時代によって人間に近い姿になったり、ギリシャ彫刻と融合したような形になったり、描き方に変化が見られることが面白いと感じました。

《預言者》1914-15年
《形而上的なミューズたち》1918年
《南の歌》1930年頃
《不安を与えるミューズたち》1950年頃
《ヘクトルとアンドロマケ》1970年

SECTION 3 1920年代の展開

1920年代に取り組んだ新しい主題のひとつである「室内風景と谷間の家具」では、室内に建物があったり、逆に戸外に家具が置かれていたり、それまでとは一味違う非現実の世界が描かれていました。

戸外に置かれた家具。細長く引き伸ばされた椅子が窮屈な感じを与えます。椅子自体が人間のように見えてきて、向かい合って話をしているように思えました。

《谷間の家具》1927年

SECTION 4 伝統的な絵画への回帰―「秩序への」から「ネオ・バロック」へ

1920年ころからルネサンス期の作品、1940年代にバロック期の作品に傾倒し、西洋の古典絵画へ回帰した時代があったことを初めて知りました。

時代によって変化していく主題やモチーフの描き方の背景に、過去の巨匠の作品の表現や主題、技法の研究があることを知って、デ・キリコの作品により深く触れるきっかけを与えられました。

SECTION 5 新形而上絵画

亡くなるまでの10年余りの期間に制作された作品では、過去に描いてきたモチーフを画面の中で統合して、過去の作品を再解釈したような新しい表現が生まれました。

《イタリア広場》が飾られた室内。
ここでも椅子が人間ぽく見えて、家具はギリシャ神殿のように思えました。
中央に広がる海と舟を漕ぐオデュッセウス。
海が室内に敷かれた敷物にも見えて、日常の空間に幻視的な景色が重なった世界が広がっていました。

《オデュッセウスの帰還》1968年

鑑賞を終えて

自分はこれまでデ・キリコと言えば「形而上絵画」のイメージだけで、それ以外の作品を見る機会はありませんでした。

今回の展覧会では、初期から晩年までの作品とセクションごとの解説を読むことで、作品の背景にある画家の人生に触れることができました

これまでただ不思議な世界、という表層的な見方しかできていませんでしたが、ニーチェ哲学の影響や西洋の古典絵画の研究などがその背景にあることが分かって、今後はそれを踏まえて作品に向き合うことができると思いました。

当時の芸術運動から距離を置いて、周囲に左右されることなく自分を貫いた芸術家、デ・キリコは孤高の人だったのかなと思いました。

最後までお読みいただきありがとうございました。

展覧会DATA

「デ・キリコ展」
2024年4月27日(土)~8月29日(木)
東京都美術館
東京都台東区上野公園8-36
https://dechirico.exhibit.jp/


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