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お出かけ美術館 #01 ポーラ美術館(箱根)

4月下旬に箱根のポーラ美術館に行きました。

自宅の最寄り駅から電車を乗り継ぎ、小田急線の小田原駅から箱根登山鉄道に乗って終点の強羅駅へ。
強羅駅からは美術館の無料送迎バスに乗り、山道を進むこと約8分、目的地のポーラ美術館に到着しました。片道3時間半の小旅行。

美術館入口

美術館の入口はガラス張りで、木々の緑が映えてとても気持ちいい。

入口から1Fフロアに向かうエスカレーター

アトリウム ギャラリー

HIRAKU Project Vol.15 大西康明 境の石

エスカレーターを降りたところにあるアトリウム ギャラリーでは、過去にポーラ美術振興財団の助成を受けた作家を紹介する「HIRAKU Project」シリーズの第15回展覧会「大西康明 境の石」が開催されていました。

河原の石に銅箔を被せて叩くことで成型したボウル型のオブジェクトを組み上げて作り上げたインスタレーション作品。

アトリウム ギャラリーからガラス越しに見える野外彫刻。
楽しそうに飛び跳ねる犬が可愛い。

niŭ 《しあわせな犬》2016年

企画展「モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン」

企画展は1920年代~1930年代のパリを中心としたヨーロッパやアメリカ、日本における機械と人間との関係をめぐる様相を紹介するという内容。

企画展 展示室1 入口

第1章 機械と人間:近代性のユートピア

第一次大戦を機に航空機や自動車などの新しい機械が普及し、工場なども機械化されて産業の合理化が進んでいった。
経済を発展させていくために機械に未来を託し、機械を新時代の象徴として称揚する「機械時代」が到来した欧米では、機械の持つ動力やスピードに刺激を受けた美術家たちが、モチーフとして取り上げるようになった。

キスリング 《風景、パリ—ニース間の汽車》 1926年

第1章で取り上げられていた作家の中ではフェルナン・レジェの作品が多かった。

黄色、赤・オレンジ、緑とモノトーンで構成された色彩が印象的。
日常的なモチーフと機械のパーツを思わせるオブジェクトが組み合わされている。
輪郭線が強いので全体にカチッとした印象で、オブジェクトの重量感があるなと思った。

フェルナン・レジェ 《鏡を持つ女性》 1920年

フェルナン・レジェ 《女と花》 1926年

この作品は幾何学模様なども加わり、面白い形が出来上がっている。
グレーの空間にオブジェクトが浮遊しているような感じが面白い。

フェルナン・レジェ 《青い背景のコンポジション》 1930年

これはまさに機械がモチーフになっている作品。印刷の輪転機かな?
ポスター広告になりそうなデザイン性とインパクトがあって面白い。

フェルナン・レジェ 《サンパ》 1953年

ロベール・ドローネーの作品は明るい色彩がいいなと思った。
全体の抽象的な描き方の中で人物のラインが割と判別しやすい。
少しだけ具象的な要素が入っているとそこにギュッと視線が集中して、そこを中心に周囲の風景が色々見えてきて楽しい。

ロベール・ド ローネー 《傘をさす女性、またはパリジェン ヌ》 1913年

カンディンスキーの作品は、描かれている要素を一つずつ追ってよく見ていくと次第に絵画の空間が広がって、いろいろな景色が見えてくる。

ワシリー・カン ディンスキー 《支え無し》 1923年

この作品は優しいパステル系の色彩に惹かれた。
ゲームのキャラクターみたいなものがくねくね動き回っているみたいで、楽しくて可愛い。

ワシリー・カン ディンスキー 《複数のなかのひとつの像》 1939年

第2章 装う機械:アール・デコと博覧会の夢

第2章ではルネ・ラリックの香水瓶が多く展示されていた。
植物をモチーフにした作品がとても素敵で、100年前に作られたデザインが今もなお魅力的に輝いていた。

ルネ・ラリック 《香水瓶「ル・リス(百合)」》 制作会社:ドルセー社 1922年頃原型作
ルネ・ラリック 《香水瓶「パクレット(ひな菊)」》 制作会社:ロジェ・エ・ガレ 社 1919年頃原型作

アールデコ時代のファッションや建築・インテリアなどが紹介されている中で、ソニア・ドローネーファッションデザイン画が素敵だった。

ポスターも色々展示されていてその中の一つ、ヴォワザン社の自動車広告ポスターがエレガントで素敵。

ルネ・ヴァンサ ン 《ポスター「ヴォワザン」》 1925年頃

こちらは100年前のパリオリンピックのポスター

ジャン・ドロワ 《ポスター「PARIS-1924 第8回パ リ・オリンピック大会」》 1924年以降

第3章 役に立たない機械:ダダとシュルレアリスム

1910年代から1920年代には機械の発達による近代化の一方で、それに対する抵抗も生まれた。芸術のシステムや機械時代の合理主義を批判的に捉え、新たな造形表現を生み出す芸術運動が起こった。

第3章で紹介されていたダダやシュルレアリスムの作品の中にポール・デル
ヴォー
の作品2点あり、久しぶりにデルヴォーの作品に出会えて嬉しかった。
ちょっと癖のある独特な空想世界は孤独や心の影を映し出しているように思えて、一度見るとその印象が心に残る。

パリの名所をテーマに制作されたラウル・デュフィの油彩画。
一日の4つの時間帯を表している。全体で見てもまとまりがあって、縦長の画面が連なる様子は日本の屏風を連想させる。

ラウル・デュフィ 《パリ》 1937年

鑑賞の合間にカフェでお食事

コレクション展の前半を見終わったところで館内のカフェ チューンでランチ休憩。

天井から光が差し込み、ガラス越しに新緑の森が望める開放的で気持ちのいい空間。

ハムとベーコンのホットサンド

溶けたチーズにハムとベーコンの塩味、トマトの酸味とシャキシャキレタスがベストマッチ。美味しくいただきました。

第4章 モダン都市東京:アール・デコと機械美の受容と展開

第4章では大正~昭和初期の日本のモダンデザインや前衛芸術の作品が紹介されていた。

先日訪れた東京都写真美術館コレクション展でも取り上げられていた杉浦非水の作品が展示されていて、写真美術館とは違う作品が見られたのが嬉しい。

杉浦非水 《ポスター「萬世橋まで延⾧開通 東京地下鉄道」》 1929年(昭和 4年)

山田伸吉の映画ポスター。
1920年代の映画広告で流行した「キネマ文字」や「活動文字」と呼ばれる図案文字が使われていて、文字の装飾性で魅せる広告のデザインが素敵だなと思った。

山田伸吉 《ポスター「禁断の楽園」》発行: 松竹座 1925年(大正 14年)

前衛芸術では古賀春江瑛九の作品が印象に残った。

古賀春江の作品はこれまでいくつか見たことがあるけれど、今まで見た作品よりも空間が広くてすっきりした印象で、抑制された静寂や緊張感を感じる。
今まで見たものよりこの2点のほうが好みかも。

古賀春江 《現実線を切る主智的表情》 1931年(昭和 6年)
古賀春江 《白い貝殻》 1932年(昭和 7年)

瑛九(えいきゅう 本名:杉田秀夫)の作品を最初に見たのは、数年前に東京国立近代美術館のコレクション展で特集展示されていた時。
それ以来何となく心に残っている作家で、久しぶりにまとまった点数を見ることができて嬉しい。

フォト・コラージュの作品が11点展示されていた。
建築物やファッション写真、動物や風景など様々な写真の切り抜きで画面を構成している。
形とその配置が画面に躍動感を与えて、形の意味とか考える前にとにかく楽しく見られる作品。

瑛九 《フォト・コラージュ》 1937年
瑛九 《フォト・コラージュ》 1937年
瑛九 《フォト・コラージュ》 1937年
瑛九 《フォト・コラージュ》 1937年
瑛九 《フォト・コラージュ》 1937年
瑛九 《フォト・コラージュ》 1937年

エピローグ 21世紀のモダン・タイムス

最後の章で時代は現代に戻り、デジタル時代の視覚性をテーマに制作を行うアーティストの作品が紹介されていた。

マジックミラーの箱の中に女性型のロボットを配した立体作品が3つ、暗い室内に置かれている。
前章から時代を飛び越えて、一気に近未来の空想世界に連れ込まれた感覚。
頭が追い付かなくて思考停止になり、ただ茫然と眺めていた。

空山基 《Untitled_Sexy Robot type II floating》 2022年

最後にラファエル・ローゼンタールの作品。

前に立つと画面に飲み込まれそうな感じがする。
レンチキュラーという表面に小さな凸レンズがたくさん並んだシート状の素材を使っているようで、見る角度が変わると色彩が変化して見える。
画面に自分が全然映り込まないのも新鮮な感覚。
画面の中に閉じ込められた色彩が鑑賞者に呼応するように見せ方を変えていく、不思議な作品。

ラファエル・ ローゼンダール 《Into Time 23 10 07》 2023年

コレクション展

ポーラ美術館コレクション選(展示室3)

コレクション選では印象派から20世紀前半のフランス絵画と、特集展示で藤田嗣治の作品が展示されていた。

ベルト・モリゾの作品は、温かい雰囲気で子供への優しい眼差しを感じる。

ベルト・モリゾ 《ベランダにて》 1884年

クロード・モネの作品が一番多くて、5点展示されていた。
明るい日差しと爽やかな風を感じる、この日の天気にピッタリな一枚に目が留まった。

クロード・モネ 《散歩》 1875年

そして、モネと言えば睡蓮
池にかかる橋や周囲の木々を描いていて、睡蓮オンリーのものより好きかもしれないと思った。

クロード・モネ 《睡蓮の池》 1899年

レオナール・フジタ ― 「乳白色の肌」の秘密
レオナール・フジタ(藤田嗣治)
が1920年代に到達した「乳白色の肌」の目的と表現手法の関係性について考察する特集展示。

ここで展示されていたのは《ベッドの上の裸婦と犬》1921年、《坐る女》1921年、《横臥裸婦》1931年、《イヴォンヌ・ド・ブレモン・ダルスの肖像》1927年の4点。

関連作品として展示されていたルノワールの作品。
関連作品と比較して見ることによって、藤田嗣治が当時のヨーロッパ絵画にはない、独特の魅力を持った肌の色を生み出したことが分かる。

ピエール・オーギュスト・ルノワール《レースの帽子の少女》1891年

新収蔵:ゲルハルト・リヒター《ストリップ(926-3)》(展示室4) 

新収蔵作品である《ストリップ(926-3)》の初公開にあたって、リヒターの収蔵作品を紹介する展示。
照明を落とした暗い室内に3点の作品が展示されていた。

絵筆で写真の表面を擦ることでイメージをぼかす〈フォト・ペインティング〉の描法を使った作品。
写真と絵画の境界線を曖昧にしている感じが面白い。

ゲルハルト・リヒター 《グレイ・ハウス》 1966年

へらをつかって色彩を塗り重ねたり削り落とす作業をで生まれる痕跡をとどめた《抽象絵画》シリーズの一枚。
このシリーズからのちのストリップ ペインティングが生まれる。

ゲルハルト・リヒター 《抽象絵画 (649-2)》 1987年

そして、新収蔵の《ストリップ(926-3)》
ある一枚の《抽象絵画》をスキャンしたデジタル画像を細分化・再統合することで生まれた膨大な数のストライプ。

ゲルハルト・リヒター 《ストリップ(926-3)》 2012年

自身の絵画とデジタル技術を融合して新たな表現を獲得していく、リヒターの探求心と絵画の可能性への挑戦を感じる作品。

杉山寧(展示室5)

日本画家 杉山寧(すぎやま やすし 1909年~93年)の収蔵作品から20点を展示。

名前は知っていたけれど作品を見るのはたぶん初めてかもしれない。

日本画の他に色鉛筆やパステルで描かれた作品もあるけれど、共通しているのは濃密できめ細かくしっとりした絵肌の質感。
色彩の変化がとても繊細で美しい。

杉山寧 《薫》 1975年(昭和50年)
杉山寧 《洸》 1992年(平成4年)

こちらのギリシャ彫刻を描いた作品では色鉛筆が使われている。

杉山寧 《アクロポリスのコレー》 1980年(昭和55年)

下の2点の静物画はパステルで描かれている。

杉山寧 《芳》 1968年(昭和43年)
杉山寧《蜜柑》 1964年(昭和39年)

森の散歩道

国立公園の豊かな自然の中に佇むポーラ美術館。
美術館を囲む自然林の遊歩道を歩きながら野外彫刻を鑑賞することができます。
展示を観た後は、野外彫刻マップを片手に森を散策しました。

野外彫刻マップ

散策を終えて再びカフェへ

この日は天気が良くて、40分くらいの散策でちょっと汗ばむ陽気。
散策の後は再び館内のカフェで休憩。冷たいソフトクリームで心地よくクールダウン。

コーヒーゼリーソフト

まとめ

箱根の豊かな自然に囲まれて日常を忘れてゆったりと過ごせる美術館。
建物もすごく素敵で、ガラスを多用した建築は周囲の自然と溶け込むようなデザインになっている。
館内の展示室以外にも立体作品が設置されていて、自然林の野外彫刻も含めて展示室以外でも芸術に浸れる幸せな空間でした。

最後までお読みいただきありがとうございます。

展覧会Data

〈企画展〉
モダン・タイムス・イン・パリ 1925-機械時代のアートとデザイン
会期:2023年12月16日(土)~2024年5月19日(日)
会場:展示室1・2

〈アトリウムギャラリー〉
HIRAKU Project Vol.15 大西康明 境の石
会期:2023年12月16日(土)~2024年5月19日(日)
会場:1Fアトリウム ギャラリー

〈コレクション展〉
ポーラ美術館コレクション選
会期:2023年12月13日(水)~2024年5月19日(日)
会場:展示室3
新収蔵:ゲルハルト・リヒター《ストリップ(926-3)》
会期:2023年12月13日(水)~2024年5月19日(日)
会場:展示室4
杉山寧
会期:2023年12月13日(水)~2024年5月19日(日)
会場:展示室5

美術館Data

ポーラ美術館
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
開館時間 9:00~17:00
年中無休(展示替えのため臨時休館あり)
https://www.polamuseum.or.jp/


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