見出し画像

機械学習を使って屋上でつくりたいもの・世界。―――ITエンジニア北矢氏

僕は建築系のお仕事をするかたわら、RF Recordsという「屋上を通して広がる、都市や世界の豊かさを探求する」プロジェクトをしています。もっとカラフルで多様な屋上の価値を浮かび上がらせることができればと思い、RF Recordsへのインタビューシリーズをはじめました。

第2弾は、機械学習を専門にITエンジニアをしている北矢氏にインタビューをしました。

今回の記事に登場する屋上はRF Recordsのメンバーが住んでるところで、RE Recordsの拠点にもなっています。こんな屋上をいっぱい発掘して多様な使い方ができるように目指すのもプロジェクトの目的の一つです。

画像1

▲弊屋上とRF Recordsのメンバー

機械学習を用いた、ジングルづくりと屋上探索。

──このプロジェクトではどんなことをやってますか?

テクノロジーを使って、居心地の良い体験をつくっています。今特に力を入れているのは、屋上に登った瞬間に流れるジングルづくり。ジングルは、ラジオやテレビ番組の節目に挿入される短い音楽などの総称で、それが流れてくるとその番組が始まるんだなって自然と想起できる音楽のことです。

▲屋上写真を機械学習で処理して生成した動画

──ジングルはどんな感じでつくってます?

コンセプトが「息継ぎ」なので、水の音を入れています。このキーワードは屋上体験についてメンバーと話したときに出てきたものなんだけれど、息継ぎって水中から地上に出てくる瞬間にする行動なので、屋上に置き換えると地上から屋上に来た瞬間になる。

今はまだベータ版のような感じで自分だけの音楽になっちゃってるので、メンバーや参加者の声を聞いて、フィードバックをもらいながら作り上げたいですね。

画像2

▲北矢氏。

──機械学習を用いると、こんなこともできるのに驚いたんだよね。

あと、機械学習を使って都市にある屋上を探索するプロジェクトを進めています。今いるこの屋上ってめっちゃ最高なんだけど、いざこういう屋上に住みたいって思ったときにどうやって探したらいいかわからないから、もう少し探しやすくなればいいなと。

──屋上探索は、実際どうやってんの?

AIに画像を読み込ませて屋上なのかどうかを判別をさせる、画像認識の方法を採用しています。AIって言ってもいろんなモデルがあるんですけど、屋上探索では深層学習(ディープラーニング)を使っていて。精度を上げるために「オーギュメンテーション」っていうやり方で、同じ写真を横にしたり反転したり上下左右反転したりして学習するデータ数を増やしています。

あと、最近はARを使いたいんですよね。例えば、「ポケモンGO」ってこの現実空間にポケモンがポンって出てくるじゃないですか。同じ仕組みを使えば、都市の拡張にうまく使えそうだなと、例えば屋上の柵を木にして、景色を森にするとか。

屋上にいると、認知リソースを下げられる。

──この一年で屋上のプロジェクトに関わって、屋上って何が良いですか。例えば、街を歩いてるときとか普段都市にいるときと感覚が違うこととかあります?

屋上はすごくオープンですよね。地上を歩いてるときは道路で区切られてて、ここは道路、ここは家、みたいな息苦しさがある気がします。地上はいろんな要素が決められているので自由度が少ないんですけど、屋上に上がった途端そういう制約から取っ払われて、息苦しさがなくなる。

──息苦しさ。

外だからいいのかな、敷地の境界とか関係ないので。もちろん屋上にいるので、その外には物理的には行けないけど(笑)気持ちはフラットで、ただ自分がここにいるだけ。地上にいるより考えることとか感じることが少なくて、情報量が減るんですよね。

画像3

──情報量が減るってどういうことです?

地上にいると、お店の様子や周りの人を気にしたり、歩道から出たら危ないとか、どっかで無意識に考えるじゃないですか。でもそういう選択肢や情報量が少なくなるっていうのが、屋上という非日常のよさなのかもしれない。認知リソースを割かなくていいんですよ、屋上は。

──認知リソース。

スティーブジョブスがわかりやすい例だと思うんですけど、彼っていつも同じ服装なんです。ファッション好きだったり毎日違う服着たりする人って、朝からどれにしようかっていう選択の連続で、めちゃくちゃ頭を使ってる、つまり認知リソースを使ってるんですよ。

一日の中で認知リソース量って限られてるので、洋服選びに割かれちゃうと昼間の大事な場面で正しい選択ができないってことに陥るんです。ジョブスの場合は、大事なところを見極めてそこに認知リソースを使うので、他の選択をしないようにしているっていう話はよく言われていて。

──なるほど。日常のこともその間は考えなくていい、別の思考になることが、精神衛生的にとてもいいことなのかもしれないね。

屋上に関わるようになってから、認知リソースを下げることで自分を落ち着かせるみたいなのも、日々生きていく中では役に立つんじゃないかなってのは思うようになりましたね。

屋外では、時間の流れが ”連続値” になる。

──他に屋上に関わるようになってから起きた変化ってある?

外の隔たりが少ない家に住みたいと思うようになって、窓が大きい家に引っ越しました。リビングにいても、空の変化がすぐ分かるんです。

窓が小さいと外を見る機会が少なくなるし、閉塞感、息苦しさ、密閉感があるんですけど、大きな窓がある、もしくはテラスとか屋上は、息苦しくない。

──それってアウトドアのよさと同じだよね。何で外でみんなでごはん食ったらうまいのかな。そもそもアウトドアってなんでいいんだろう。

非日常とかそういう言葉で片付けがちですけど、もうちょっとうまく伝えたいですよね。屋上の体験を通して、屋外は時間とか季節の移り変わりが感じられるっていうのは強く思いました。家の中だと外の時間の変化って気づきにくいですけど、屋上だとリアルタイムに連続的に変化が感じられるのがいいですね。そういうのを、数学の用語で離散値と連続値って言うんですけど。

──離散値と連続値。

離散値っていうのは、例えば順位とか。1位2位3位って1位と2位って正しい距離を測れないじゃないですか。で、連続値っていうのは身長とかで連続的にその数値が連なってる。つまり、屋上は太陽の傾きから、時間を連続的に感じ取れる。従来の屋内だったら、たまに窓とか見たら暗くなってるとか明るくなってることしかわからないので、離散値なんですよね。

そういうアウトドアのよさって、キャンプをやったり地方にいったりしたら、普通のことかもしれないけれど、都市でもできるのは屋上ならではだと思う。むしろ、都市にいるからこそ強烈に感じるのかもしれないね。

画像4

RF RecordsのDJ担当であり植物好きなまっちゃんの記事はこちらから。

取材・文:片山浩一 
編集:とやまゆか
写真:宍戸知勢(一部 RF Records)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?