見出し画像

Vol.22「『ヘンだな』という感想もひとつのキヅキ。そこをスタートに自分なりのものの見方であらゆるものを楽しんでほしい」美術教育者・末永幸歩さんのワークショップレポート

2023年が始まってあっという間に1ヶ月が過ぎようとしていますが、みなさんはどんな1年のスタートを切りましたか? キヅキランドは今年もみなさんにもっともっと楽しくキヅキを見つけてもらえるように、ワークショップの開催や新作動画の追加など、ますます盛り上げていきたいと思っています!
さっそく1月14日(土)には、今年初めてのワークショップを開催しました。キヅキセンパイは美術教育者の末永幸歩さん。インタビューで末永さんがおっしゃっていた「自分なりの見方で生み出した答えを一旦壊して、自分だけの答えをを生み出してみよう」を実践すべく、今回は「洛中洛外図屏風(右隻)」を見ながらキヅキを積み重ね、膨らませました。

見どころは人それぞれ。気になったことをどんどん発信してみよう

「これは『屏風』なので、ここでみると平面に見えますが、本当は蛇腹に立てて置くものなんですよ。今はタブレットの中で小さく見えますが、本当はとても大きな絵なんです。高さは約1メートル60センチ、大人の身長ぐらいありますね。横幅は約3メートル60センチもあります。今回みるのは『右隻』といって右側に置くものですが、本当は『左隻』という左側の絵がもう1枚あるんですよ」
と、末永さんが屏風絵について説明をしてくれたあと、みんなでまずは自由に見ていきます。動画では、大きな絵の全体が映されたあと、絵にグググっと近づいていって、絵のあちらこちらの細かい部分を見せていきます。
ワークショップでは見方を限定してほしくないので細かな説明はしませんでしたが、今回鑑賞したのは「洛中洛外図屏風(池田本)」。洛中洛外図屏風は戦国時代から江戸時代にかけて制作された屏風絵で、京都の景観を描いたもの。絵の中には京都の建物だけでなく、人々の暮らしの様子や祭りの様子なども描かれています。とても細かく描きこまれているので、見れば見るほどキヅキがたくさん!

「あ、私と同じことに気がついた人がいますね!」
と末永さんが最初にピックアップしたキヅキはこちら。

「とら?」えっ、どこに?と思ってよく見ると……!

このキヅキを紹介すると、あっという間にみんなの意見が重ねられます。

「いかみたいなかたちだね!」「たしかに!」「たぶん毛がわ?」

さらに、「どうもこれは町のようだけれど描かれているものがなんなのか?」と、こどもたちが見つけたキヅキがどんどん集まります。

「アンテナ?」なるほど!
「みんなでおどってる?」なるほど楽しげ!
「くもみたいのひくくね」思わずツッコミ!

「ここがヘン」から「そうじゃないかもしれない」と見方を発展させてみよう

「さて、これまで絵の中の細かいところをみてきましたが、次に、ちょっとみなさんにやってみて欲しいことがあります!」
末永さんからの提案は、動画の一番最初、絵の全体をみてキヅキを見つけてみるということ。
「全体をこの画面で見ると細かい部分は全然見えませんが、全体を見ることで新しい発見があるかもしれません。しかも、今度は『ん?ここちょっとおかしくない?』というキヅキを書きこんでほしいんです。さっきのkaeiさんの『くもみたいのひくくね』とというツッコミみたいに、この絵のなかで『へんじゃない?』と感じたらそのキヅキをどんどん書き込んでみてください!」
有名な美術作品でも遠慮は不要、「ここがヘンだよ」に気づいてみることになりました。

すると、あちこちから「ここがヘンだよ!」が書き込まれました。

「ふね?」こんなところに !?
「くもにもよう くるくるもよう ぼうがいっぱい」ほんとだ、雲に模様!?
「金の雲がたくさんある。不思ぎな世界」金色のものは雲なのでしょうか?

特にみんなが気になったのは、絵の全体に描かれているもやもやとした金色の模様。雲のようにも思えますが……。
と、そこで末永さんからまた新しい見方の提案がありました。それは「自分が書きこんだキヅキを『そうじゃないかも』と考えてみること」です。自分なりの見方で書きこんだキヅキを疑って、違うことを考えてみるというわけです。

例えばこんな感じ。

「ふね?」→「じゃなくてくるまじゃね?」

「これは常識にとらわれない答えが続々出てきましたね……!」と本田さんが注目したのは、さきほど金のもやもやを「雲」だととらえていた人の「そうじゃないかも」という答え。

「金の雲がある不思ぎな世界」→「黄色のわたあめかもしれない」

「なるほどそれはおいしそうな素敵な世界!」(末永さん)。
あるいはこんな「そうじゃないかも」も登場。

「くもにもよう……」→「そもそもじめんかもしれない!!」

「全体に描かれている金色のもの、雲かと思っている人が多かったけれど、そうじゃないかもしれないね! 確かにちょっと地面の色のようにも見えるよね!」(末永さん)

こうして「ここがへん?」というツッコミから「そうじゃないかも」と見方を変えていくことで、このキヅキがどんどん膨らんでいきました。

名画だと言われていなくても自分には名画だと感じられる作品がある

この動画は「ある街の昔をのぞいてみよう」というタイトルをつけて洛中洛外図を紹介したものですが、もはやこれがいつの時代のどこなのかということよりも、みんなで追求したのはどんなふうに自分流の見方ができるか、自分流の見方で何が見えるかということ。

とかく美術作品をみるときには「すごい」「きれい」といいところを探してわかった気になってしまいがちなもの。
「そうではなくて、『へんだな』という感想を持ってもいいんです。それも自分の感覚だし、大切なキヅキですから」(末永さん)

「『へんだな?』とか感じることは鑑賞の入り口で、そこからから、考え方が膨らんでいくかもしれませんよね。もちろんそれが『いいな』『すてきだな』と思う人もいるわけで、それを踏まえた上で、一人一人違う考えなんだよ、ということですよね」(本田さん)

「そうなんです。この洛中洛外図屏風は重要文化財に指定されているほど価値のある美術品なんです。でも、名画と言われる作品だとしても、それを『名画だ』と決めるのって見る人ひとりひとりじゃないですか。逆にいうと、名画だとうたわれていなくても、自分には名画だと感じられる作品があるかもしれない。日常のささいなもののなかにも、自分には素晴らしいと感じられるものがあるかもしれない。そういう自分なりのものの見方で、あらゆるものを楽しめるといいな、といつも思っているんです」(末永さん)

みんなが『いい』というからではなく、自分が『いい』と思うことを大事にしてもらいたいですね。世界の見方は自由なんだぞ、ということに気づいてもらえるといいなと思います」(本田さん)

今回のワークショップで取り上げた「洛中洛外図屏風(右隻)」は、岡山県の林原美術館というところに所蔵されているもの。「どれくらい大きいの!?」と興味を持った人は、ぜひ本物もじーっくりとみて、キヅキを見つけてほしいと思います。
また、いつも目にする何気ない風景のなかにも、「へんだな」と感じることがあるかもしれません。まずはその「へんだな」からスタートして、じっくり観察してみてください。最初に気がつかなかったものがきっと見えてくると思います。そうしたら「そうじゃないかも!?」ともう一度見直してみると、自分だけの見方、自分だけの答えがそこに見えてくるかもしれません。

末永さん、本田さん、ありがとうございました! そして参加してくれたみなさんも、どうもありがとうございました!

次回のワークショップは3月に開催予定です。詳細が決まり次第お知らせしますので、ぜひ、キヅキランド公式TwitterPeatixをフォローしてください!
なお、当日のワークショップの様子はこちらでご覧いただけます!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?