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なぜ会社の用意する研修はつまらないのか?

サイバーエージェントの代表、藤田晋さんが、いい研修と悪い研修について語っている動画が面白かったので、今回はそれについて書いてみます。

研修業界で働く人間としては、経営者がこういう視点で研修を見ているんだなということがわかり、とても勉強になりました。

特に、藤田さんが実施されている語っているという研修は、藤田さんの経験から生み出された独自のものであり、なるほど、そういうロジックでそういうプログラムを提供するんだなと、貴重な話を聞かせていただけたことに感謝です。


詳しくは、この動画をみてもらえればと思いますが、簡単に紹介すると藤田社長が言っているポイントは2つ。

この動画では、藤田さんは、いい研修の定義として、①実践をやった上での研修であることと、②目的が明確な研修であること、としています。

これはもう共感することばかりです。

私は、企業向けに研修を提供している身ではありながら、実はあまり会社や組織が用意してくれた研修を受けたことはそこまでないのですが。

その数少ない経験の中でも、この2つのポイントを押さえることができていない研修を受講した思い出がたくさんあり、本当につまらなかったと感じていたのを覚えています。


また、職業柄、一定の割合で、過去の研修にうんざりしている組織の担当者さんから話を聞かせてもらうケースも多く、いかに世の中につまらない研修が多いのかということを感じています。

そこで、今回は、藤田さんのここでの内容に私の経験を交えながら、なぜ世の中につまらない研修が多いのかを解説してみたいと思います。

理由① 企業の研修担当を研修の素人が担当していることが多いから

日本の雇用制度の特徴として、メンバーシップ型雇用が挙げられています。

専門性を重視して、採用し、業務に取り組ませるよりは、どの仕事に取り組むかは入社後の会社の状態によって決まっていくというものです。

採用段階では、何でも取り組む総合職として採用され、その後、数年単位で異動を繰り返しながら、都度、求められる役割を担っていくというものです。

期待される役割は、スペシャリストではなく、ジェネラリストとして仕事になります。

このスタイルには、良い面、悪い面、両側あり、一概にだからダメだというのは難しいのですが。

たとえば研修という業務に関して考えても、ある程度、定められた業務、これまで取り組んできた業務を回すということはできても、職場の難しい課題を解決しうるような高度な研修を取り回していくという点では不向きなスタイルと言えるでしょう。

研修は、自社の社内講師や、先輩社員、人事担当などが登壇し、内製的に行うこともありますが、どうしてもプロでない人が担当する以上、つまらないものになってしまうのは仕方がない部分があります。

また、研修を実施する際、外部の研修を提供する会社に依頼し、外注して行われるケースも少なくありません。

それであれば、ジェネラリストでも回せそうな気もしてきますが、ただ、難しいプロジェクトとなると、発注サイドからのフィードバックや情報共有がないことには外部の研修会社も質の高い研修を提供することは難しくなります。

結局、クリエイティブワークは、提供する側と発注する側のコラボレーションになってくるため、発注サイドのリテラシーが低い状態だと質を上げるのは難しいという問題が起こってきます。

たとえば、家を建てたり、車を作ったりと、命に関わるような業務の場合、全体の設計や、細かい指示、最終的な監修は専門家以外が担当しようとするとリスクが高すぎてそんなことは起こり得ないのですが。

一部の研修を除き、多くの研修の場合、究極的には人が死ぬことはなく、せいぜい退屈な時間が過ぎ去るくらいのものなので、実質素人に近いような担当者さんがその研修の企画と設計を行なっていたりします。

これが、つまらない研修が多数生まれる理由の1つ目です。


理由② 提供する会社も研修の素人が関わっているケースが多いから。


例えば、私の最初の仕事は小学校の教員だったのですが、その当時に受けた研修の大部分は申し訳ないのですが、つまらないものが多かったように記憶しています。

特に私の記憶の中でつまらなかったと記憶されているものとしては以下が挙げられます。

(1)校長の武勇伝
(2)教育学者の提供する教育理論
(3)ハラスメントや個人情報の取り扱いなどの禁止系の研修

(1)も(2)も(3)も藤田さんの言うところの①の実践をやった上での研修であり、②の目的もしっかりした上でのものではあったのですが、それでも当時の私には面白いと思えませんでした。

これについてもう少しだけ説明しておきます。

藤田さんの伝えている2つの要素は次のようにも説明できます。

①「実践をやった上での研修」→受講者の経験があること

これは、我々の研修を提供する側の理論では、受講者が準備された状態=レディネスと言います。

②「目的が明確な研修」→ゴールが明確であること

これは、研修を提供する側の理論では、ゴールベースでできたデザインが取れていると言います。

この①と②はどちらも重要ではあるのですが、それだけでは面白いと思えるもの、意義があるものと思えるものとは言えず、もう少し必要な要素が出てきます。


たとえば、有名な教授法の1つに、ガニエの9教授事象と呼ばれる理論があります。

9教授事象についてはちゃんと取り組んでいる大抵の研修会社は押さえている要素であり、多くの企業のページで説明されているのですが、グーグル検索で一番上に出てきたので、ここのサイトで紹介させてもらいます。

ちなみに、ガニエ先生はこの人。こうやって検索していくと、理論を提唱した本人の話を無料で聞ける時代を過ごせることに感謝するばかりです。

Youtubeの白黒感を見ればわかるようにガニエ先生が生まれたのは、1916年と100以上前であり、9教授事象を提唱したのは1970年代だそうです。


そんな前からある理論なのに、今見ても、全然古さを感じないですし「まさに大事なのはこれ!」という気持ちになるような普遍的な理論だなと感じます。

そして、50年くらい前に生まれた理論ですが、50年たっても世間的には定着していないように感じるのは私だけでしょうか。

この現象を見ると、いかに研修をデザインしていくということについての問題意識がこれまで高まらなかったというのを感じますね。

参考までに、ガニエ先生が書かれた本がこちらです。少し高いですが、興味がある方はぜひ。




また、同じく有名な教育理論の1つにARCS(アークス)モデルというのもあるのでそれも紹介しておきます。

同じく、上記のサンライトヒューマンさんのウェブが見やすかったので、そちらのページをお借ります。

ちなみに、ケラー先生はこちらの方。


今回、偶然見つけたのですが、このサンライトヒューマンさんの動画に出ていたんですね。この会社、私、全然知らなかったんですが、ちゃんとインストラクショナルデザインを軸に研修事業をやれていて素晴らしいなと思いました。一度、この会社のを受講してみたい気持ちです笑

せっかくなので、ケラー先生の書かれた本も紹介しておきます。


9教授事象にしてもARCSモデルにしても、ポイントは、どちらも受講者の興味関心を掴むところから始めていき、適切なプロセスを進み続けていくことが大事、という点でしょう。

繰り返しますが、藤田さんがお話をされていたのは、とても重要な要素であるのは間違いないのですが、実際、その2つだけではやはり十分に良い研修を作ることは難しく、さらに必要となる要素が生まれてきます。

そして、私が教員時代に何度となく経験した研修がつまらないと感じた理由としては、校長先生の武勇伝にしても、教育理論家が提供する教育理論にしても、ハラスメント研修などにしても、上記のステップを適切に踏むことができていなかったからと説明することができるでしょう。

こんな感じで偉そうなことを書いている私はどうなんだというツッコミが入りそうですが、偉そうなことを書いているくせに、私にとってもこれだけのことを全て押さえるのは全く簡単なことではありません。

毎回受講してくださる方々に面白いと思ってもらえるよう、有意義と思ってもらえるようにと、頭をフル回転させて、プログラムのデザインと、当日のファシリテーションを行っています。

ただ、それでもうまくできなかったなと反省することばかりです。

とは言え、全くこの手の勉強をしてきていない講師や研修企画者が提供するよりははるかにマシのものが提供できているのではないかと考えています。

藤田さんの動画を見た上で、わざわざこんなエントリーを書こうとする時点で、一応、私はインストラクショナルデザインについても勉強をし、その理論の上で研修の設計と提供に取り組んでいますが。

提供する会社や担当者の誰もがこれらの勉強をしてきているかというと、そういうわけでもないのが業界の実情です。

先ほども言ったように、建築や車の製造となると、さまざまな資格や規制があった上で専門家が提供しているわけですが、研修業界というのはある意味、無法地帯に近く「自分、できます!」といった人が我流で進めていたりすることがある領域だなと思います。

と、これまた偉そうに書いていますが、私が勉強を始めたのも現場に入ってからなので偉そうなことは言えたものではないと、正直に告白しておきます。

なお、さきほどちょろっとだけ書きましたが、良い形で教える技術をインストラクショナルデザインと呼びます。

とりあえず、勉強を始めたいという方には、ここらへんの本がとっつきやすくて良いのではないかと思いますので紹介しておきます。



また、人事担当のリテラシー向上という意味では、これらの動画がとても良いなと思ったのでこちらも共有しておきます。


こういう教材が無料で動画で見られる時代になっているんだから、本当にいい時代になったなと思います。

逆に言えば、誰でも無料で学べる時代になってしまっているからこそ、本人の学べる力次第で差はどこまでも広がっていく時代、とも言えるかもしれませんが。

加えて、研修がつまらないと感じる理由として、下記のものも挙げられます。

理由その③ 受講者の舌が肥えまくってしまっている中で、研修を発注する側と、提供する側での高度に情報連携を行い、それを超えていくのがとても難しいから。


現代社会においては、あらゆるコンテンツ産業が提供するサービスの質が上がり続け、また、ユーザー側が常に自分好みのコンテンツばかりに触れているようになると、受講者が日々触れている体験の質というのは上がる一方です。

大金と長い期間をかけて作り込まれまくっている映画ですら「映画を2時間見続けるのが難しい」という言葉が出てくる時代です。

そして、ちょっとでも関心が途切れようものなら、すぐにスマホに目がいってしまうような中で、それと比較してもなお面白いと感じる研修を生み出すためには、相当なクリエイティビティと技術力が求められます。


研修領域においても、その道のトップオブトップがわかりやすく解説する動画をプロのデザイナーがデザインした資料ととものに無料で見られるようになってきています。

しかもそれを倍速にするなど、自分の好みの学習速度で視聴することができます。

こうなってくると、わざわざ企業が提供する品質が高いとも言えない研修を受講する必要性がどこまであるのかと疑問が生まれてきます。

であれば、動画で十分ではないかと。わざわざ時間を拘束するからには、どこの組織にもで言えそうな内容は、動画で十分で、研修では自社だからこそのテーマについて学べるようにしていく必要があるでしょう。


ただ、それをしようにも難しさがあります。①と②で述べたように、そんな研修を担当しているのは必ずしもその道のプロであるかというとどうでもないということが多くの現場で見られたりします。

そして、これは理由①と②が融合した理由になりますが。

もともと専門性が高いわけではない担当者が発注側として担当し、提供する側も真の意味でプロではない方が一緒になって企画をしていくという前提条件の中では、魅力的な研修を提供するのは難しくなります。

受講者の関心や意欲を生み出そうとすると、当然、発注する担当者側は、受講者が抱えている課題感や、受講者が目指したくなるような未来のビジョンを提供する研修会社に伝える必要がありますし。

提供する研修会社は、時に決して専門性が高いわけではない担当から、受講者のニーズを顕在化された内容だけでなく、潜在的なレベルまで把握し、それをもとにプログラムデザインを組んでいく必要があります。

ここまでやろうとすると発注側、もしくは提供側、もしくはその両方のリテラシーと問題解決力、クリエイティビティが相当高いレベルにない限り、面白く、かつ有意義な研修コンテンツを作るのは不可能ということになってきます。

私も、未来の受講者が興味関心を持ってもらえるようにと日々、さまざまなところから情報収集を続け、新しい価値が生み出せるようにまだ誰もやっていないようなところで試行錯誤を繰り返そうと努力をしていますが。

それでも退屈さを感じさせてしまう瞬間を0、またはそれに近づけることはできず、悔しさを覚えるばかりという感じでしょうか。

なお、私でも難しい話ばかりを書いて終わりにするのもなんなので、冒頭、私が過去受けたつまらなかった研修を私だったらどうデザインしたかという話も共有しておきます。

それは、某超有名広告系の会社さんから「うちの舌が肥えた社員たちにハラスメントの重要性を理解し、行動を変えてもらえるような研修を提供してくれないか」と依頼された時に作ったものになります。

最終的にタイトルは「裏ハラスメント研修 なぜこんなに世の中にはハラスメント研修がたくさん行われているにも関わらず、ハラスメントを無くすことができないのか?」というものになりました。

社労士さんに講師役をお願いをして、私がファシリテーターとなり、一緒にプログラムの開発と提供に向けて取り組みました。

担当者さんに、ハラスメント研修を実施しようとする背景や、どういったことに社員の方々が困っているかを事細かく聞かせていただきました。

その上で、さらに社労士さんにこのクライアントが抱えている課題の本質や、最終的にトレードオフとなり、どちらを進むにしても解決が不可能な要素に対しての最適のアプローチについてヒアリングしながらコンテンツを共同開発しました。

その結果、内容としては、データで見るハラスメントの実態と、現場でどういったケースが生まれているのかの他社事例をクイズ形式で出し、興味関心を惹くようにしました。

その上で、メインのワークとして「これはたしかに無くせないよね」「実際この状況に立ったら自分どうしたらいいんだろう」と言ったようなケーススタディに取り組んでいただきました。

ハラスメントのプロである社労士さんと、複雑な学びの場のデザインとファシリテーションのプロである私とでクライアントの課題に沿って、独自にプログラムを作っていくという過程では、お互い自分だけでは生み出し得なかったものがたくさん生み出されました。

「これは一緒に作っているからこそできたものですね」「どんな反応が出てくるのか楽しみですね」と提供前に少しワクワクした感覚すらありました。
もちろん、ドキドキやハラハラは最後の最後まで消えはしませんでしたが。

結果的に、受講者アンケートの評価は相当に高く、担当者さんからは

「うちの社員、研修受講後のアンケートは通常、超辛口で、普通に低評価や厳しいコメントが羅列されるんですが、今回、高評価の人ばかりで、こんな研修を提供してくださり本当にありがとうございます」

という言葉をいただいたことも共有しておきます。

まとめ

後半は半ば言い訳のような解説になってしましましたが、面白い研修を生み出すというのは、誰が担当しても(もしかしたらこれを読んでいるあなたが担当しても)そんなに簡単な話ではないということを感じていただけるとありがたいです。

こうなってくると大事なのは、提供側だけではなく受講する側の工夫や歩み寄りなのかもしれません。

仮に、食事で言えば「蒟蒻芋がそのまま出されました」みたいな状態だったとしても(イメージがわかない方もいるかもなので、一応補足すると、蒟蒻芋はそれそのものを食べるのは不可能な原料野菜と言われています)

どうすれば、この蒟蒻芋を美味しく食べられるだろうか(自分の人生に役立てられるだろうか)と言う視点で、研修を調理する技術が求められてくるのかもしれません。

もう少し言えば、

  • なんでこの研修はこんなにもつまらないのか?

  • どうすればこの人の話を面白く聞けるのか?

  • 私の仕事に結びつけるとしたら、この人の話をどう活かしたら良いのだろうか?

  • この研修をもっと有用な形で提供しようとしたらどう展開進行したら良かったか?

  • 私が今困っている職場の課題、悩みについて、解決しようと思ったら、この人に何をどう聞いてみると求める回答が得られそうか。

といった問いをもちながら参加すると、苦痛とも言えるつまらない研修も少しは面白くできるかもしれないと、過去つまらない研修に参加していた時にトライしていた私の工夫を共有しておきます。

あと、いろいろと書きましたが、念の為、書いておきますと。

今回、書いたことを藤田さんがわかっていないかというとそんなことはなく、この動画の中でわざわざ語る必要がなかったから語っていないだけであろうということは前提として補足しておきます。

あと、会社が提供する研修がつまらなくて仕方ないと言う方は、コメントなどで私に相談していただけると、もしかしたら多少の力にはなれるかもしれないということで、今回のエントリーはまとめさせていただけたらと思います笑

以上、最後までお読みいただきましてどうもありがとうございました。



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