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からだのこと

自分の体が嫌いだ。

背骨が真っ直ぐにならない。肩が内巻きになる。胸がちっさい。下腹がぽこっとしてる。

肌の色もところどころが斑になっているような気がする。全体的に眺めると、黄色いところと白いところが薄く斑に。

柔らかくない肉付き。関節が角ばっている。かろうじて、くびれは美しい曲線美。ほんと、くびれだけにしか女らしい曲線がない。お尻はぺたんこ。

胴長短足で、42という体重には少し太いももとふくらはぎ。一見柔らかそうに見えるけれど、ほんと、見えるだけ。たぷたぷしてもたぷたぷしない。何と言うか、揉む、という感じ。例えば唐揚げ用の鶏ももに、下味付ける時のあの感触。張りはないが、弾力はある。

足の小指は高校生の時に初めて履いたサイズの合わないローファーのせいで、形が変わってしまった。関節がないように見える。にゅ、と生えてる。

手の指も女っぽくない。指の付け根から先にかけて細い指ってしなやかで女らしいと、私は思っている。だから、この指は女のそれじゃないなと思ってしまう。気持ち、関節が目立つ指。あ、爪の形は綺麗だった。楕円形の、ネイルの映えそうな爪。仕事柄、久しく爪に色は塗れていないけれど、ポリッシュなら、そういえば結構持っていたなぁ。

こう書き出すと、くびれと爪以外、自分の体が嫌い、と言った方が正しく感じる。くびれと爪は、ちょっと好きかもしれない。

ただ、そんな自分の体をまるごと、愛してくれる人がいたらと思う夜があるから、今日みたいに。こんな体を普段何の気にも留めないくせに、今日みたいな時は、姿見の前で隅から隅まで観察して、絶望する。

自分の体が嫌いだ。いや、くびれと爪以外、嫌いだ。

どうしたら少しは納得するものになるだろうか。

まずは姿勢を伸ばす。胸を張って、肩を外側に広げる。顎を少し引くと、二重顎気味になるから嫌だな。そうだ、自分の顎も嫌いなのだ。

顎を気にすれば、顔に目がいく。アヒル口もどきみたいな唇に、鷲鼻。垂れ目の奥二重。アイシャドウのしずらいこと。斑な眉毛。面長の顔。

自分の全てが嫌いになってくる。そう、元から全てが気に食わない。不満だらけだ。

そんな自分の顔も、体も、まるごと愛してくれる人が、彼だったらいいなぁと思うけど、彼の中にも理想の女の体と顔があるからしょうがないのだ。

例えばベッドの上で寝そべって、左右に流れた私の胸を、私の両腕で束ねて谷間を作る時、彼の理想はそうなのね、と思う。

こんな自分、まるごと嫌い。だから死にたい。

こんな事を書いていると、親からもらった体なのに何て言い草、だとか、少しでも好きになる努力を、だとか、思われるかもしれないけれど、そこまで私は恨んでいないし怠けてもいない。

理想とか、ベストとか、マストとか、ベターとか。理想の女の基準がしっかりある世の中だと、やっぱり私は絶望するのだ。

そしてそれが相手もそうだと思っていると、尚更。

人それぞれ違うんだよ、って声がたくさん上がっているようで、実はほとんど叫ばれていない。

みんな、それに気づいているけど、気付かない振りをしている。

多様性が認められているようで、実はまだまだ認められていない。これは全ての話題に当てはまる話だと思う。

でも、多様性とは、なんだ。多様性を認めるとは、なんだ。

自分の中では、もしかしたら、ありのままを受け入れるということかな、と今すぐ思った。だから、自分は自分の中の多様性を認められない。すなわち、自分の全てがおおかた嫌いなのだ。

ありのままが受け入れられない。だって、至る所に女の基準がたくさんあるから。

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この体はそれらの基準に当てはまるでしょうか。不安でよく絶望します。かろうじて死んではいません。まだくびれと爪が好きなので。

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