HERO
少年野球チームに入らなかった理由を
僕はいまだに覚えている。
僕のヒーローに会うためだ。
生まれた時から親の教育で阪神ファンだった僕は、子供の頃から父がテレビでナイター中継を見ることが苦ではなかった。
物心ついたときから野球が好きだった。
そんな自分が、周りの友達がほとんど入っている少年野球チームに入らなかった。
入ってもいいよと母にも言われていた。
でも断った。
吉本新喜劇が見られないからだ。
子供の頃からお笑いも好きだった。
だが、父母ともに教師であった木﨑家では
民放のバラエティは見せてもらえなかった。
ダウンタウンのごっつええ感じ世代ど真ん中であるはずだった僕は一切ダウンタウンを見ることができなかった。
唯一、見るのを許されたバラエティ。それが新喜劇。
そんな僕にとってのお笑いは、吉本新喜劇が全てだった。
土曜の昼は新喜劇。これだけは誰にも何にも邪魔されたくない習慣だった。
そうして毎週新喜劇を見ているうちに僕はある一人の芸人さんにクギズケになる。
藤井隆さん。
唯一無二の存在。全力のパフォーマンス。ハッピーな笑い。なのに少し毒がある。
一瞬で虜になり、憧れになった。
僕のヒーローだ。
かといってすぐ「藤井隆さんになりたい」と芸人を志したわけではない。
ちいさいころからコミニケーション能力に乏しい僕は、感情表現が下手で、嫌なことは泣いてしか意思表示をすることができなかった。
そんな僕が「藤井隆」になるのは奇跡だ。
中学、高校とあがって、お笑い熱は加速し、コミニケーション能力は向上しないまま。
授業中は静かで地味なのに、文化祭や行事になると人前で漫才をするという奇妙な学生へと変貌をとげた。
そこから僕はNSCに入り、芸人になる。
そして10年以上の時を経て、僕はヒーローと共演する。
それ自体が奇跡なのかもしれない。
そこから3度お仕事をご一緒させてもらった。
3度目の仕事終わりにヒーローは僕にこう言った。
「ご結婚されたんですね。おめでとうございます。」
こんなに何年も下の後輩に最上級の敬語で結婚を祝っていただいた。
やっぱりヒーローはヒーローのまま。
ありがとうございます。
一生手の届かない僕のヒーロー。