起業からの学び
今年の頭、実験的に半年間限定でベトナムのホーチミンで起業しました。小さな飲食店の経営でしたが、この経験を通じて多くを学びました。
面白かったのは、経営者とサラリーマンではお金に関する数字が逆に見えるということです。それまで頂いていたものと支払っていたものが逆転しました。例えばある飲食店のアルバイトの時給を見て、「バイトでこんなにたくさんもらえるのか」と思っていたものが「バイトを雇うのにそんなにかかるのか」になりました。また、メニューを見て「ここのランチは高いなあ」だったのが「この立地でこの料理ならこの金額でも売れるのか」と考えるようになりました。
ヒト・モノ・カネを経営の三要素と呼びますが、ヒトの確保が重要かつ一番難しいというのがよくわかりました。ヒトだけは都合の良い時に都合の良い人が見つかるとは限らないからです。良い人材というのはなかなか見つからず、どの経営者も常に欲しているものだと知りました。また、特に重要な役割を担う人材になると経営者との信頼関係が重要になりますが、関係構築には時間がかかります。起業に向けた人脈形成のためにビジネススクールに行くという話を友人から聞かされたことがありますが、今なら納得の理由です。
資本主義という言葉の意味を体感したように思います。事業の生産性を上げる方法を考えていた時、初めて経済学の教科書に出てくる「労働」と目の前の人とが頭の中で重なりました。僕は一時期、従業員を仲間ではなく収益を上げるための資産としてしか見られていなかったようです。自分がそのような見方をしていると気付いたときは嫌な気持ちになったものですが、資本主義という思想があらゆる物事を資本として捉えた資本家の立場での考え方であると気付けたのは面白い発見でした。
真鍋希代嗣
ジョンズホプキンス大学ポール・H・ニッツェ高等国際関係大学院 修士課程(ワシントンDC)
※この文章はワシントンDC開発フォーラムに2016年11月に寄稿したエッセイを転記したものです
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