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それを、夢を叶えるための努力とは言わない

大学院の夏休みを利用して数日間だけ日本に帰省していました。地元に帰るたびに立ち寄るバーがあります。そこのカウンター席で隣になった、航空会社のパイロットの方から素敵なお話を伺いました。

その方は学生時代からパイロットになることを夢見ていたそうです。日本で旅客機のパイロットになるには主に3つの方法があります。

一つ目は大学卒業時にANAなどの大手航空会社の自社養成パイロットとして採用される方法。給料をもらいながら訓練を受けられるのが魅力ですが狭き門です。

二つ目は大学卒業後に専門の学校に通って資格を取る方法。国内には私立の学校が数校ありますが、私立の医学部並みの学費がかかります。航空大学校という国内唯一の公立学校もありますが、こちらも狭き門です。

三つ目はオーストラリアなどの外国で訓練を受けてその国のパイロットの資格を取り、日本で免許書き換えの試験を受ける方法です。これも数千万円程の費用がかかります。

その方は大学を卒業する時に自社養成パイロットを採用している企業を受験しましたが、全て不合格でした。

しかしそこで諦めることなく、一度就職してお金を貯めながら国内の専門の学校を受験し続け、年齢制限ぎりぎりの年に、8回目の受験で航空大学校に合格しました。もし国内の航空学校に入学できなければ、借金をしてでも海外に資格を取りに行く覚悟だったそうです。航空大の卒業後には晴れて大手航空会社のパイロットとして採用され、今では世界中を飛び回られています。

パイロットを一度は夢見たものの、新卒採用時に自社養成パイロットとして採用されなかったために夢を諦める方というのは少なからずいらっしゃるそうです。その方が

「自社養成だけ受けて諦めるなんて、そんなの宝くじを買ってみた程度のこと。それを、夢を叶えるための努力とは言わないよね」

とおっしゃっていたのが印象的でした。

並々ならぬ努力と覚悟で夢をつかんだ人の話はかくも美しいものなのかと思うと同時に、自分も人事を尽くしたと胸を張れる生き方をしたいと思った福岡の夜でした。

真鍋希代嗣(ジョンズホプキンス大学 修士課程/ワシントンDC)

※この文章はワシントンDC開発フォーラムに2017年8月に寄稿したエッセイ「バーでの出会い」を転記したものです

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