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宿屋徒然2 旅館らしくない和風建築

和風建築について 1


リノベ後に建物を見た方によく言われますが、言われると固まってしまう言葉があります。「外国人が好きそうだよね」と。自分が遠くに旅して、「日本人、こういうの好きでしょ?」と言われたら、やっぱり1人引っ掛かっていると思うので。

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確かに現在の喜代多旅館は、その言葉を頂戴しても御尤(ごもっとも)、な建物になっています。1階のエントランス部分は基調の天井や壁のグレーと、床やフロントの木材のコントラストが効いていて、旅館というよりホテルっぽいし、2階には共有キッチンやラウンジスペース、3階には24時間シャワーや2段ベッドのある仮眠室を備えています。
しかしメインの客室は、ほぼ前のままの和室です。

冒頭の言葉に透けて見える、「わかってますよ」感が引っ掛かるのかもしれません。和室で日本体験を、あと外国人の好みそうなシャワーとかキッチンとか付けたんですよね?と。
いえ、どこか収まりのいいカテゴリーに収められようとする感じが、固まってしまうのかもしれません。まるで若いロックバンドみたいな青臭さですけれど。

何しろ、最初のパース(建築の立体的なイメージ図)を見て、「こんなに和風にしなくてもいいです」と言ったのは、他ならぬ私(女将)です...プロデュース・建築チーム泣かせの施主でした。


和風建築について 2


旅館の1階エントランス部分のパースを見て、「こんなに和風にしなくてもいいです」と言った施主。プロデュース・建築チームの困惑は、想像に難くありません。

自分にとって和風とは何か、リノベーションの計画時は何度も考えました。
有名な寺社・神社から、歴史ある温泉宿や豪商・豪農の家に至るまで、伝統的な和風建築にはもちろん憧れます。しかし、私が子供の頃から触れてきたのは、もっと身近な建物でした。

ある日、自宅にあった以前の雑誌を見て、ヒントになる記事がありました。
アメリカン・モダニズムの旗手、画家ジョージア・オキーフが晩年住んだ、ニューメキシコ州アビキューの家の特集でした。(花モチーフ、牛やシカの骨の絵が有名な方です。晩年は緑豊かな家と荒野の家を行き来していたそうです)

写真からして、砂漠と荒れた土地が拡がるアビキューは、強い日光を遮る木もなく、逆に光や暑さが容赦なく人と自然にあたるようなイメージです。
でも土と木でできた家の中は、柔らかな日差しが入っていました。乾いた暑い大地でも、ぶ厚い土壁に囲まれた家には、ひんやりと涼しい空気が流れている感じがしました。

家に飾ってあるアイテムは、骨や石。実にオキーフらしく透徹さがあるのですが、全体の印象が、何か自分が思う「和風」と通じるものがありました。
気密性を高め、外界を遮断することで快適さを得るのではなく、和らげながら取り入れて共存すること。自然素材をできるだけ使うこと。
それをプロデュース・建築チームに伝えてみました。

言葉足らずでしたが、雑誌や写真、色々な方法で伝えた希望を、プロデュース・建築チームは実に上手く拾って再構築してくれました。
特に和室部分は、出来るだけ以前のまま利用しているので、襖や障子、砂壁というスタイルは変わりません。気密性があまりよくないので、温度管理も防音性も、現代建築からすると随分違います。建具を木材風のプラ製品にすることなど、出来ませんでした。音や光の跳ね返りを和らげたり、柔らかく透過することが、日本の文化や思想と密接に関わるように思うからです。
モチーフや色目だけを和風にして、その部分を捨ててしまうことは出来ませんでした。

和風建築の回でオキーフを出すところからして、やっぱり変わっているのは…認めます。

(つづく)

休んでかれ。