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【はたらくコミュニティ事例】札幌市みんなの気候変動SDGsゼミワークショップ(前編)

私にとっては、1つの大きな仕事である、札幌市主催の「みんなの気候変動SDGsゼミワークショップ」が、いい感じに進んでいます。全国〜海外からも多様なメンバーがあつまり、すべての回がオンラインで進行しています。(写真は2019年のものです。写真は市根井直規/yuzame)

ここでされていることは、全国各地でも、お読みの方の「わがまち」のことと似ていることがあるかもしれません。もちろん、違うこともあるでしょう(たとえば、札幌は人口200万人を抱える大都市であるということ)。

ここまで、実際にやってきたポイントを整理します。大きな流れをストーリーにしてまとめたので、参加されていない方もわかるはずです。ただし、ここに書くことは、完結したものではありません。まだまだ道半ばであることをお含みおきください。また、あくまで、私の視点からの整理です。ここに書かれていること以外もたくさんのことが学ばれています。

想定する読者

このnoteは「案件」ではなく、地域でガチで頑張っている仲間に役に立ちたくて書いています。そして、「へーそういうのもあるんだ。いつかできたらいいね」という人はいつまで経ってもやらないので、「ガチでやらねえとやべえ」とケツに火がついている実務者向けに書いています。

・自治体やNPO関係、市民活動など、環境や福祉など個人では圧倒されてしまうような複雑な社会課題を多様な主体が共にはたらくことで賢く実現していく、ミッション型コミュニティづくり(対話と協働)をされたい方
・いわゆるクリエーターやアーティスト職で、「おしゃれでキラキラしたもの」をつくるだけではなく、その創造的な才能やスキルを、地域の暮らしが良くなるため、社会の困りごとをなんとかするための役に立てたい人

→今回の話には、あらゆるレベルで、想像力と工夫と表現力が必要です。

想いのある個人で、本当に人や社会を動かすような「やろー!」というお呼びかけをしたい
・このゼミワークショップのプログラムが、どうやって作られているのかの舞台裏を覗きたい
・人の思いの応援するやり方を学びたい

はたらくコミュニティ開発は、端的に言ってしまえば、人の「量」が増えることよりも、人と人のつながり方「質」が変わっていくことに重心が置かれます。たとえば、量は一緒でも、「知り合い」「仲良し」「本音でぶつかれる」などと性質は変化していくわけです。そのために、どんな実践が必要なのでしょうか。

ここまでのコミュニティ開発のプロセスは、主にこのような問いにしたがって進んでいます。

1 軸をつくる

私たちの軸は何か

第1〜3回はウォームアップでした。はたらくコミュニティには、「軸」と「輪」が必要です。

軸:そもそも「どんなことができる社会を実現しようとしているのか」という目的と、「なぜ今これをするのか?」というニーズ

軸のない多様性はただのカオスです。つまり、バラバラ化のおそれがありす。そして、軸にはもちろん「大義」が必要ですが、正しく聞こえるだけの大義には、力がありません。「みんなで仲良く、世界平和」みたいな。

なぜ、わざわざ今その話をするのか?」という緊急性と重要性、個人の掻き立てる想いと社会的な要請、時代性と普遍性など、いくつかの視点が交差したときに、ボッと変化の可能性は着火し、社会に熱のある渦を起こします。

そのモチーフとして、SDGsや気候変動は、「使いやすい」ものです。これらを分かち合って、札幌市における同取組の「軸」としています。

2 輪をつくる

私たちはどんな人たちとはたらきたいのか

たとえば、気候変動ゼミの呼びかけは、このように書かれています。

この気候変動ゼミ・ワークショップでは、今まさに世界中で起きている地球温暖化を原因とする気候変動の実態や、札幌市がこれから取り組もうとしている対策を学び、その解決に向けて「どうやったら実行できるのだろう」をみんなで見つけるために、気候変動に対してわりと「ガチ」で考える機会を設けます。「微力かもしれないけど、自分も何かしたいな。」とちょっとでも思ってくれる皆さんの参加をお待ちしています。

ガチで、実行する人向け」だと謳っており、その敷居を超えてきた人とやりとりをしたいと書いてあります。

そして、「ここはガチの人の場であること」「ガチでやるってのは、どういうことか」は、ワークショップ中で何度も言及されています。

なお、このように、さまざまな敷居によって、「この輪に誰を招くか」は戦略的にデザインすることができるものです。

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詳しくは、別のnoteで書いてあるので参考にしてください。

3 協働の原理

どのような原理があれば、私たちは一人一人がポテンシャルをさらに発揮しやすくなるだろうか(普段の時、そしてピンチの時)

輪:多様な私たちが、居心地よく一緒にいられるために、また、答えのない難しいことにもキャパオーバーすることなく話していく、基礎体力づくり。それを支える、実践や原理はなにか。

そのためには、いろいろな手段が在りますが、私たちが採用したのは、人間が数十万年と使ってきている「対話」の3原則でした。「意図を持って話す/学ぶために聞く/自分の影響に気づく」。

また、むずかしいこと・ふくざつなこと・大切にしたいことを、限られた時間で取り組もうとする時、「わかってからやる」ではなく、「とにかくまずは、手を動かしてみる」も学ばれました(アジャイル開発)。

言葉をこねくり回しそうになったら、手を動かそう」は私の好きなことです。

ちなみに、とある国の海兵隊の原理はこうです。「すべての作戦が崩れたとき、まずは仲間と団結し、高所へ向かえ」。「みんなで公平に助け合おう」はあまり役に立ちませんね。実行可能な原理がコラボレーションを支えます。

今回は省略しますが、このあたりは、取組のコンセプト(取組の面=ツラとしてプッシュしていくキーワードやアイコン)や、どのような手法を採用するかとも関わっています。

ここまでは、コミュニティの基礎づくりと関わっています。そこが揺らいでいると、その上に何を乗せてもぐらついてしまいます。

4 暗黙の前提を明らかにする

来たる現象は、具体的かつ主観的にどう私たちの暮らしに影響するか

ウォームアップができたら、タフな話し合いが始まります。

4回目から「まちづくり編」がはじまりました。札幌市の次期総合計画やその背景について学びながら、公務員や企業人、農業者、ママ、おじいちゃんから学生など多様なみんなで話を進めています。

まちづくり編のテーマは、日本のトレンドである「人口減少+超高齢化」。

「ジンコウゲンショウ、コウレイカハ、シャカイモンダイ」と1339回くらい聞いた気がして、つい私もそう言ってしまうことがありました。

しかし、よく考えると、それはただ起きていること(現象)であって、それ自体は良くも悪くもないのですよね。

どういうことを前提にすると、人口減少は、「ピンチ」になるのでしょうか逆にどうしたら、それは「チャンス」になるでしょうか?

このような知らないうちにかけている「色メガネ」のことを、暗黙の前提(埋め込まれた前提/可能性を制限する思い込み)と言います。

その思い込みは、「軸」や「輪」の質感に、甚大な影響を与えます。たとえば、言葉ではそれっぽいことをいいつつも、心の底で「どうせがんばってやっても現実は変わらないんだよな」と思い込んでいる人たちとはたらいても、まったく「しっくり感」がなく、なにか人任せでダルい空気がチームやコミュニティに漂うのは当然でしょう。

また、やる気がほんとにあったとしても、この思い込みに気づかないと、議論が同じところをぐるぐると回ってしまいがちです。何年経っても、ずーっとおんなじ話を繰り返している人たちに会ったことがありませんか?久しぶりに会ったら、え、まだその話をしているの…?という。

ただし、人の思い込みを明らかにするにあたって、「あなたの思い込みはなんですか」と聞くのはあまりに芸がなさすぎます。そういう質問でマウントとってくる占い師みたいなコーチやカウンセラーがたまにいますけど、あれは私は好きじゃないです。依存を生み出すから。(まあ商売の事情もあるのでしょうから否定はしませんが…)

ともあれ、思い込みを明らかにするために、問いとしてはこのように聞きました。

人口減少が進むと、どのような人が、どんな顔で、嬉しかったり、嬉しくなかったりするのでしょうか。

こうしてリアルに、人の表情とともにその様子を描いてみると、必ずしも負の側面ばかりではないことが見えてきました。

どうやら「大量消費・生産・廃棄の経済」を前提にするとき、私たちは高齢化と人口減少を、ついなんとなく、まるごと問題視しがちなことに気づいてきました。

高齢化の「可能性」についての参加者の声(動画)

5 未来を描く/軸を育てる

今から〇〇年後、どんな風に暮らしていたいか

そのようにひらかれた発想の中で、人口減少+超高齢化などの来たる現象が進む中でも、「これは譲れん」という、今後も大切にしたい暮らし方を描きました。(その議論のOSとして、第2回に学んだ「マックスニーフの“ていねいな発展”のフレームワークを使いました。)

たとえば、銭湯に行って、「あの人今日は来ないねえ」と、心配してくれる/心配したくなる人がいる。高齢になった時に、お世話になるだけじゃの存在じゃなくて、役に立つ存在でいられる。毎日の暮らしの中で、環境を壊さない商品があたりまえに使われている。そんな暮らしでした。ここも、主観的にリアルに描くことが大切。

これは、「どんなことができる社会を実現しようとしているのか」という軸となる目的を育てる行為です。目的が取組のリーダーであり、それはみんなの声によって成長します。

そこには、第1〜3回で学んだことも意識されていたようです。たとえば、「脱炭素これはもう、気候変動の解決策として科学的には正しいと決着がついています。だから、環境を壊さない商品(サスティナブルプロダクト)を使用することも正しいですね。

ちなみに、2020年10月26日 には、菅総理大臣は臨時国会で、初めての所信表明演説を行い、脱炭素社会の実現に向けて「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明しましたね。

6 仕組みをデザインする

ありたい暮らしを実現するために、どのような仕組みをつくるか/つづけるか/やめるか

さて、問題はここからです。正しくてキレイなことは描けたのですけど…じゃあ、実際、どうしましょうか

正しいことを言うだけではなくて、ガチでそれを実現しようと思うと、どうも〇〇について考えざるを得ないみたいなんです。〇〇を思い出せますか。

そう、「ガチで現実を変えたいなら、仕組みを変えざるを得ない」でした。

どういうことか。もちろん、私たちが個人でできる事はどんどん勝手にやればいいですよね。

しかし、「毎日の暮らしの中で、環境を壊さない商品があたりまえに使われていること」「すべての学校で農業体験をできるようにすること」などを実現するのは、あきらかに、一人では難しいことです。

それゆえに、「個人の努力」だけではなく、「いいことをしやすい/ダメなことはしづらい仕組み」を考える必要があります。

あなたがゴミを拾うのは尊いことですが、「そもそもゴミが出づらい仕組み」をつくれないか。あるいは、あなたが一生懸命走るのはステキなことですが、もしあなたが逆向きに動く「ランニングマシーン」に乗っているなら、まずは「その仕組みを止める」ことをできないか。そんな視点で考える練習をしています。

ただ、それと並行してやらなくてはならないことがありました。

7 現実を見つめる

今、実際のところ、なにが起きているのだろうか

描いた「ありたい姿」が、いくら正しいことであっても、「実際にガチで現実を変えていく」となると、話は一気に複雑なものとなっていきます。

たとえば、「脱炭素しよう!」と言っても、もしあなたの友人が石油産業に従事していて、家族を養っていたとします。あるいは、あなたが冬場に自宅で暖をとるために、大量の石油を消費していたとします。そこに「気候変動対策をしろ」「脱炭素」という、正しいことを叫んだところで、現実は本当に変わるでしょうか。今起きていることって、フクザツですよね。

そう、ガチで現実を変えていくためには、「暗黙の前提に囚われないこと」や「未来を描くこと」に加えて、そもそも今ある複雑な現実と向き合う必要があります。そして、それがゼミの第6-7回のテーマのひとつでした。動画でリアルな農水産業の現場の声から学びました。非常にモヤモヤしました。

ちなみに、複雑な現実と向き合うのは、実は結構ツライことであったりして。不都合な真実、賛否両論、バラバラのおそれがあります。そのためにも、人と人が対話できる作っておかないと「キャパオーバー」を起こしてしまいますね。でも・どうせ・だって・だめた(4D)。

でも、キャパがあればこうなります。モヤモヤは、イノベーションが生まれるところ。

8 呼びかける

みんなではたらくためにどう呼びかけるか

ここまでをストーリーとしてまとめると、こうです。

ありたい未来を描く。リアルな今を見つめる。未来と現実のギャップが、課題。課題解決の前に、課題「設計」をする。
その実現のためには、一直線で進めるような、唯一のただしい筋道」はない。だからこそ、多様な視点を持ち寄り、対話しながら共に試行錯誤をしていける基礎体力づくりをする。
ガチで課題を解決していきたいなら、欲しい仕組みをつくる・続ける/いらない仕組みをやめるというシステム思考が必要になる。

その上で、最後の8つ目は、そこから一歩踏み込んで考えてみます。

仕組みを変えるのって、一人では現実問題としてムリですよね。それゆえに、みんなで共にはたらく必要があります。

では、どうすれば、「みんなではたらく」ことを始めることができるでしょうか?

そう。「変えようよ!話そうよ!」という「呼びかけ」がなくてはなりません。まるで火起こしをするための、最初の種火をつくるように。

この大きな輪の中で、実際に行動へと移そうとする個人や小さなチームが出てきたら、それを支援する必要があります。耕した土から芽が出てきたら、それをサポートする段階です。

実際に、このゼミの第5回では、参加者のひとりである、みかさんが「呼びかけ」をやってみました。

私は自然がめっちゃ好きです。なんでみんな地球を壊すものを使っているんだろうかとモヤモヤしています。サスティナブル・プロダクトを使うことを「あたりまえ」にしたい。でもどうしたらいいんだろう。答えはないけれども、みんなで考え始めませんか?

みんなで「モヤモヤ」を始めました。モヤモヤは答えのないことに直面することであり、それゆえに、イノベーションの生まれるところでもあります

【映像】「呼びかけ」をつくろう

そして、今回のスペシャルオファーがこちら。

「みんなのSDGsTV」の特別番組です。第5回で行われた「みかさんの呼びかけ」の本番の様子と、その舞台裏を映像にしました。みかさんが呼びかけ人、私がコーチを務めています。

実際に、本編の中で「呼びかけ」と、それに応ずる対話に使われた時間は15分ほどですが、その準備のためにダイのオトナ3〜4人が実際に手を動かした時間は、およそ3週間、20時間ほどでした。

その結果、現在、みかさんは、少なからぬ応援を受けることになり、さらに次の動きを呼びかけています。サスティナブルプロダクトをつくる企業に、若者のみんなで取材に行って話してみよう!コラボしよう!と言う企画です。12月に実施予定です。

そのように、はたらくコミュニティをベースにしながら、社会を変えていく動きをつくる最初の一歩が「呼びかけ」です。それがどのように作られているのか。一時間と長いですが、よかったら少しずつでもご覧になってください。

まとめ

ということで、今回は、地域で共にはたらくミッション型コミュニティを生み出すための働きかけ/問いについて整理しました。

1 私たちの軸はなにか
2 どんな人たちとはたらきたいのか
3 私たちの輪は、どんな原理によって支えられているか
4 来たる現象は、具体的かつ主観的にどう私たちの暮らしに影響するか
5 今から〇〇年後、どんな風に暮らしていたいか
6 ありたい暮らしを実現するためなか、どのような仕組みをつくるか/つづけるか/やめるか
7 今、実際のところ、なにが起きているのだろうか
8 みんなではたらくためにどう呼びかけるか

何かのインスピレーションになったなら幸いです。ぜひあなたの気づき、実践した経験を教えてください。

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