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実話怪談:廃墟の怪

ネットで心霊スポットや怪談なんかを漁っててよく見る言葉に「心霊スポットで本当に危ないのはそこにたむろしてる地元の不良」っていうのがあって。

心霊スポットっていうのは大多数が郊外の廃墟だから、特に夜中に肝試しのつもりで行くと、ガラ悪いのが集まってて心霊現象どころじゃない物理的な身の危険があるっつう話なんだけど、経験者に言わせるとこれはガチ。

そもそも奴らはそこが心霊スポットだと思ってない。ネット見ないし、学校にも行ってないから。灰皿がないだけの喫煙所くらいにしか思ってねんだわ。だから基本行くのはお勧めしない。言っとくけど経験者って言うのは俺がたむろしてた側ってことね。

イキるわけじゃないんだけど、一時期無気力になってた事があって、同年代の仲間とか年上の先輩とつるんで学校も行かずフラフラしてた。今からするのはその頃の話。

当時高校生だった俺は昼間から仲間とゲーセン行ったりしてて。そいつらはだいたい中学が一緒だった地元の友達なんだけど、たまにその先輩が輪の中に入ってくることがあった。目つきは鋭いわ体はデケえわ、笑いながら人をブン殴った話するわで俺は内心ビビってたんだけど、周りの友達からは慕われてたんできっと面倒見は良いタイプだったんだと思う。

で、ある時先輩から電話がかかってきた。その日は友達の田中(一応仮名ね)の家に友達4人で集まってダラダラゲームしてたら、急に今いる奴ら皆で来いって言われて。先輩がそんなこと言うの初めてだからまずその時点でビックリしたんだけど、その上さらにバット持って来いって言うわけ。

やべえなって思った。野球するわけじゃねえだろうと。

けれど何するかまだ聞かされてもいないから、俺たちは皆して田中の家からバット持って行ったね。4本。何叩かされるのか知らねえけどさ。

途中板垣の奴がずっと「てかやばくね?」つってて、目で俺に「フケようぜ」って訴えてきたけど、人当たりのいい田中が「先輩が俺ら呼ぶなんてよっぽどだから」ってなだめてた。

俺は田中の言うことにも一理あると感じたから、先輩が何か困ってるのかも知れないと思って大人しく着いてった。それに日ごろ喧嘩してないわけでもなかったんだよね。俺は。よくビビらなかったなとは思うけどさ。

先輩は駅前に車止めて俺らのこと待ってて、俺らが来るの見て「いいから乗れ」って急かしてきて。乗ってから外見たら警官がニ、三人遠くの方でこっち見てた。多分俺らを待ってた先輩のこと怪しんでたんだと思う。

先輩が車出した後に俺の隣に座ってた加藤が「どこ行くんですか?」って聞いたら先輩は半笑いで「楽しいとこだよ」つったんだけど、俺は内心「そんなわけねえな」と思って。加藤はもう一回聞くかどうか迷ってたみたいだけど、先輩が音楽かけ始めたからそれ以上は話しかけられない不陰気になって、結局聞かなかった。

そのまま1時間くらい走って、車がどんどん山の中入ってくの。建物もどんどんなくなっていって、もうどっち見ても木しか生えてない感じの山。最初イノシシ倒しに行くのかと思ったわ。そしたら先輩が何もない道路脇にいきなり車止めて。「降りろ」っつうわけ。4人でバット持ってその場で整列したよね。

そしたら「着いてこい」って言われて、先輩がどんどん道のない森の方に入ってった。獣道ってやつ。先輩もまた獣なんだなって思った。出かけた時は昼間だったんだけど歩いてるうちにどんどん日が暮れて行って。暗くなってきた頃に急に目の前に舗装された道路が出てきたんだよね。それも入り口のところにチェーンがかかってて、「立入禁止」のプレートがぶら下がってるの。

俺からしたら目的地がわかったような気がして一安心だった。どっか警察がうるさくないところへ行こうや、くらいのことだと思ったね。それにしちゃバットの意味がわかんねえけど。先輩がチェーンを跨いで先に行くんで俺らもそれらに着いていった。木で見えなかったんだけど奥の方にでっかいビルがあって。何の建物かわからないけど見るからに廃墟だった。

始めに書いたけど廃墟とかバカでかい遊び場みたいなもんだから。見た時には俺はテンション上がったし、加藤も「良(イ)っすねここ」って言ったんだけど、先輩は「だろ」ってそっけなく言っただけで険しい顔してた。だから俺も内心のウキウキをぐっと飲み込んで黙ってたね。そしたら先輩はどんどん建物の中に入ってった。

元はたぶん病院だったんじゃないかと思った。廃墟だから見分けつかねえんだけど。自動ドアが開いたままになってて、その手の廃墟って中はぐちゃぐちゃで汚えんだ。とにかく一面ゴミだらけだった。先輩は広いホールみたいなところの真ん中に立ってキョロキョロ周り見てたんだけど。すぐこっち見て、「バット貸せ」って言った。

田中がバットを差し出すと先輩はそれもってホールの隅の方に歩いてって、よく見たらその暗いところに壁の方向いて立ってるやつがいて。

その時初めてわかったね。先輩はここに人シバきに来たんだって。

俺は先輩が近づいてっていきなりぶん殴るのかと思ったんだけど、そんなことはなくて。「オメー」ってまず声かけて、誰かの居場所を聞いてるみたいだった。でもソイツ全然返事しなくて。で、先輩が歩いていって肩掴んだらいきなり振り返って組み付いてきたの。

板垣が「やっべ」つって。俺らで引き剥がしに行こうとしたんだけど、その前に先輩がソイツ壁に押さえつけてて。やっぱ強えんだわ。先輩。タッパあるし。「何々の奴どこいンだよ」ってまた聞いて、相手がなにか言ったの聞いてそのまま突き飛ばしてた。

先輩は田中にバット返して、「他にいねえか探ッぞ」って言って奥に歩いてった。俺らみたくここにたむろしてる奴らがいて、そいつら探すのに人手がいるんだな、多分。廊下とか窓のないとこは真っ暗なんだけど、ビビらず前を歩いてく先輩はやっぱ風格があったよ。

そのうち一番後ろにくっつていた板垣が「あれじゃないですか」って指差して言うんで、振り返ったらちょうど廊下の角のところに立ってるんだけど、指差した角の先から白っぽい明かりが射してるわけ。なんで周りが真っ暗な中でも板垣の姿だけハッキリ見えた。で、「すげえ人居ッすよ」って言うから俺も見に行こうとしたら先輩に「待て」って言われて。

先輩はそこで逆に「板垣オメちょっとこっち来た方がいいんじゃね」って言って。言われたとおりに板垣が歩いてきたら角から射してた明かりがパって消えたの。板垣も後ろ振り向いてビビってた。角の先を覗き込んで「さっき天井の電気がついてたンす」だの「ドアも全部開いてたンす」だの言うんだけど、人当たりのいい田中が「気のせいだ」つってなだめてその場は収まったんだよね。

気を取り直してまた歩いてたらそのうち前の方からガラ悪そうなのが3、4人連れで来て。よく見慣れたチンピラだったね。俺はいよいよかと思ってバット肩に提げてさ。俺の他の友達も皆「やらいでか」てなもんよ。そしたらそいつらが案外やる気ねんだわ。先輩とそいつらでちょっと話した後、先輩が俺らに「オメーらここで待ってろ」って言ってそのまま奥行っちゃって。

で、去り際に先輩が振り向いて「変な部屋入んなよ」って言うわけ。俺は「ガキ扱いかよ」って思ったけど大人しくしてた。そしたらすぐ近くにあるドアの向こうから人の話し声が聞こえてさ。何言ってるかよくわかんないんだけど、それが俺らのこと話してるような気がしたんだよね。「許せねンだわ」とか「ありえねエ」とか。とにかくそんなような事言ってた。

だからドアをバンって開けて中見たら誰もいなくて。でもまだ声が聞こえるの。どこから聞こえるかって言うと今しがた開けたドアの裏からなんだよね。引いて開けたドアと廊下の壁の間に誰か立ってそこで話してるの。とっさに持ってたバットの先でドア突っついたんだけど、ドアが押されて壁にぶつかっただけで、声がしたはずのところに誰もいなかった。

その時「オメ何やってんの」って加藤が聞いてきて。俺は自分が聞いた声のことを説明しようとしたんだけど、「じゃなくて」って加藤が言うんだ。「部屋の中入ってンじゃん」って。俺その時自分でも知らない間にドア開けた部屋の中に歩いて行ってたみたいなんだよね。それに気が付いた時めちゃくちゃ大量の汗が出て。

「加藤、俺やべえ」って言ったんだけど、加藤は「はァ?」って感じで。アイツまで部屋の中に入ってこようとしたんだけど、それを田中が肩掴んで止めたの。それから「バット置いてこい、それで帰れっから」って田中が言うんで、俺はバットをすぐそこに落としてきて、それで部屋から出てきた。俺が出た後田中はすぐドアを閉めて、「バット拾ってこなきゃとか思わんでいいからな」って言って。俺は頷いてその場でヘタってた。

それからちょっとしたら先輩が帰ってきて。田中が俺のこと指差して「コイツがヤバいっす」って言って、そしたら先輩がしゃがみ込んで顔を覗き込んで来たんで俺は「自分まだ行けますよ」みたいに笑おうとしたけど体が震えて止まらねえんだわ。先輩は「オメーらもう帰(ケエ)れ」って言って田中に金渡してた。タクシー呼べっつうんだな。

俺は「何なんすか」みたいなこと言ってたら建物の外に運び出されてた。でも全然納得いってなくて。「立入禁止」のチェーンの前で仲間に自分がもう動けるところを見せてやって、どうしても戻るって言い張ってさ。皆「これ以上はヤバい」「絶対(ゼッテ)ぇヤバいし死ぬ」っていうんだけど、俺が気持ちマジなのを見てとうとう折れてくれたわけ。田中はガチで俺を行かせたくなさそうだったけど、最後には「やるよ」つって持ってたバットをくれた。

一人で建物の中に戻ったらまた震えがして。それと唸り声が聞こえる気がして見てみたら始めに先輩が張っ倒したヤローが床に這いつくばっててビビったね。近づいてもガンくれるだけで何もしてこなかったからほっといたけどさ。で、通路に言ったら奥から先輩の声がして。それがガチの喧嘩っぽかったから俺も腹決めてそっち行ったよ。

途中の道はドアが全部開いてて、俺はなるべく部屋の中を見ないようにした。頭おかしくなるかと思ったけど何とか声の出どころまでたどり着いて。そこは2階にあるデカいホールみたいなところだったんだけど、入り口のドアが開いてたから中入る前にこっそり見てみたわけ。そしたら先輩の周りにチンピラみたいなのが大勢いてさ、そん中に多分リーダーだと思うんだけど派手なカッコの奴がいて。「よくブッコミに来たな」とか言ってるんだ。

「連合の面子だけじゃねえ」ってそいつは言ってた。あと「ここの怨霊たちと同盟してんだ。関東最強の騒擾たが(ポルタガ)りを敵に回すかよ」って。先輩は「それが許せねンだわ。死人は死人らしくしとけッての」って言ってた。俺は気が付いたら体が動いてた。

ドアから出てきた俺を見て先輩は「テメ帰れっつったろうが」ってキレてて、そこにチンピラが大勢襲い掛かって。先輩はそいつらを素手でボコってた。やっぱ強えんだわ。先輩。タッパあるし。俺もバットで助太刀したんだけど、役に立ったかって言うとそこまで自信無んだよな。

チンピラがある程度片付いたらハデな服着たリーダーらしき奴が前に出てきて。先輩が俺の方振り返って「助けに来てくれて有難(アリガト)よ。でもこっからはオメーじゃ無理だ。帰んな」って言って、俺はまだ戦うつもりだったんだけど、さっきと同じでまた体が言うこと聞かねえんだ。で、足がどんどん部屋の外に向かって行って。先輩とハデなカッコの野郎のカチあう声が聞こえるんだけど、それももう何を言ってるのかほとんど聞き取れないし、口も聞けないんだよな。

結局体が自由に動くようになったのは建物を出てしばらく経ってからのことで。その時俺は森のど真ん中にいて、どうすれば廃墟に戻れるのかちっともわからなくて。しょうがないから俺は真っ暗な森の中をうろつき始めたんだけど、何時間歩いても廃墟にも舗装された道路にも出られなかった。日暮れからずっと動き回ってたせいでもうバテ方もヤバくて、限界だった。

で、困った俺は持ってたバットをその辺に立てて、適当な方向に倒したんだ。もう何でもいいやと思って。歩き出す前に倒したバットを拾おうとしたんだけど、やっぱり思い直して、倒したままそこに置いておくことにした。そしたら10分もしないうちに車道に着いて。気が付いたら夜が明けて空が明るくなり始めてた。

何とか家に帰ったら仲間は皆先に戻ってて。捜索がどうとか言って警察に色々聞かれたけど、俺は全部テキトーに答えてた。で、仲間の中で俺だけ取り調べされたせいっていうわけじゃないんだけど、その出来事以来アイツらとは何となくつるまなくなって、俺はいつの間にかまともに学校に行くようになってたんだよね。だから結局あれから先輩が帰ってきたのか俺は知らないんだ。何年も経って、先輩に連れていかれた山道を車で通ることがあったんだけど、景色を見ててもあの日どこで降りたのかは思い出せなかった。

いや、あの日のこと思い出すと、世の中には不思議なことってあるんだなって思うわ。

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