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絵本の紹介を物語で。

僕って、何


 僕は、知らなかった。いや、知っていたけれどあまりにも難しかったんだ。
 父親らしい人に髪の毛を引っ張られたところが、まだ痛いままだった。この新しい僕の家、なのだろうか、に来て余計に頭が痛くなってきた。何も話さずに、寝た。
 夜は静かだった。時々誰かが泣いていた。女の子が泣いていた。でもすぐ泣き止んだ。悲しくて泣いているみたいだった。けれども怖くない、それよりも少し気持ちがのんびりしている。泣き叫んでも許してもらえるんだね、わかったよ。ここは、今まですんでいたところよりもずっと、やさしいところなんだ。
 
 気がついたら朝だった。学校が始まる。
 しかしこんなところに来て、学校はどうしたらいいんだろう。頭はまだ痛かったけれど明るくなって、寝ていた僕の身の回りをしっかりと見てみた。この部屋は教室くらい広くて、部屋の半分だけみかんの色のカーペットが敷いてあって、半分は体育館みたいな床だ。でもあったかい。そして静かだ。僕は太陽に見守られてこの部屋で一人で寝ていた。ー本当にここは、どこなんだろう。それ以上のことを考えられなくなって、もう一度布団に潜り込んでみた。しばらくしたら、大きいおばあちゃんみたいな人が来た。そしてとても見た目とは違うちいさな優しい声で、僕に言った。
「気分悪い?頭が痛い?朝ご飯があるんだけれど、食べる?もう少し寝ていたいなら、今日は特別、寝ていてもいいのよ。学校は、今日はお休みしてね。」
(朝ご飯っていうのは、例えばカップ麺の、昨日の残りものだったり、レトルトカレーの袋を破って食べるやつ。上手に食べて、ちょっといい子みたいに見えるようにしよう、ここは僕の家、じゃないかもしれないもの。)
 そう思って、出てきた朝ご飯は、まるで学校の給食の、結構いいやつみたいだった。お味噌汁と、クリームコロッケとハムカツ、五目ご飯とキャベツサラダがあって、リンゴとプリンがあった。これ、朝だけどお昼ご飯なのか?
ー給食は、残さず食べましょう。

 僕はもちろん、そうした。
 食べ終わったら、しょういち先生が来るまで待つように、おおきいおばあちゃんみたいな人に言われた。
 気がつけば3年生くらいの女の子と、5年生くらいの人がいた。ぜんぜん知らない人だけれど、同じように、家族らしい人たちに追い出されたんだろうなって、気がした。着ている服を見れば分かるよ、時代遅れだもの。その二人は、僕がぼおっと部屋中をながめている間、おおきいおばあちゃんみたいな人から、本の読み聞かせをされていた。
 ぬいぐるみの話。いや、ぬいぐるみがしゃべっている話。

お話が終わって、5年生くらいの人が言ったんだ。
「このぬいぐるみはさ、チャッピーって言われているうちは、なんか自分自身っていうものがなくてさ。すむところが変わって、名前変わって、この家のぴーちゃんになって、

すむところとか名前とか変わったら、よくなるんだったら、いいよねすごく」

僕もそう思った。

けれどおおきいおばあちゃんみたいな人は、困った顔をしていたんだ。

だってここは「しせつ」って言われているところだからだって。ここにいるのは、ほんとうは良くないんだって。ずーっと後で、他の先生に教えてもらった。
 僕は今、とっても、いいけどな。

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