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「イランの地下世界」を読んで

イスラエルを取り巻く中東情勢で、10月7日のハマスによる大虐殺、ヒズボラによるイスラエル攻撃など、すべて裏で動かしているのは、イランだと言われています。そして核開発も、その完成が間近とも言われ久しいです。

それで、最近、記事「イランの変革と中東安定化」を書きました。

以前に、ブログでは、数多くイランについて記事を書いていたのを、今更ながら、思い出しています。例えば革命防衛隊に属していた人が、CIAのスパイとなり、後にキリスト信者になった人の自伝、A Time To Betrayは、印象深く残っています。

そして今日、今年5月に発行された、「イランの地下世界」を読みました。

独裁的な大国に住んでいた経験から

正直、読中、読後の感想は、「似ている」でした。私は、ある独裁国家の某国に住んでいたことがあります。表向きの国家体制と、庶民との間隔は思いっきり開いており、強権下にある彼らの強かさを本書は鮮やかに描いていますが、何度も何度も、自分のいた国を想起し、連想する出来事ばかりでした。

日本の「お上の言うことをよく聞く」と言われる国民性とは正反対で、彼らは、国家体制や官製メディアを鼻から信じていないし、批判的精神旺盛であり、そういった意味で自分で考える力が身についています。

「民」→「国」ではなく、「国」→「民」の押し付け

日本など自由社会では、マスコミから流される情報は、その国の官製メディアからのものを、国民も同じように考えていると思いがちです。「国」というものが「民の代表」を示しているという前提があるからです。けれども、独裁国家ではその逆であり、「国」が「民」に押し付けていきます。民は、生き延びていくための知恵や術を身につけている、という構図になっています。

例えば、北朝鮮の人たちが、日本のテレビでよく出てくる女性アナウンサーのようには話さないのです。個人的に会えば、そして監視がないと分かっていれば、人として自由な思考で発言してくれます。ましてや、イランの国民は、各地でデモを起こすほど、北朝鮮よりはるかに自由度は高いですから、自律的な考えを持っていることは容易に想像できます。本書を読めば、政府の方針に、ほとんど影響を受けていないとさえ言えます。

政変が予想できるイラン国内情勢

ただ、イランは、私の住んでいた国と大きく違うと感じた部分があります。実際に、比較的最近、革命を起こしていることです。王政から、イスラム共和国に変えたイスラム革命(1979年)があります。そして、今も再び政変が起こる機運がかなり立ち込めている様子が、本書を読んで分かりました。

私のいたところは、まず、そういった政変は起こらないだろうと感じています。相当のことがない限り、これから何十年も続くでしょう。イランは、もっと個人主義や独立心が旺盛な人々なんだろうなと感じました。

政変があっても、結局変わらない体質

しかし、著者は、最後の章で、「独裁の無限ループ」と言って、一つの独裁国家がなくなっても、また新たな独裁的国家になる可能性があると論じています。国民性として、自分たちが小さな独裁者になりたがっている傾向があるからです。

そこは、かつて住んでいた国でもいえることで、第一に、あまりにも庶民たちに個性や活力があり、強権と独裁でまとめなければ、日本の戦国時代のような、群雄割拠のような状態になり、社会が不安定と混乱の中に落ちて行ってしまうというのが容易に想像できます。第二に、イランが王政からイスラム主義に代わっても、結局、その性格は変わらないという指摘がありましたが、イデオロギー的には正反対であっても、やっていることは同じ、という点でも似ています。

「横並び」になる日本社会の怖さ

私の心配することは、こうした官製メディアの発信していることを、鵜呑みにしている日本国民があまりにも多くいることです。日本には、政府のいうこと、マスコミのいうことは正しいという前提が、まずあります。もちろん、そうした国々の言っていることに比べれば、はるかに事実に基づいた報道をしています。批判的目線でありながら、信頼に値する情報はしっかり受けていくべきです。

しかし、プロパガンダ(国益のための、虚偽をちりばめた宣伝)として流しているそれらの国々の情報を、そのまま垂れ流している構図が、日本には、がっちりとあります。喩えると、「オレオレ詐欺」で騙されてしまう、ご高齢の方々と同じようなことが、中東情勢の報道では起こっているような気がしてなりません。

中朝からの官製メディアの報道を、日本国民はほとんど信じていませんね。拉致被害者の今の状況を北朝鮮政府が伝えるのを、信じていないと思います。福島原発の処理水問題ですが、中国は未だ汚染水と呼んで、輸入を禁止しています。国民の大半は受け入れていません。でも、ハマスやイランの宣伝は真に受けているのです。これが、はっきり言って、気持ち悪いです。

しかも、学者や政府までが、それを後押しするような情報を発信します。これも恐ろしいこと。けれども、かつて中国の文革を称賛した学者やマスコミはがあったことを思えば、現実にありうることです。だから、一様に同じ内容なので、洗脳されてしまいます。

でも、当のイラン国民が、今のガザ戦を含めてイスラエルを支持している人が数多くいると知っているでしょうか?信じられないと思うでしょうが、無数に、イスラエルを支持するイラン人の動画や写真がSNSで出て来ています。

イランの浸透工作も?

こちらの記事のように、もしかしたらイランの対外影響工作が働いているのかもしれない、とさえ疑ってしまいます。安全保障上の問題にも発展するのではないか?と心配します。

以上、現地の人々、庶民の意見から見える国という視点を、持ち合わせる必要性を強く感じた本でした。

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