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岡田斗司夫「ユーチューバーが消滅する未来」を読んで

今、仕事である企業の海外市場向けYoutubeチャンネルの仕事をしています。日本企業がグローバル市場向けにようやくこのプラットフォームを本格的に活用するようになったことは感慨深いです。

2011年、僕は、勤務先の広告会社の新規事業の一環で、世界中の消費者クリエイターが企業のマーケティング活動におけるコンテンツや商品開発を手伝うことができるプラットフォームを運用するeYekaというフランスのスタートアップと戦略提携をして、責任者となりました。大企業向けに百数十カ国から届く様々なバックグラウンドを持った消費者から届くアイデアは刺激的で衝撃を受けました。でも、不思議なことに僕の同僚や、クライアントの多くの方々が、それらのアイデアを「ただの素人のゴミアイデア」としてみなしました。率直に言えば無視しました。その原石の奥底に詰まるダイヤを探そうとしませんでした。僕は彼らが無視する本当の理由がわかっていました。世界中のクリエイターやプランナーが自分の敵になると無意識に思ってしまい、それを差し止めようとしているのだと。

この新規事業はそういうプレッシャーに阻まれ、なかなか事業化しませんでした。それでも、僕はこの流れがやがて本流になると確信し、この会社と付き合いつづけると共に、消費者が企業のマーケティングやビジネスを主導してゆくようなモデルを推進する様々な海外のスタートアップやスペシャリストとのネットワークを構築し続けました。そして、とうとう十年前に見えた近未来の風景が今、まさに具現化されつつある今、その只中にいてエキサイティングな仕事ができるようになりました。

この本は、デジタルとグローバリゼーションと消費者が力を持つことになったソーシャルメディアとそしてAIがこれからどんな未来にしていくのかを極めて率直に予測しています。その予測は僕が、上記のような仕事をしている関係で見えてくる風景とほぼ同じだと思いました。海外のスタートアップの起業家や社員、インフルエンサーやYoutuberと仕事をしていると、ビジネスがダイナミックに変化していて、人々の働き方が変わり、これは日本も同じ流れになるだろうと数年前から思ってました。

「未来」への感受性の重要性

著者は序章で率直なアドヴァイスをしています。

言うまでもないことですが、格差はますます拡大していくことになります。その格差とは、所得や教育というより、未来に対する感度によって生じる「未来格差」です。未来がどうなるかを常に意識し、自分の行動に反映できるかどうか。

さらに、こんな指針を示してます。

これまで僕たちは、水の豊かなオアシスで気楽に暮らしていました。水が欲しければ、その辺から好きなだけ汲み上げて喉を潤すことができました。でも、これからはそうはいきません。水はすごい勢いで干上がっているんです。「どの水たまりが最後まで残りますか?」なんて、のんきなことを聞いている場合じゃない。そんなこと誰にもわかるわけないんですから。足をできるだけ生やし、1箇所だけじゃなく、何箇所もの水たまりに同時に足を浸けるようにしないといけません。そうしないと、一つの水たまりが消えただけで死んでしまいます。

僕は前述したeYekaのファウンダーからアドヴァイスされて2011年からLinkedin をはじめました。仕事で知りあった世界各国の人々とこのプラットフォームで繋がり、そのネットワークを通じて仕事することも少なくありません。そして、このプラットフォームを日々確認していると、つながった知り合いが、迫りくる大きな変化に備えるために新しいチャレンジをしたり、積極的に情報発信している一方、長い間次の仕事が見つからずに苦しんでいることが予想されるような人もいます。世界中の人々が大変化を受けて必死です。

生き残るための仕事の見つけ方

著者がどのような未来を予測しているか?これについてはぜひ本書を購入して読んでいただきたいと思いますが、僕はもう一点、皆さんに引用してご紹介したい章があります。終章です。この終章が、岡田さんらしく、きれっきれの表現に感動してしまいました。この章は以下のような表現から始まります。

じゃあここでは特別に、「残る仕事」ではなく、「生き残るための仕事の見つけ方」をお教えしましょう。その方法は2つだけ。うまくやっている人の役に立つか、うまくやてっている人の機嫌をとるか、どちらかです。

身も蓋もない意見だけれども、僕も同じ意見です。十年間、膨大な数の海外スタートアップと会い、縁あった会社と一緒に仕事をし、成功と失敗を繰り返してきました。その過程で、担当者とは、たいてい仲良くなり、Linkedinで繋がります。するとその後の彼、彼女の人生がずっとわかります。もちろん、彼らも僕のその後の人生がわかります。そこには生き残るための行動が記されていきます。例えばケンブリッジ大学の天才に声かけられ創業メンバーとなり、成功し、アーリーリタイアメント状態の40代のイギリス人の知り合い。潰れるスタートアップに入って路頭に迷うが、彼女を高く評価すう知り合いに請われて巨大プラットフォーマーの社員になれ幸運を勝ち取ったタイ人の知り合い。会社のイメージがクールで最先端をいくクリエイティブブティックのアジア支社のトップになったけれども、実はこの会社の業績は大不振で、アジアに過大な期待をかけて雇われたが、それに応えることができず1年で解雇されたインド人の仲間。そういった彼らの人生を左右する選択が、上記の岡田氏のひどく現実的な行動指針をベースに決定しているか、が大きな要因だったように思います。でも「うまくやっている人」を見つけることの難しさと、そういう人たちの役に立つことの難しさがありますね。

気をつけてほしいのは、探すのは「仕事」ではなく、「人」だということ。会社に雇われることを当たり前だと思っている人は、ついつい「仕事」を探してしまう。年功序列や終身雇用の仕組みがあって、いったん会社に入ったらずっと安泰だった昔ならそれでよかったのですが、そんな仕組みもう崩壊してしまいました。あなたを評価してくれるのは、特定の「人」。その「人」がいない限り、報酬も役得も得られないのです。

そして、最後にこう締めくくります。

自分が大成功しなくても、身近にいるちょっとした成功者にくっついていけば食いっぱぐれはありません。僕たちの社会は、その程度には豊かになっているんです。最低限の生活が保証されているんだから、未来は面白がった者勝ちですよ。

ビジネス書には書かれない率直な人生指南が満載でした。お勧めです。


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