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6/20 東方のヴェニス・スリナガル
昨日の14時にレー(Leh)を出発したスリナガル(Srinagar)行きのバスは、ちょうど深夜0時にカルギルを少し進んだところで停車し、仮眠タイムとなった。
リクライニングがなく、満席のバスである。
座ったまま、しかも身動きできない状態で熟睡できるわけがなく、うつらうつらとしているうちに辺りが明るくなってきた。
夜明けと共に、乗客が身動きする気配が大きくなる。
誰かがバスのドアを開けて外に出る。
ぼくもそれに続いて外に出てみた。
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夜明けの冷たく澄んだ空気が身を包む。
雪を頂いた連峰の真上に、下弦の月がぽっかりと浮かんでいる。
周りを見渡すと、たくさんのデコトラが列になって停車していた。
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ラダックとカシミールの境目に位置するこのポイントは、長距離ドライバーの休息地だったのだ。
一番前の席に座っていた男性客が、運転席で毛布にくるまっていたドライバーを起こし、午前5時にバスは出発した。
激しく車体を揺らしながら、バスは砂利道を駆け抜ける。
ぼくは相変わらず、夢と現実の間を彷徨っていた。
ふと、顔を上げる。窓の外を見て驚いた。
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あまりにも、あまりにも緑が濃いのだ。
さっきまで続いていたラダックの荒涼とした山岳地帯が嘘のように、豊かな森が広がっている。
豊かな水を湛えたインダス川が、細いながらも激流となって下っていく。
いつの間にこんな風景になったのか。
あまりにも唐突に、窓外の景色が大変貌を遂げていたのだ。
斜め前の席に座っていたローズ(才媛コンビの1人)が振り返って、「Welcome Kashmir」と微笑んだ。
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相変わらず空気はひんやりと冷たい。
朝霧が山々を取り囲み、まさに深山幽谷の趣なのだった。
深く吸い込んだ空気が、ラダックでは体感しなかった湿り気を帯びているのを感じた。
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変化したのは自然だけではない。
バスの中で、アザーンの優美な詠唱をかすかに聞いた。
集落にはモスクやアラビア文字が目立ち始め、イスラム文化圏に突入したのを実感する。
人々の顔立ちも、色白で彫りの深い西アジア系のものになっている。
男性はゆったりとした白いガウンのようなものに身を包み、女性はヒジャブで顔を覆う。
日本の梅雨のように、しとしとと雨が降っていた。
この雨が、カシミールに豊かな自然をもたらしているのだろう。
ラダックの隣でありながら、なぜここまで気候環境が異なるのか不思議だ。
季節風の方角や山脈のちょっとした位置関係が、この差を生んでいるのかもしれない。
スリナガルの郊外に近づくと、田んぼが姿を現した。
日本の田園風景を思い起こさせる。
乾燥した山岳地帯から、清々しい森林地帯へ。
周りの自然は日本人にとって馴染みのあるものになっているのに、行き交う人々の顔立ちや街並みは異国のものへと変化していく。
そのギャップが面白い。
午前9時、スリナガルのバスターミナルに到着。
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鬱々とするような天気だが、砂埃が舞うラダックから来た身としては、恵みの雨であるように感じられる。
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チェンナイのものよりもシックな見た目。
ジャンムー&カシミール連邦直轄領の夏の州都であるスリナガルは、標高約1,600mに位置する高原都市だ。
ラダックほどではないが、夏でも冷涼な気候である。
…ということらしいが、今日はずっと雨が降っているので、体感気温はラダックと同じくらいだ。
スリナガルの市内には湖が点在しており、『地球の歩き方』によれば「東方のヴェニス」「地上の楽園」とも称されているらしい。
中でも、ダル湖は宿泊施設のハウスボートや遊覧ボートのシカラが密集し、街のシンボルになっている。
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というわけで、バスターミナルからほど近いダル湖畔に向かう。
シカラをチャーターし、2時間ほど遊覧を楽しむ。
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ボートに乗った物売りがやって来て、熱心に売り込みを始める。
ちょっと面倒くさい。
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カシミール製品やドライフルーツなどの土産物屋が立ち並ぶ通りに入る。
一件のカシミールショップの前にボートは留まり、船頭が「中を見て来い」と言う。
(ははーん、マージンを貰ってるやつだな)と思いつつ、土産物屋の中に入ってみる。
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カシミヤのストールやセーターが積まれている。
店主が勧めてきたストールの中に、ステキな柄のものがあったので、一応値段を聞いてみる。
原産地なので日本よりは安いだろうが、それでも簡単に買えるような金額ではあるまい。
店主は電卓を持ってきて、まず「8」と打ち込んだ。
8,000ルピー(約13,000円)かあ、やっぱり高いな、とぼくは思った。
しかし、店主がぼくに提示した金額は「850」であった。
え、1,500円……?
実際のところ、カシミヤの相場はよく分かっていないのだが、想像していたよりはかなり安い。
これだけ安いと本物かどうか怪しくなってくるだが、触ってみた感じは軽くてサラサラしており、それでいて首に巻いてみるとしっかりと温かい。
仮に他の繊維との混合だとしても、デザイン自体が気に入ったし、1,500円なら安いお土産だと思って買ってしまった。
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その後、船頭おすすめのハウスボートに案内され(これもマージンを貰っているやつだと思う)、値段交渉をして1泊することにした。
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湖に浮かぶハウスボートなので、ベッドで横になるとゆりかごのように少しだけ揺れて心地よい。
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一度ハウスボートに入ってしまうと、外に出るにはボートが必要になる。
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まだ昼過ぎだったが、雨が降っていて観光ができそうにないし、何より寝不足だったので、今日はハウスボートにこもっていることにした。
スリナガルとは全く関係のない話だが、YouTubeを見ていたら、Netflixの公式チャンネルで『RRR』の最大の見せ場が一部公開されていた。
劇場で見た時、度肝を抜かれたのシーンなので、ぜひ見てみてください。
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