夜の渋谷徘徊
多くの人にとって「フィルム」とは紙に印刷されたスチルを指すのだろうけど、僕にとっての「フィルム」とは即ちフィルム撮影された映像のことだ。35mmもしくは16mmのフィルムを映写機にセットし、銀幕に映し出される映像のイメージだ。
写真界隈の「フィルム」という用語にずっと違和感を感じていた。ズレているのはもちろん僕の方なのだろう。映写技師として働いていたという経験は確かに特殊だ。
渋谷は僕の職場がある街。僕の現実を象徴する街。退屈で醜悪な街。
ネストール・アルメンドロスは「レンズを通すと何でも美しく写ってしまう」ということを述べていた。
僕は、そんな渋谷をレンズを通して写し、まるでフィルムのように現像する。いったい何のためにそんなことをしているのだろうか。
写真の世界には「記録色」と「記憶色」という用語がある。意味はよく知らない。ただ僕にとって写真とは、記録を目的としたものではないし、記憶に忠実であってほしいとも思わない。
写真が写す世界が常に現実と完全に一致するのなら、僕にとって写真なんて何の価値もない。
人間の視線が捉える風景とは明らかに異なる中望遠の85mmレンズ。ずっとファインダーを覗いたままでいたい。そんな気分だった。
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