連載*『踊りと私の話15〜何者〜』
朝から元気にいこう。
行ってきます。
*
こんにちは!
私の名前は、きこ。
踊りから始まった自分のいろんな話を毎週ここでしているの。
今回、思うこと。
あのね。
自分の心地いい世界って、あると思うの。
だけど、それがどんなことなのか、そんなの知らないで生まれてくるからさ。
自分で感じていくことなんだろうなって思うの。
でさ
そうやっているうちに、今度は「みんなはこうなのに」っていう気持ちが出てくることも多いでしょう?きっと。
だって。
自分の心地よさが「普通」とか「みんな」とは違うことだって多いんだもの。
今日は、そんな感じの話!
踊りに人生救われたと思っていただけだったのに、ずいぶんびっくりな自分になっていく私の話よ。今日も楽しんでもらえたらいいな。
じゃ、始めるね!
✴︎前回の話
*
きこは朝が弱い。
それからもうひとつ。
すごく寝る。
放っておくと12時間くらいは平気で寝ている。
それは小さな頃からで、高校を卒業する頃になっても変わりはなかった。
高校を卒業する時。
みんなが進学や就職の準備をしている中、きこの進路は自然と決まっていっていて、それは、その時にはすでにレールに乗って走り始めていた芝居や踊りの方へそのまま進もうというものだったけれど、その決断の中に実は「毎日同じ時間に起きなくていい」という理由も、奥の奥の方のどこかに密かに入っていた。
内緒だけど。
同じ時間に起きて、電車に揺られて
毎日同じ場所へ通う。
それはもう充分やったもの!
世の中の大半の人たちが頑張っていることができないというのは困ったもの、と思いはしたものの、自分の楽しいことやりたいことのためならすっきりと起きられてどんなに睡眠時間が短くたって楽しんで笑っていられる。それは実践済みで、わかっていたもので。
知ってしまったのだもの。
自分の心地よい世界を。
出会ってしまったのだもの。
そんな自分と
そうやって生きることができる世界を。
もちろんつまらない思いをすることも、自由だからこそのしんどさも、時にはとんでもない睡眠時間になることがあることも、もっと予想外のことだってきっとあるのだろうことはわかっていたけれど、それよりも、同じ毎日が続くと思うことの方が耐えられないと思ったのだった。
そうして、きこは自然な流れで自由な世界を泳ぎ始めていた。
*
ところで。
そんなのんきなきこをよそに、その進路を聞いた周りの大人の人たちは若干ざわついていた。
「また一人、道を誤らせてしまったかも、、」
高校生の女の子が楽しく活動している、というだけなら、それは若き日の楽しみ。
その時期夢中で頑張って、いくつもの舞台に出て、夢も見て、だけど卒業後は就職もしくは進学して別の何かを目指しますというのであればなんの問題もない。「おう、頑張れ!」と快く送り出すだけのこと。しかし。
本気で「この世界で生きていきまーす!」となると大きく違う。
決断するのはその子であり、どう生きていくのも自由、壁にぶつかって辞めるも乗り越えるのも勝手にどうぞである。とはいえ。
その子に関わっていた、その世界で生きている大人の人たちにしてみれば
「あー、、、そうか、、、」
であり、実際にそう思ってくれる大人に、きこは恵まれていたのだ。幸運にも。
*
その時きこが関わっていた人たちは幅広かった。
とても個人の活動とは思えないほど。
舞台。大劇場も小劇場も。
芝居。ミュージカル。ダンス。
映像の世界。様々なイベントや、、。
ひとくくりに「芸能」というそこは狭い世界でもありながら、きこが関わっているそれぞれは案外つながっていなかったりするのもこの世界の不思議なところ。
いつもの場所でダンスの訓練に明け暮れているかと思えば、ある時はステージに、翌る日はパレードやショーで踊っていて。
しばらく気配がないと思うと芝居やミュージカルの稽古中であったり。
舞台であちこちのホールにいたかと思えばいつの間にか戻って喫茶店で本を読んでCDショップで曲を探していて、そして。
どこからか呼ばれてはオーディション会場でけらけら笑っていたりする。
それを、それぞれの場所の人たちは全く知らないきこの姿だということが不思議で面白かった。
いつも違う世界へとぷん!と飛び込んで心地よく泳ぎ、明日は別の水の場所に飛び込んでいく。
誰からも管理されることなく、自然な縁の中でいただいたものの中から自分でやりたいことを決めていく。
これが、何よりも心地良かった。
こんなふうに、どこか特定の場所に所属しないで、いくつもの海を自由に泳ぎ回る魚みたいなきこは、当時、ちょっとめずらしい存在だったようだった。
それは、別に、きこに才能や実力があったとかそういうことではない。
高校時代の活動場所とそこから広がっていった場所がたまたまいくつもあっただけのこと。
先々で出会っていく人たちの誰もが、とにかくとにかくあたたかい人たちだったということ。
きこの「このままいきまーす!」というあまりにあっけらかんとしているその無鉄砲さに慌てたそれぞれの場所のそれぞれの人たちがそれぞれに、「自分の持っている中でなにかを」と思ってくれたことで起きていったというだけのことだった。
そして、出会う人々や環境はいつも素晴らしくて、そういうものにきこはとても恵まれた。
それは本当に有難いことだった。
*
ふらふらとしているようで、毎日が刺激的で、吸収することに囲まれていて、たくさんの出会いがある。
それぞれの世界で
一つの出会いから、次へとつながってゆく。
何本もの枝が心地よく茂って
大きな木になっていくように。
若いから教えてもらえたこと。
叱られたこと。
若いから許されたこと。
可愛がってもらえたこと。
あちこちの世界で出会う素晴らしい人たち。
笑って、凹んで、落ち込んで、学んで、無邪気に走りまわりながら、こうしてきこの世界は広げていってもらえたのだった。
縁が繋いでくれる楽しいこと、心が反応すること、素敵な人たち。
言葉を使っても、使わなくても、演ずることでも、踊ることでも、歌うことでも、音楽の中で世界をつくっていくことでも、舞台でも、映像でも。
自分がその場と何かの反応を起こしてひとつの世界が生まれること。
新しい景色。
新しい自分との出会い。
これが、きこが夢中になっていったことで、それはその先もずっと変わらないのだった。
そしてもうひとつ。
寝るのが好きなこともずっと変わらなかった。
「踊ることが楽しいって思っていた子がいろんなことになっていっていて。まさかこんなに早起きすることも多くなるなんて予想外だっけど、まぁ、いいや。楽しいもの。
で、、。私、何者なんだろうな」
この頃、寝る時によく考えていた。
考えたって答えは出てこなくて、いつもそのまんまぐっすりと眠ってしまっていた。
いつか何者かになるのかな、くらいは思ったりもしていたけど、それがなんだか、何者になりたいのかもよくわからないのだった。
実は、その先もずっと、何者にもなって何者にもならない、というままやっていき、最終的にはそれが自分の一番心地いい生き方だと知ってくなんて、この時のきこは知らなかった。
眠りは、いつも優しくきこを包んでくれた。
***
〜作者より〜
今回もお読みくださりありがとうございます。
以前別の場所でも書きましたが、ライド型の人生というのが楽しく心地よいものなのです。誰とも同じではないかもしれないのですが。
それを受け入れるのに少々の時間がかかったようにも思いますが、奥底ではずっと楽しんできたようにも思います。
さて。前回から書き方を少し変えたのですが、この書式が読みやすいというお言葉をいただいて、あぁよかった、と思いました。
自分の違和感を捉えて心地よい方向へ変えるのは時にちょっと勇気がいるのですが、こういう場所ならではの自由さかなと思っています。
今後も、何かに縛られてしまうことなく、いつもその時のベストな形にしていかれたらいいなと思います。
次回の更新予定は来週、、なのですが、、
夏の間色々と予定が重なっていることもあり、一度、呼吸をする時間として、数回夏休みにしようかなと思います。
ただ、完全お休みにしてしまうのではなく、小話みたいなものを挟んでいったり、不定期更新していくような期間にしようかなと。
その時にはお知らせします。
数回挟んでまた通常の連載にしますね。
あちこちでいただく応援のメッセージや、読んでますよ!のお言葉がとてもとても力になっています。
いつも本当にありがとうございます。
お水飲んで、深呼吸して、心を大事に
みんなみんな、良い夏をお過ごしください。
一話目のお話
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