標高3000mの大散歩_立山縦走 ③未体験ゾーンへ進む…美しい景色と言葉に支えられ
立山雄山の山頂で。
ガスが抜けた青空のもと、歩きたい縦走路が目の前に広がっている景色を目の前にして「進むっきゃない」と思った。
雄山〜大汝山・大汝休憩所での出会い。
雄山までは一度歩いた道だったが、ここからは未体験ゾーンに入る。
足元の道そのものだけでなく、標高、高度感含めて初めての体験。
標高3000m前後で登山道らしい場所を歩くのは、今年の燕岳?
…でもそれは“かじってみた“レベルに過ぎなかった。
立山の最高峰は大汝山3015m。標準コースタイムは20分。
歩き出してすぐの場所に滑りやすそうな平坦な岩が坂道のようになっており、上からだと滑り台のように見えた。その岩を歩いて降りる場合は捕まるところはなく、左側は崖っぷち。
その右に通れるスペースがあるが足元は切れ落ちていて、普通に足をおろしても足場に届かなそう。でも右側は岩の壁に守られていた。
“大汝まではサクッと行ける“という山行記録が多かったよね⁉︎→違うやろ、というのが最初の感想(確かにここを抜ければ大丈夫だと、後でわかるのだが)。
登りであればその滑り台のような岩を慎重に行けば問題なく上がれるんだろう(ペンキの跡もあった)けど、私がここを下ると滑ってしまうイメージしか湧かず、足元は難しいが捕まるところのある右側を降りることにした。
トレッキングポールはもともと1本しか使用しないのだが、この時は「しまっておけばよかった」と思った。ポールをしまうためにゴソゴソ動くことすら怖かったため、仕方がないのでここはそのまま行く。
なんとかその場所を通過して、足元を確保し顔を上げると…
ど〜んと丸見えの縦走路と剱岳。
高度感と闘って、ホッとして、その後これかよ…まいったな。
きっとこういうことの繰り返しが、人を沼らせるんだよな😆
と、若者のような言葉で心の中でつぶやく。
そこから20分ほど比較的安定した岩の道を歩くと、右側の眼下に黒部湖が見えた。
そこから5分ほど歩くと、大汝山の山頂が見えてきた。
事前に山行記録をみて“休憩所から山頂へ登る“と書いてあったので、この場所からは登らず少し進む。2分ほど歩くと大汝休憩所(写真撮りそびれた)にすぐ到着し、目の前には山頂へ向かう表示があった。
雄山からここまで、誰にも会わなかった。
休憩所の前も無人。とても静かだった。
標高3000m、左側は崖っぷちという高度感、そして無人という状況が足の進みを遅くして、この区間の通過にはコースタイムの倍近くかかった。平地では倍のスピードで歩く速足の私なのだが。
補給したばかりでもあり、休憩所に寄らずに先に進もうとしたものの…
今回、カラシ色の手拭いを探していたことをなぜかここで思い出した。
大汝休憩所の入り口に手拭いが飾ってあった。たくさんの色味があった。くすみカラーが多く、私好み。
そして、カラシ色もあった。
ドアを開ける。登山者は誰もおらず、電気があまり点いていない。この時は外もガスっていたため、中は暗かった。
奥の受付に、よく日焼けしたご主人が肘をついて座っていた。
手拭いの支払いをしながら…
ご主人(主)は表情を変えずに
「今日はいい天気だよね、よかったね」と声をかけてくれた。
私「そうですね〜でも今ガスっちゃいました😅」
主「うん、それは下が暑いからだよ。今日は天気いい」
私「なるほどそうですね」
主「明日からまた崩れるからね。昨日も。…うん、今日だけだよ、天気いいの」
私「ほんとに、ご褒美ですね」
主「うん、楽しんで」
仙人のような?(失礼💦)ちょっと怖い雰囲気もあるご主人の
【今日だけ】という言葉がなぜか刺さった。
そして【楽しんで】という言葉も。
…私の顔が緊張でこわばっていたのだろうか。そうかもしれない。
【今しかないこの時を楽しめ!】私には、そう聞こえた。
そうだ、怖がっている場合じゃないんだ。
私が、自分で求めてこの状況に自分を連れてきたんじゃないか。
そして、この場面は二度と訪れないかもしれないのだ。
・・・
さあ、進もう。
ポールはザックにしまった。
大汝山〜真砂岳
ガスが広がり幻想的な縦走路になっていた。
休憩所を出てすぐに、1人の対向者とすれ違った。
その後、おそらくほぼ同時に雷鳥荘を出発したと思われるご夫婦とすれ違った。
逆回りだったということだろう。
人の気配にホッとしている自分がいた。
右上に富士の折立が見えた。
ペンキの表示のない(と山行記録にあった)岩の道を登ることも選択肢だが、ここでも1人。下山までの気力を温存するためにも今日は見上げるだけに留め、先に進む。
この先ぐ〜っと下るのだが、ザレた急な下り道であった。
捕まるところは少なく、かろうじて細いロープが張ってあるが登山道を示すという意味だけのロープに見え、捕まるには頼りない。
ザレ道は正直苦手だ。ズズっと滑って転倒しそう。そして左側には空間しかない。道幅も狭いので、すれ違うときに谷側に立って待つのはとても危険…というか、怖くてできない。
足元が滑りやすい、左側に転ぶわけにはいかない、それだけで、身体が自然に右に傾いたり腰が引けてしまうのがわかる。
ここが低山であればスイスイ下れる道なのかもしれないし、木やら根っこやら何かしら手に触れるものがあるのがほとんどだろう。
まっすぐ立つことがこんなに難しいとは。高度感に自分を見失いそう、そんな感じか。
そんな状態で、たくさんの言葉を思い出した。
先日読んだnote。怖いと感じた時、人間の身体はすぐに硬直して自然な動きができなくなってしまう。力を抜くことが大切。
【力を抜け】
…そうだ、力を抜こう。一呼吸。
大汝休憩所のご主人の【楽しんで】→【楽しめ!】
…そうだ、この体験も楽しもう!
なんだかオリンピック選手が言ってることと重なってるぞ。😆
noterの猫さん(山歩きの強者、と私は思ってる)がいつも言っている
【ゆっくりいけばいいのよ】
…そうだ、ゆっくりでいい。
止まりそうな足を恐る恐る進めていく。
後ろから降りてくる登山者の気配を感じた。先に行ってもらおう。
「いつ転けるかわからないですよね〜、気をつけていきましょう!」と声をかけてもらい、その人は両手をヤジロベエのように広げながらバランスをとり、慎重に、でもリズミカルにザレ道を下りていった。
気をつけても転ける私なんだけど。。と思いながら、少し肩の力が抜けたように感じた。同じように両手を広げてみた。うん、これはいい。
緊張する下り道がやっと終わった。
ここから先が、一番歩いてみたかったご褒美ロード✨なのだ。
やった〜🙌
と思った瞬間に、大腿の内側に攣りを感じた。谷川岳の時と同じ場所だ。
緊張が緩んだのか?
ご褒美ロードを歩く前に、前回の学びを生かすべくすぐに休憩をとることにした。
怖さを感じた道を改めて下から眺めてみる。
写真ではあまり伝わらないなあ…
素晴らしい眺望の前で15分ほど休憩し、無事に回復。
さあ、このご褒美ロードを楽しもう。このためにここまで歩いてきたんだ。
脚を温存するために、再度ポールを使用することにした。
10時30分ごろ、真砂岳2861mに到着。
ここからの眺望も素晴らしかった。
真砂岳山頂も数分間独り占めだった。とても居心地が良かった。虫がぶ〜んと飛んでいたが、この日は全然気にならなかった。
もっとここに居たいという気持ちはありながら…
先ほど脚が攣りそうになった時に休憩したため、天気のことを考えるとこれ以上下山を遅らせるわけにはいかない。
長い長い下山が待っている。そろそろ歩き出すことにする。
大走り経由で雷鳥沢へ下山
大走りと呼ばれるこの道も、ザレ・ガレの急坂だということで、改めて気を引き締めて進む。標準コースタイムは休憩なしで1時間30分くらい。
時々足がズルっといきそうになるけれど、先ほどの富士の折立からの下り道よりは自分にとっては怖さが少なく感じた。ポールを突く場所もある。
この体験ももう後半…と思うと、名残惜しい。
そんな感傷に浸りそうになると、まだ気を抜くなよ!と喝を入れられるようなガレ道が現れ、う〜んどこに足を置こうかな…と考えながら、慎重に下っていく。
標高を下げていることもあり、日が射すともう暑い。集中力も切れがちなので、休憩の回数を増やし、経口補水液を飲む。
脚はもう攣らない。膝も痛くない。
そして…12時過ぎに賽の河原へ到着した。
ああ、ここまで来た、と感慨深いものがあった。
ここはガスに包まれると道迷いしやすい、とのこと。
この日は美しい景色が目の前に広がる。草の緑に白い石や砂が映える。そして、少なくなってはいるもののまだしっかりと咲いている高山植物の花、もう色づき始めた葉やチングルマの綿毛たちがこの景色の深みを増している。
ゆっくりと、クライマックスを味わうように歩いていこう。
沢を渡り、雷鳥沢キャンプ場に到着した。
雷鳥荘への最後の登りがきついので、一旦休憩する。
なぜかここで写真を撮りそびれたまま、行動食の残りを食べながら歩いてきた道を眺めていた。稜線はガスに隠れてしまったけど。
怖かったな…でも1人で歩いたな…。
そして再び、大汝休憩所での言葉を思い出した。
【今しかないこの時を、精一杯楽しめ】
なんだか目頭が熱くなった。
汗を拭くふりをして、手拭いで目を押さえた。
なんだろう、今日は涙腺がとってもゆるい。🥹
達成感とは違う。緊張からの解放感みたいなのとも違う。
なんだかわからない。
道しるべを与えられた、そんな感じなのかもしれない。
続く