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書評『ぼちぼちいこか』

表紙のカバ(?)で誤解されがちなのだが、これは絵本ではなく自己啓発書だ。

この本では以下のことが学べる。

・性別に囚われるな

・多動力を発揮せよ

・落ち着け

それぞれ解説していく。

ちなみに本の内容はこうだ。

カバ(?)が消防士やら、パイロットやら、宇宙飛行士やら、手品師やら、バスドライバーやら、色々なものを目指すが、失敗し続ける。すべて失敗したあと、彼はとりあえずハンモックに横になり、そして言う。「ぼちぼちいこか」。

性別に囚われるな

最近でこそ「女性は女性らしく、男性は男性らしく、なんて間違っている」と言われ始めたが、この本は1993年の時点でこのようなジェンダーフリーを主張している。

このカバはおそらくオスだが、「女性がするもの」というイメージがあるバレリーナや秘書にも挑戦している。

これは「男性は女性らしい職業についてはならない」という考えを暗に批判していると言える。

女性も同様で、女性が消防士になれないのもおかしいし、パイロットになれないのもおかしい。

性別に囚われず、どんな職業にも就ける。こんなことをこのカバは自らの身を持って主張してくれているのだ。

多動力を発揮せよ

「多動力」というのはホリエモンが出した本が由来の言葉である。

このカバはホリエモンもビックリの多動力を発揮している。

「失敗したら次、失敗したら次」

このカバは少し諦めが早すぎる感は否めないが、(梯子から落ちただけで消防士を諦めている)次から次へと挑戦する姿は、現状維持をことさら望む日本人からすると羨ましい素質と言える。

むつかしからうが、易からうが、そんな事は考へずに、いはゆる無我といふ真境に入つて、無用意で打ちかかっていくのだ。
~『氷川清話』 勝海舟~

このカバはマヌケな顔して平然と勝っつぁんの言うような無我の真境で次々チャレンジしている。

カバの尋常ではない行動力は私たちに勇気を与えてくれる。

落ち着け

「ぼちぼちいこか」のタイトルからわかる通り、この本で一番伝えたいことはこれだ。「落ち着け」

現代人は移動時間やコミュニケーションの仕方が身近に、そして早くなっているにも関わらず、とにかく急いでいる。焦っている。

仮に普通の人がこのカバのような驚異の多動力を発揮して、失敗し続けても、最後にハンモックに横になり、「ぼちぼちいこか」なんて悠長なことは言わないだろう。

「さあ、次だ、次だ」と言うに決まっている。

これが現代人だ。次から次へと急いで落ち着くことがない。休憩することがない。

多動力はたしかに大切だとは思うが、ずっと動きっぱなしだと身体にも悪いし、落ち着かないと柔軟な発想は出てこない。

まず落ち着け。ぼちぼちでええ。

一度、落ち着いてみれば、色々なことが見えてくる。

そんなことをこのカバは教えてくれている。

再び勝っつぁんの引用で恐縮だが、こんな言葉もある。

仕事をあせるものに、仕事の出来るものではない。セツセツと働きさへすれば、儲かるといふのは、日傭取りのことだ。天下の仕事が、そんな了見で出来るものかい。
~『氷川清話』 勝海舟~

「忙しい忙しい」と常に焦っている人に仕事ができる人は少ない。この道何十年の職人の動きが驚くほどゆっくりな事と同様、できる人は「とにかく落ち着いている」。

このカバの「大事なところで落ち着く」という素質は現代人にとって一番大切なことなのではないか、と思う。

★★★

最近の啓発書は「それらしいタイトルをつけて発売すれば売れる」状態。分厚い本でも中身のない本がどれだけ多いことか。

一方この『ぼちぼちいこか』は32ページしかなく、おそらく本を読みなれていない人でも30秒もあれば読破できる。

にも関わらず、上記のことを学べる非常に中身の濃い内容となっている。その辺の啓発書よりよっぽど多くを学べること間違いなしだ。時間、金のコストパフォーマンスがこれほど良い本は滅多にお目にかかれない。

大人こそ読むべき本だろう。

さいごに注意事項を。この啓発書はなぜか絵本コーナーに置いてあるので、購入の際は子供に紛れて絵本コーナーを探してみること。

大判とポケット版がある。オススメは持ち運びができるポケット版だ。カバンに忍ばせておくことで、ことあるごとに見返し、いつでも落ち着くことができる。

#書評 #推薦図書 #自己啓発


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