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言葉のすれ違い。彼の言葉を取りこぼして。

「もっと彼から連絡がほしいな」

はじめは、ありふれた小さな悩みを気軽に送っただけだった。
メッセージは少しずつ長く重くなっていって、いつのまにか、彼の言っていることが分からなくなってしまった。

楽しい時間は、あれだけ感情を共有できたのに。言葉がなくても、通じ合えていたのに。
言葉でしか繋がれないLINE上で、私はいま言葉を失っている。

通じ合える言葉が見つからなくて、
彼に向ける言葉を失ってしまって、
ちょっと一呼吸おこうと思って、
noteに書いてみる。言葉にしてみる。


私「〇〇してほしい」
彼「…相手にだけ求めるのは、話が違うんじゃない?」

彼に対して、私は珍しくわがままを言った。
彼に甘えているのは承知していたから、やんわり断られても想定内だった。
けど彼の回答は、想定外だった。
返ってきたのは、回答じゃなくて意見だった。


私「このくらいのわがままなら、許せそう?」
彼「できない時もあるとしか…そもそもわがままって、その都度でてくるものじゃないかなあ」

イエスかノーで答えられる質問をした。
「コミュニケーションはキャッチボール」とよく言うけれど、私は彼が返しやすいボールを投げた。ド直球のストレートのはずだった。
だけど、ボールはなかなか返ってこなかった。


彼はボールをまじまじ観察したり、ひとりで真上に投げたりするばかりで、一向にボールを返してこない。

ああ、これは…。

嫌な予感がした。
言葉を尽くしてみたけど、やっぱりボールは返ってこなかった。


私がのぞむボールを返してほしいわけじゃない。彼はAIじゃない。
ただ、どんなに取りづらいボールでもいいから、返してほしい。
メッセージを諦めて、電話をした。

私「わかままは却下された…ってことで、いいんだよね?」
彼「えっ、そんなこと言ってないよ。」


ようやく知った。
彼はボールを返しているつもりだった。


ぞわぞわぞわ。

自分の思考回路が、高速でこれまでの長文メッセージを駆け巡る。

あのメッセージのどこに、そういう意図があったんだろう。
あのメッセージのどこに、そんな優しさがあったんだろう。

私が取りこぼしていた彼の言葉が、今になって私の胸を突き刺してくる。


ずっと彼からのボールを待っていたはずなのに、ふと背後をみると、私が受けとめられなかった彼のボールが、そこかしこに散らばっているみたいだ。

意味は分かるのに、意図が分からない。

主張は分かるのに、文脈が分からない。

言語は分かるのに、言葉が分からない。


散らばっていたボールの一つひとつを拾うたびに、このボールが本当に彼から返ってきたボールなのかと疑ってしまう。
こんなに通じないことは初めてだから、戸惑っている。


人よりほんの少し、言葉を大事にしてきた自負がある。
言葉で通じ合うことの喜びも、知っている自信がある。

それでも、彼との間に言葉は必要なかった。
言葉がなくても、温もりを感じることはできていたから。

いまの私は違う。
彼と言葉で通じ合いたいと、痛切に思っている。
言葉が通う温もりを、本気で欲している。


ああ。やっぱり言葉は難しい。
伝える術だけじゃなく、受けとめる術も身につけて、ようやく言葉はキャッチボールされるんだ。

取りこぼした彼の言葉たちに、申し訳ない気持ちになる。
いまからでも、まだ間に合うだろうか。

もう一度、彼の言葉をひとつずつ拾い集めて、勇気をもって、またボールを投げてみようと思う。
今度は、彼からのボールを取りこぼすまい。

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