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【短編小説】3分で何をしよう

 ビビビビビと横にした左手に縦にした右手をくっつけた特徴的なポーズから放たれるビームが、大きくて醜い怪獣をやっつける。
 ぴこんぴこんと胸元のランプが光りはじめると、もう少しで彼がいなくなってしまうという合図だ。
 昔懐かしいヒーローもののテレビ番組は白黒の映像と古めかしいカラーのものと。現代はこんなに昔のやつもいつだって好きなタイミングで見られるんだから便利だよね、と思いながらアプリを閉じる。
「3分間だけのヒーローかぁ」
「3分間だけ、別の何かになれるってなったら、なにになってどんなことしたい?」
「うーん……結構短いよね、3分って」
 隣から問われた質問に、膝を抱えて考える。
「瞬間移動できるようになっても、観光地行って、1分周りをきょろって見て、直ぐ帰ってきてで終わっちゃう」
「そしたらさ、僕ここんちに飛べるようにするよ。そしたら帰らなくてもいいでしょ?」
 にへらっと笑う彼は想像したのか締まりのない顔だ。
「強くなったって、3分だけじゃ、大会とかでも1回戦しか勝てないよね」
「開けにくいビンのフタとか開けるのに便利そうじゃない?」
 確かにたまに開けられなくてうんうん唸って結局彼に頼むけど、彼もたまに難しい顔してたりするから、それは便利かもしれない。ってそうじゃなくてさ。
「おっきくなったら皆に見られちゃって恥ずかしいからそれもやだなぁ」
「僕が大きくなったら頭の上に乗せてあげるね、そしたら下からも見えないから気にならないんじゃないかな」
 ああ言えばこう言う、って感じがするけど。
 でも、全部、出来ない事ばっかり言った私の案を、ポジティブにしてるんだよね。彼のこういうとこ、すごいなって思う。
「…じゃあさ、君は、何になってどんなことしたい?」
「3分だけ?」
「3分だけ」
 うーんって考え込んだ彼は、ちらってこっちを窺うように見てからおずおずと口を開いた。
「えっと、ね……めちゃくちゃイケメンになりたい、なぁ、なんて」
 イケメン。
 何で?という気持ちが全面に出てしまった。眉間に皺だって寄ってると思う。だって、わけわかんない事言うんだもん。
「あああ、あの、えっと」
「何でイケメンなの?」
「っあーーーー忘れてお願い」
「駄目、言いかけたんだったら最後までちゃんと言って」
 顔を覆って忘れてくれなんていう彼の顔は、別にブサじゃないし、普通だと思う。いや、私的には割と好みだから十分かっこいいんだけどな。
「…言わなきゃダメ?」
「駄目」
 はぁぁぁぁと特大の溜息をついて、やっとこ口を開く。なにさ、いつもはため息ついたら幸せが逃げちゃうよって自分が言ってるのに。
「……イケメンになって、プロポーズしたら、うんって言ってくれるかなって」
 一拍、二拍。頭の中で理解するのにちょっと時間が必要だった。
「言わない」
 明らかにガーンって顔された。
 しょーがないじゃん、そんなの、yesの返事するわけないよ。
「…ごめん、嫌だった、よね、僕すぐ帰」
「イケメンじゃやだ、なんでわざわざイケメンなのさ。君のまんまじゃなきゃやだ」
 今度は向こうが止まる番だった。立ち上がりかけた腰をゆっくりおろして、びっくりした顔してる。
「なんでそのままプロポーズしてくれないの」
「や、だって、ほら、イケメンの方が、成功率高いかなって」
「むしろゼロになるわ」
 驚いて声も出ないみたい。なんだってそんな勘違いしたかな。
「3分だけのイケメンより、ずっと一緒にいてくれる君がいい」
「………っあああ、ああの!ちょ、ちょ、えっと」
「だから」
 焦って言わなくてもいい事まで言いかけてる彼の目の前に手のひらを見せて、ストップをかける。パニックになっちゃうと色々零れちゃうもんね、落ち着こ。
「今度、ちゃんと言って。今、勢いで言うんじゃなくて」
「……うん」
 へら、とやっといつもの顔に戻った彼。うん、それがいいよ。その可愛い顔が好きなんだからさ。
 もしもの3分の話は、もっと、違う事を探すと楽しくなれそうじゃない?二人で一緒に出来る事、さっきみたいに、ほんわかできる良い案をさ。


 本日は「ウルトラマンの日」だそうです。日本記念日協会様より。
 3分って意外と短いですよね。カップ麺を待つだけだと、まだかなぁなんて時計を何度も見返すくらい長いのに、何かしようとすると短くてあっと言う間。何かをできるとしたら、と考えてもすぐ終わってしまうから別にととらえるのか、その3分で笑顔になれる方法を考えるとかポジティブにとらえるのか、人それぞれですよね。私なら何を…と考えた時、花が手のひらから出せたらなと思いました。お花を見て、癒されたり、出したお花をプレゼントして笑顔になってもらえたらと。みなさんは3分、どんな事ができるようになって何をしたいですか?

小説を書く力になります、ありがとうございます!トイ達を気に入ってくださると嬉しいです✨