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020_蔵の中

座敷林に囲まれた敷地の外れに蔵がある。
漆喰の壁に囲まれた蔵の中に蔵がある。


サークルの友人Bから聞いた話。


Bの地元は散村で有名な地域で、
実家もそれなりに由緒ある家系だからか
敷地に大きな蔵が2つもある。

そのうちの1つは商店をやっていたころの名残で
陶磁器や掛け軸、桐箪笥といった古道具が
びっしりと詰められている。


春と秋の天気の良い日には家族総出で
虫干しと掃除を半日以上かけて行うのが風物詩だった。


作業を終えた後には、祖父母からお小遣いがもらえて、
家族みんなで夕飯を食べにも行くので、小さいころから
そんなに嫌なイベントでもなかったし、
むしろ喜んでお手伝いしていた記憶がある。


もう1つの蔵はお父さんたちが掃除するから大丈夫、
と言われていて、掃除を手伝うこともなかった。

なんとなく近くで遊ぶのも憚られる雰囲気が
子供ながらに感じられて、近づくこともなかった。



中学生の時、体育祭の代休があり、
家族も仕事や町会の会合かなんかで
家に自分だけしかいない日があった。

あの蔵って何が入っているんだろうと
ふと気になって、蔵を開けてみた。



蔵があった。
蔵のなかにもう一つ、人の背丈ほどの蔵があるのだ。

それ以外のものはほとんどなく、
錆びた鋤と木箱がいくつか積まれているだけ。

怖いもの見たさも出てきて、
でも正面を開けるのは怖いから観音扉から
中を覗いてみようと、踏み台に乗る。




観音扉を覗く自分の後ろ姿が見えた。




振り返ると、覗いている自分と目が合いそうで
そのまま振り返らず後ろ歩きで外に出た。




それからその蔵には近づいていないし、
天窓のような高い位置にある窓が苦手になった。






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