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村上春樹著「猫を棄てる」を読んで

きつね

これは村上春樹さんが父親について書いたエッセイ。
「猫を棄てる」というインパクトのあるタイトルで驚くかもしれない。
どういうことかというと、子供の頃、父親となぜだかわからないが自宅から2キロ離れた場所に猫を棄てたが、自宅に戻って玄関を開けると棄てたはずの猫が出迎えたという話。

良かった。

父親がお寺の息子で俳句をたしなむ人物であり徴兵されて戦争を経験した人物であることが語られている。

継承がテーマであると思う。

父親の戦争でのトラウマを村上春樹さんは引き継いでいる。
毎朝懸命に戦争で亡くなった方たちのために拝んでいた父親の姿が記憶に残っていると書いている。

自分自身の父親との関係も考えた。
男2人兄弟で父親の遺伝を受け継いだのは長男の私だ。悪い意味で。そのことで現在も苦しめられている。

以下本文より印象に残った文章を。

「降りることは、上がることよりずっと難しい」
結果は起因をあっさりと呑み込み、無力化していく。それはある場合には猫を殺し、ある場合には人をも殺す。

我々は、広大な大地に向けて降る膨大な数の雨粒の、名もなき一滴に過ぎない。固有ではあるけれど、交換可能な一滴だ。しかしその一滴の雨粒には、一滴なりの思いがある。一滴の雨水の歴史があり、それを受け継いでいくという一滴の責務がある。我々はそれを忘れてはならないだろう。たとえそれがどこかにあっさりと吸い込まれ、個体としての輪郭を失い、集合的な何かに置き換えられて消えていくのだとしても。いや、むしろこう言うべきなのだろう。それが集合的な何かに置き換えられていくからこそ、と。

高妍さんの挿絵が心地良く散りばめられたコンパクトな本でした。

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