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ストーリー的な演出がゲームの自由度を制約するとき【2】

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ゲームのルールやゴールを変えてしまう演出の是非

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前回書いたベルツ中尉の例は、ゲームにおける「フィードバック」と「ゲームプレイ体験の向上」のトレードオフの話でした。ではゲームプレイ体験が向上するという理由で、ゲームの「ルール」や「ゴール」を変えてしまうような演出は許されるでしょうか。

結論的には「プレイヤーが楽しいと感じるなら、イエス」だと私は考えています。ただし……

ゲームの根幹たるルールやゴールを曲げるのですから、それを帳消しにするほどの相当な「ゲームプレイ体験の向上」がなければいけません。下手をすると作っているものが「ゲームでなくなる」可能性があります※。だってゲームとは「ルールとゴールとフィードバックがある遊び」なのですから。

ルールまたはゴールが歪んだ上に、ゲームプレイ体験としてもイマイチになってしまった場合は、プレイヤーの強い不満につながります。当然です。

※「(狭義の)ゲームにこだわらなくてもいいじゃないか、むしろその方が物語体験として魅力的になる」という考え方もありますし、実際そうなっているゲームもあります。これに関しては後述します。

ゲームの「ルール」を変えている演出の例:序盤で出会ったラスボスとの「絶対勝てない戦闘」

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具体的に、「ルール」や「ゴール」を変えてしまう演出とはどういうものでしょうか? まずは「ルール」の方から。

例えばRPGなどのゲーム序盤でラスボスが主人公の前に現れ、戦いになることがあります。まだ弱い主人公では相手にならず、戦いに破れた……という場面になりますが、作り方によって「ルール」を崩す度合いはかなり変わります。

パターンA:
ラスボスとの戦闘はそのゲームの通常通りターン制の戦闘システムで展開しました。しかしLV4の主人公のパラメータではラスボスにはほとんどダメージを与えられません。逆に1ターン目の敵の攻撃でHPが0になって「瀕死」状態となります。「瀕死」状態でもう一撃喰らうと死亡しますが、ラスボスは次のターンになぜか「撤退」します。戦闘終了後にイベントが挿入され、とどめを刺すべきという部下に対しラスボスは考えがあってあえて逃がすというような事を言います。ラスボスが立ち去ったあと、瀕死の主人公は自ら治療スキルを使うことで復活し、ゲームが続きました。

パターンB:
主人公がどんな攻撃をしても、ラスボスへのダメージは必ず0となります。撤退したりアイテムを使う選択肢はマスクされており選べません。ラスボスは3ターン目まで毎回台詞を言うだけで何もして来ず、4ターン目に特殊な攻撃によって主人公は最大HPを上回るような大ダメージを受けて戦闘に敗北します。ラスボスは捨て台詞を言っていなくなり、戦闘が終了。0になったはずの主人公のHPは何故か1に回復しており、チェックポイントからのやり直しになることもなく、瀕死だが生き残ったていでゲームが続きました。

Bの方が、演出によってゲームの「ルール」を変更している度合いが大きいと思います。ツッコミどころはあると思いますが、Aの方が比較的ゲームのルール内で演出を納めようとしています。

ここでいう「ルール」とはなんでしょうか。戦闘では攻撃側キャラと防御側キャラの性能パラメータを比較して防御側HPを減算する。HPが0になった場合の処理やゲームオーバー条件(Aの場合はHP0になると瀕死状態となりいきなりゲームオーバーではないが、BはHP0でゲームオーバー)…といったことです。

Bは、防御側のダメージは各キャラのパラメータから算出されるというルールを変更し、必ず0になるようにしています。いわゆる無敵化です。また強い敵に対する戦略としてあるはずの「撤退」ができなくなっており、HPが0になったらゲームオーバーというルールもこの場面だけ適用されていません。

Aは戦闘ルールにできるだけ手を加えず、ラスボスという非常にパラメータが高い強い敵との戦闘という範囲に納めようとしています。演出のためにレベルデザインに手を加えたのであって、ゲームデザインは変えていない、という言い方ができるかもしれません。

なおAも、書いてはいませんが「撤退」という選択肢を封じている可能性はあります。ただこの状況であればプレイヤーが撤退を選択しても、ラスボス部下「逃すのですか?」ラスボス「ほっておけ。考えがある」といったイベントを追加するだけで対応可能だと思います。そのコストを割けるのであれば、ルールを変えなければいけない場所をより減らすことができます。

AもBも演出としてはやりたい事は似ています。ゲーム序盤でラスボスの顔見せをし、プレイヤーがなんらかの因縁を感じる存在にしたいのです。ゲーム最終盤のラスボス戦で「はじめまして」よりも、そっちの方が盛り上がります。

それをやるためにどの程度ゲームの(ここでは戦闘システムの)「ルール」を変更しているかに差があります。

(続く)

※ここに書いたことは、過去作含むエースコンバットの内容やそれに対するプレイヤーのどんな感想も否定する意図はありません。またこれを読んだ方に何かを求めるものでもありません。

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