マガジンのカバー画像

俳句

29
俳句の記事をまとめました。
運営しているクリエイター

2021年8月の記事一覧

蛇行

蛇行

気が付くと、ステアリングを握り、夜の道を走っていた。
片側二車線の、ゆったりした通りだ。
対向車線との間には、中央分離帯がある。
空には星が見えて、走っているのは私だけ。
そのうち、緩やかな登り坂に差しかかる。
自動車教習で、お馴染みの?
そう、教官からハンドル捌きをたびたび指摘された場所だ。
道の両側は鬱蒼とした林。
カーブで見通しは良くないが、信号はすべて青。
それにしても、真っ暗だ。道路灯も

もっとみる
逃げてゆく

逃げてゆく

てのひらで蟬が自由になつてゆく

抑鬱やカフェオレの層涼しかり

蛸やいま五浦を逃げてゆくたましひ

スクランブルエッグ素足に骨が遊ぶ

呼ぶこゑの何も纏はず遠花火

朝凪に犬の眼をして始発動く

今朝の秋コップに当たる泣けない歯

珈琲の知らずにこぼれ敗戦日

虫鳴くや土の匂ひの抑留記

阿剌比亞の子音は溶けて星月夜

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

もっとみる
なかに

なかに

冷や汁を緻密な風として掬ふ

溽暑かな化石にはつめたい羽毛

姉の血透けて夕凪の主語となり

ビリヤニの匙ひるがへり夏の雲

青葉騒つづくいつかの詩の終はりに

味噌汁の渦おさまらず夏休

鼻歌の妣は銀河に着地して

血のなかに薬の澱む暑さかな

恐竜にいつかの木漏れ日の涼しさ

鬼灯のなかに大事な人がゐる

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

もっとみる