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ごはんの本③

ごはんに関するお気に入りの本についてつらつらと書くシリーズが3日坊主にもなれず2日坊主になっていたので、ようやく③を。

現在進行形で読んでいる本。


『cook』 / 坂口恭平 


この本は、坂口恭平さんの料理日記。作った料理の写真と、それに対するコメントやレシピのメモが添えてある。
言ってみればただの個人的な料理の記録なんだけれど、それを本にまとめてくれた著者にも関係者の方々にもありがとうと言いたいくらい、お気に入りの本になった。

まず、装丁がいい。中身も、声が聞こえてきそうな手書きの文字がいい。
料理の写真も、何も特別なことをしていない感じがいい。

なかでも私がいちばんいいなあ、と思ったのは、坂口さんが料理を始めたときの感動や発見が言葉で丁寧に丁寧に書かれていること。

例えば、

ところが不思議なことに料理を作りおえた夜、体は軽くなりずっと苦しんできたウツが静かになったのである。こんなこと想像できなかったが、今ではよく分かる。料理をつくることは生きることの添え物ではなく、中心になる作業だからだ
すべての人間のなすことが、料理に集約されるのではないか。はじめたばかりのずぶの素人である僕は、ついそんな壮大なことを考えてしまう。しかも、料理は壮大さをいつも柔らかくしてくれる。だって、毎日、食べるものをつくるだけだから、と謙遜してくる。
そこも料理の魅力だ。
cook 坂口恭平


私も、実家を出て一人暮らしを始めたときに、ああ料理ってこんなに楽しいものなんだな、と思った。
社会人になって仕事と自炊を回していかねばならなくなったとき、自炊は女子力ではなく、生活の根幹だ!とコーフンしたことがあった。
だけど言葉にすることはなく、スルスルとここまで来てしまった。

本にも書かれている通り、料理をすることに負けじと、料理について考えることは楽しい。だけどいかんせん、料理について考えているときは大体が料理をしているときで、それはつまり両手がふさがっているときということになる。だから書き留めておくのが難しい。できあがったごはんを食べてお腹がいっぱいになり、満足して忘れてしまうことがたくさんあった。

だから、この「cook」を読んだときに、坂口さんが料理の楽しさを、しかもプロの料理人ではない目線で、ひとつずつ言葉にしているのがとても尊いし、ありがたいことだと感じた。

家の料理はとてもプライベートな台所での出来事なのにも関わらず、そこからこんなに普遍的な発見や気づきがあるんだなあと、感動した。



約1か月の料理の記録を読み進めていくと、坂口さんがだんだん料理を中心に据えた生活・考え方になっていくことが分かる。こんな道具があるといいな、という気づきがあったり、前日の残りの食材を活かした献立を考えたり、得意料理ができてきたり。
そういう風に、少しずつ楽しみ方が分かってきて、次から次にやってみたいこと、試してみたいことが増えていくのは、素晴らしいことだ。

新しい仕事を始めたり、勉強を始めたりしたときにも、最初からうまくいくことはないのだから、こんな風にして気長に楽しめるようになるといいのかもしれない。(と、自分に言い聞かせながら、おしまい)


おまけ➀
装丁の有山達也さんは、私が数か月かけて読んで少しふやけてしまった「暇と退屈の倫理学」や佐賀と長崎が誇る超良質フリーペーパー「SとN」も担当されている。これまで本は作者や表紙で選んだりしていたけれど、今後は装丁家買いも楽しいかも。

おまけ➁ 坂口さんのnote


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