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クレジットカードを週に一枚は食べているあなたに


プラスチックは人間の栄養にならないのか。
などと荒唐無稽なことを本気で考え始めたのは、そもそも知人が「プラスチックを食べて栄養にしている虫がいるらしいね」といいだしたからだ。

最初は、プラスチックが分解されてできるマイクロプラスチックが魚介類を汚染して大変なことになっている、という広く知られたニュースのことで侃々諤々していたのである。そんな魚介類を食べても大丈夫なのか、と。そしたら「プラスチックを食べて栄養にしている虫がいるらしい」という話が飛び出したのである。

このトピックスは、カナダの研究チームが「プラスチックを食べて分解し、ポリエチレンにして食べて生きているワックスワームという虫がいる」と発表したものだったのだが、実は日本でも2019年の7月に「ペットボトルを食べる細菌がいる」と発表されて、これが世界中に広まった。ちなみに、ワックスワームは日本では魚のエサとして釣り好きによく知られている。

それならばと私が思いついて「人間だってプラスチックを栄養にできてもおかしくないんじゃないのかなあ」というようなことを口走ったところ、知人が「人間も実はプラスチックを食べているんだよね」といいだしたのである。

確かに現代人はこれだけプラスチックに取り囲まれて生活しているんだから、まあめぐりめぐって少しぐらいはプラスチックを体に取り込んでいるんだろうなと思い、いいかげんな相づちをうったところが、その後で彼はこんなことをいいだした。

それがさ、量にしたらスイカとかクレジットカードとかヨドバシカードとか、それ一枚分ぐらいのプラスチックを現代人は毎週、食べているらしいんだ。毎週だよ。

私はのけぞった。いいかげんな相づちをはるかに超える衝撃的な話だった。マイクロプラスチックがどうのという話のレベルではなかった。

すると俺はスイカのカードを毎週一枚ずつ食べていながら、そこらの金目鯛よりずっと高級な人間でございますという顔をして、地球環境問題なんぞを憂える高尚な話にうつつをぬかして生きていたのか。

こんな話を聞いちゃったら、それが話半分だったして、もう後戻りはできないっぺよ。

くっそお、おりゃあ環境保護の闘志になって資本主義をぶっ壊してやるぞ。と思うほどでもないのだが、「プラスチックのカードなんか食べたくねえよお」というのはまったくの本音である。誰だってそうだろうよな。

私は玄米ご飯もスルメイカも好きだし、生のダイコンやニンジンなどちょっと硬めの食べ物ぐらい平気でばくばく食べるけんど、プラスチックじゃ硬すぎるって。

そんなもん食べたら下痢してまうわい。

それがたとえ一週間に一枚だとしも、プラスチックのキャッシュカードかよ、ああ、もう食べたくねえよお、とこの場を借りて再び怒りをあらわにしておきたい。

もともとプラスチックとかは好きじゃないんである。私の物欲中枢を刺激するのはすべて、鉄とかガラスとか陶磁器とか女性の柔らかいほっぺたとか、非プラスチック系の材料からできているものだ。

これまで、ラップだってレンジで使えるというプラスチックだって、できるだけ使わないようにして生きてきた。ペットボトルだって、微量にしても容器の成分が中身に溶け出す可能性があると思って敬遠してきた。

それでもやっぱり、現代社会でこういう便利なものを使わないで済ますのは無理だったので、そうすると、ひとりで頑張ってみてもやっぱりカード一枚じゃなくたってその半分ぐらいのプラスチックを毎週食べていた、ということにはなるだろう。

もはや、エコバッグ持参の買い物ぐらいでお茶を濁していたのでは地球に申し訳が立たないではないか。これからはSDGsとか生態系の保存を意識して、食べ物もファッションも何もかもエコとエシカルでいこうと年頭の抱負みたいなことを誓ってみたのだが……よく考えてみたら欲しいものが実はまだたくさんある。疫病神の物欲はすぐには退散してくれそうにもないので、とりあえずできる範囲のことから地球環境保護に貢献しようと、天声人語に書いてありそうな結論に到ったのである。

最後に。誰の参考にもならないだろうが、世の中にはわざわざペットボトルなどを食べ続けている人間もいるらしくて、嘘か誠かアメリカ人、女性。誠だったとしても、これはまた栄養とは別の問題というか、その人は病気なんだと思うけどなあ。

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