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恋愛小説が、すきで、にがてだ

小説を読もうとすると、たいてい選ぶのはミステリーものだ。

謎は多ければ多いほどよく、終盤に向けてすっかり綺麗に伏線がひろわれている様を読んでしまうと、もうたまらない。定番で恐縮だが、東野圭吾や米澤穂信など、誠実に謎を投げかけ真摯に回収してくれる作家がだいすきだ。安心して最後まで読める。

そんな中で、時たま気まぐれに恋愛小説を挟むことがある。

ちょうど今がその時で、半ば意識的に恋愛小説ばかりを立て続けに読んでいる。決して、好みに合うものばかりではない。謎がすきな私にとっては物足りない読後感のものも多く、恋愛小説に特有の胸のときめき・葛藤・もどかしさなどが受けとれずに途中で投げ出してしまった作品も1冊や2冊ではない。

それでも、恋愛小説を読むのはなぜか。感情を根本から揺り動かしてくれるのは、やっぱり恋愛小説しかないからだ。

千早茜さんの「男ともだち」という作品がある。

恋愛小説に疎い私は、Twitter上でおすすめの恋愛小説を教えてもらった。その中で挙げてもらった1冊だ。これまで読んだことのない作家さんで、あらすじを要約すると、彼氏と同棲しているのにも関わらず医者の愛人がおり、卒業後も定期的に会っている大学時代の先輩からも離れられずにいるイラストレーターの主人公視点で進んでいく物語。

表題にある「男ともだち」というのが、大学時代の先輩である「ハセオ」を指す。このハセオがまた、文章でしか表現されていないのにも関わらず色香がただよってくるような男で、魅力的な存在として描かれている。

彼氏でもない、愛人でもない、身体の繋がりさえない過去の男ともだちにしか言えない愚痴や文句があり、癒せない傷があり、交換し合えないあたたかさがあるのだ。

正直いって、この主人公に感情移入はいっさいできない。

けれど、移入していけないからこそ勉強になる。こんな言葉を使うのだ、こんな感情の揺れ方をするのだ、こんな風に迷いこんな風に荒れるのだと、まさに食べたことのない果実から未知の栄養を摂取するように吸収していく。

恋愛小説は、すきで、にがてだ。

きっとこれからも、心からすきになれることはきっとない。それでも、人間であるからこそ芽生える感情の機微を、曖昧な揺れを、まろやかな怠惰を、少しでもいいから体内に浸透させたいと思い、今日も読んでいる。


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