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小説

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#短編小説

死ぬまでに何度もこの夜をなぞる。|短編小説

ちぎれる光もしたたる翳も逃したくない。簡単に通り過ぎる今ここに、きちんと眼を凝らしたかっ…

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ドライブインなみま|小説 カレーライス編

夜をひっかく雨の群れは春雷が連れて来た。ゴロゴロ言うてるわ、と思ったら盛大に降り始めて暗…

43

夕凪のひと|短編小説

やさしい獣のような声を上げて、男は果てた。なんの肥やしにもならないセックスだったけれど、…

103

ドライブインなみま|小説 かつ丼編

紙風船みたいな男だと思っていたら、本当に紙風船だった。それを膨らませて地面へ着地させない…

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天文薄明は肉眼で6等星が見えないくらいの明るさのことだよ。|掌編小説

私は何かを待っている。 いつもそうだ。何かを待ちわびている。その何かとは人なのか物なのか…

ドライブインなみま|小説 焼きめし編

夜が漣にゆれる。月光が照らす海面は、てらてらとたゆたい、そのほかは波音しか聞こえない柔ら…

Quarter Life Crisis|短編小説

 孤独が優しく滲んだ。 あゝ、今日からひとりなんだ。 そう思うと、孤独を不幸にしてはいけない気がして、それを正すように背筋をスッと伸ばした。 「じゃあ、元気で。」 「ユウジも、元気で。」 ユウジは、狭窄した場所からスルンと抜け出したときのような開放的な声音と表情で挨拶をした。それは、いつもの「行ってきます。」の挨拶のような気軽な心地がして、これで会うのは最後なのになんだか呆気ない、と心の隅で思ったけれど、それ以上の言葉が見つからなかった。いまの私たちに残っているもの

Feel Blue|短編小説

 ひどく静かな夜だった。それは、しじまとはすこし違い、ナーバスな聴覚と視覚が生み出す静か…

ドライブインなみま|小説 プリン編

だいたい甘くてやわらかいものは、すぐに口の中から溶けてなくなるから信用ならない。アイスク…

斬る|短編小説

ちぎったところが酸化して黒くなるような気がした。あの頑丈なじいちゃんがシぬなんて。文武両…

Lost Autumn|短編小説

黄色が舞う、くるくると。そして、私の体を通り過ぎていく。銀杏の黄色はほとんどが地面に伏し…

こんにちは、たまご|短編小説

ガラス戸に映った自分の顔を見た。額、眉毛、目、鼻、頬、口。なんの変哲もない毎日見慣れた顔…

透き通る月|短編小説

 死のうと思った。今どき心中だなんて笑ってしまいそうだけれど、私はこの人と──伊月さんと…

ドライブインなみま|小説 うどん編

「はい!息を吸ってえ、吐いてえ、吸ってえ、はい!止めて息んでっ!」 助産師の伊藤さんに言われる通りに息を深く吸ったり吐いたり息んだりしていると、自分がロボットになったような気がする。けれど、頭蓋骨を貫くような下腹部の激痛で私はロボットではなく動物なんだと実感できた。 「イタタタ!痛い!お願い!助けてえ!」 私は喉が千切れるかと思うくらいに叫んだ。すると伊藤さんは 「痛いよね。でも東さん、助けてあげるから、ちゃんと息をして。はい!もう一回!吸ってえ──」 と私に負けな