俺が異世界転生小説書くとこうなる
「よくぞいらっしゃいました破壊神様」
目の前の青白い肌の背の高い男が一礼する。
どうやら俺は破壊神としてこの世界に転生したようだ。
「破壊神さまにはぜひその力で我らの危機を救っていただきたいのです」
なんでも、魔族の誇る四天王が全員勇者にやられてしまったらしい。
最後の一人が命懸けで勇者を巻き沿いにしたものの、大きな戦力を失った魔王軍には人間たちを攻める手立てがないのだとか。
逆に人間側も今まで魔王討伐を勇者に頼りきりにしていたせいで、次の勇者が育つまでは攻めてこないようだが、
もし次の勇者が現れ、力を蓄えてきた際には、敗北は確定的とのこと。
そこで古の召喚魔法で現実世界から俺が呼ばれたのだった。
「さぁ、破壊神様、ご指示を」
そういわれても、この世界のシステムだとか、魔族の強さ人間の強さがわからないことにはどうしようもない。青白肌男に説明を求めた。どうやらこの男が魔王だった。腰が低くわからなかった。
「なるほど、承知しました。確かに異世界からこの地に来たばかり。それではこの世界に住んでいる生物について説明しましょう」
以下が説明の概要である。
スライムや小鬼は戦闘訓練などを受けていなくても、大人の冒険者でない人間なら倒せてしまうそうだ。
大型の山鬼になればは単体で小さな集落を落とすだけの力はあるが、多くは生み出せないとのこと。
「世界の地理はどうなっている? 」
「確かに。戦いにおいて地理は重要ですな。説明しましょう。これが地図です」魔王は説明を続ける。
周りが海に囲まれた大陸が一つ。キュウリュウと呼ばれている。
単位はわからないが魔王城は大陸の南、キリシマと呼ばれる地方にある。
魔の瘴気が立ち込めており、人間が住むには適さない、芋が育ちやすい。
北に行くと平野がありキヨマサ城と呼ばれる城がある。大陸の中央らへん今は人間のもので要所となっている。
さらに北、大陸北部にテンジンと呼ばれる人間の王の住む一番の大都市がある。屋台グルメがおいしい。
他には、数が少ないが島しょ部があったり、イブスキやユフインと呼ばれる有名な温泉地があるらしい。
温泉地は恐らく魔王軍の戦いには関係ないとは思うが、全体的に山が多いようである。そして、島しょ部にはアマクサという魔法研究の盛んな自治都市があるとのこと。
また、ゾーア山やクジュー連山など、魔の瘴気が強い場所はほかにもある。
とりあえずやるべきことは、破壊神としてなるべく少ない魔力で人間にダメージを与えられる魔物を多くデザインして、
キヨマサ城を奪還、付近のゾーア山とクジュー連山で戦力を増やし、
勇者が生まれるまでに王都テンジンを落とすというところだろうか。
魔物の生成ペースにもよるが、勇者が大人になるまでには間に合うかもしれない。
幸いこの世界はそこまで大きくなさそうだ。
「しかし問題がございまして……」
魔王が言うには、四天王という大きな戦力を失ってから魔王軍の指揮系統はかなりボロボロらしい。
一度全員を呼び戻して組織再編をするほかないだろう。俺は魔王に軍勢の再編成のために、収集を指示した。
集まった組織を見て思う……
獣人部隊、魔法部隊、魔物部隊、水上部隊、死霊部隊
魔法は遠距離攻撃ができるし、水上部隊も必要性はわかるが、死霊部隊や獣人部隊に意味はあるのだろうか。まとめてしまっては弱点が被ってしまう分、却って対策がしやすくなるだけではないか?
というわけで戦闘部隊と支援部隊、魔物研究開発部の三つにしよう。
勇者なしで人間が攻めてきた場合の対策が必要なので、戦闘部隊の練兵と新規魔物開発にはとりかかりたいが、その前に取り掛かるべき作業がある。
支援部隊がやってきたのはキューマ川。
ここは魔王城のあるキリシマ、要衝のキヨマサ城、人間の首都テンジンを結ぶ道のさなかにある。
キューマ川に架かる橋をすべて破壊し、孤立したシヨトヒの町を攻め落とす。
メインの道さえふさげば、大陸を大回りするか、山道を来るほかないので、数で攻め落とされることはないはず。
もとより個々の魔物は各地の瘴気から生み出されるので、我々に橋は必要なく、人間に与するばかりなのだ。
孤立したシヨトヒの町はまさか魔王軍の主力に襲われると思わなかったのだろう、あっさりと攻め落とすことができた。
あとはキューマ川に毒を流したり、堰を破壊したり、せき止めたりして、下流のヤツヤシロの町も手にしたいところ。
ここで、発生させるモンスターも、小鬼やスライム、山鬼などはやめ、当面は魔界の鹿、デスディアーをメインに据えることにした。
むやみに魔族に近い魔物を作って相手を戦闘慣れさせて、経験値を恵んでやることはないのだ。
そして実は”ある世界”における農業被害のほとんどは鹿。作物を食べるだけでなく、樹皮なども食べるため、
材木として育てられるヒノキなども枯らしてしまいます。
人間たちは、最近鹿増えて嫌だなあと、ずっと思っているでしょう。
魔王側についていたら冒険者ギルドがあるのかどうかわからないですが、もし存在したならば、冒険者たちは「あれ? 最近のクエスト、鹿の駆除ばっかだな」ってなってると思います。
「破壊神さまはなんでそんな弱い魔物を増やすのですか……」
「食料に大きな被害を与え、かつ、魔力も使わないので安い、経験値としても微妙、そして繁殖する。こんなコスパいい魔物つくらないがわけない。それより、例の新しい魔物はできたか? 」
魔王は困惑しながら答える。
「はい……言われた通り作りましたが……なんですかこれは」
これは俺のもといた世界で猛威を振るっている、サバクトビバッタをもとに開発した魔物、デスイナゴです。
これがめちゃくちゃ強いんだけど背の高い草には産卵できないの。あとは環境がマッチしてない。
そこで、このデスイナゴには、魔力という名のご都合主義でこの大陸の環境で最大限力を発揮できるような暑さと湿度対策がなされています。
そして鹿。まずデスディアーが高い草や木を食って枯らせば、デスイナゴも高い草がなくなり産卵し放題。
カタログスペックをしっかり発揮してくれるでしょう。
完璧な作戦だ。
説明を聞いた魔王は、
(破壊神様、性格の悪さがエグイな……味方でよかった)
としみじみ思った。
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俺は魔法都市アマクサで育った冒険者のカリ
今日は国家を上げての緊急一大クエスト、暴食の使途ゼブル討伐のために、王国とギルド連合軍の魔法部隊として、
キヨマサ城下の平野に来ている。もうすぐここがゼブルに襲われるのだ。
最初は誰も新たな魔物のことを気に止めていなかった。子供だって老人だって踏めば倒せるただの虫、魔物としての認識すらなかった。
だがある日、それは群れとなり、空を覆いつくす黒い影となり、通った後には何も残らない怪物となった。
小さな村が一つ消え、街道沿いの街が一つ消え、都市が一つ消えたころ、いつしか人々はその影を暴食の使途ゼブルと呼び、
ついに今日、国中の腕利きを集め討伐することになった。
「爆炎! 」
魔力の枯渇するまで火の上級魔法を放つ。
こちらの人的被害はほとんどない。黒い影もまばら。我々は勝ったのだろうか……。
いや、この平野にもう作物はない……。結局僕たちは被害を食い止めることはできなかったのだ。
無数の昆虫の死骸と、草木の食い荒らされた周囲を見渡し、僕は立ち尽くした。
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「なんなんだ毎日バッタとかシカとか倒してよぉ」
「依頼人だってただの農家や村の長なんだから、報酬も少ねぇし、全然金になりゃしねえ」
「命の危険は格段にないが、もう冒険者なんて廃業だぜ。実質便利屋だ。俺は田舎に帰るぜ」
「魔王軍だって、こないだ勇者が四天王を全員倒してから全然せめてこねえじゃねーか。もう勇者が倒したんじゃねーの?」
「しかし、ヤツヤシロから南の情報がほとんどまったくこないんだ。変だと思わないか? もしかしてものすごく巨大な軍勢が控えてるかも
南西のヒューガやサイトからもそんな連絡こないらしいよ。まぁ、食糧危機は同じで、辺境の村は全部放棄されてリニータの方まで戻ってくるって考えもあるみたいだけど
サイトの方は風の影響で暴食の被害をモロに受けてたからね、キヨマサの辺りも畑とか壊滅状態でほんとひどいし」
「まぁ、こんなんじゃ冒険者は減るだろうなぁ、なんせ、強い魔物が出ないんじゃ、上級の冒険者でもシロウトでも変わらねえ。報酬もすくねえ、食いものもねえ。
田舎で農業手伝うか、ゴロツキになるか、行商やるか、兵士になるか、そんなもんだろ」
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「魔王なんて攻めてこないじゃないか」
「軍なんていらないだろ」
「そんなことより税を下げてくれ。作物の被害がひどいんだ」
「こんな投書ばかりです王様」
「ふむ……四天王は倒したものの勇者はおらず、今攻められてはまずいと思って軍備の拡張に努めたが、これは失敗だったかもしれん
なんとか魔王軍の現状だけでも知りたいが…ヤツヤシロは水害、ヒューガやサイトは未曾有の飢饉でみんな北に引き上げてきておる……。せっかくキヨマサ城は四天王から奪還したというのに……
アマクサから海路で南に行けんか? 」
「アマクサは魔法研究の自治都市ですからね……今のところ被害も出ていないようですし、協力を仰げるかはわかりません」
「まぁ、偵察船の経由地にはなるだろう。交易自体はあるしな。アマクサからセンナイへ行き、キリシマ地方の偵察部隊を出そう」
「正気ですか? キリシマは魔王軍の総本山ですよ。誰も行きたがらないし、言ったところで帰ってこれないのでは」
「じゃあギルドに依頼しようではないか。調査という体で。ギルドもショボいクエストばかりで人が減っているらしいではないか。軍備や魔物の数、種類、士気……とにかく情報が欲しい」
「えぇ、わかりました。かなり高難度にはなるかと思いますが…」
「もちろん、王国の公式な依頼なのだから、報酬はケチれんな。やり手の冒険者の派遣を頼む」
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「デスイナゴの群れは焼かれてしまったかぁ」
破壊神の俺は呟く。
「まぁサイトとキヨマサの辺りはこの世界で一位と二位の農業生産を誇る地域。そこに大打撃とあれば餓死者も出るのではないでしょうか
キューマ川も水害が絶えず、最初の狙い通り、下流のヤツヤシロにはもうほとんど人間が住んでいないようですし」
魔水晶を見ながら魔王が答える。便利なグッズもあるものだ。
そこへ、下級の魔族が執務室に息を切らせて入ってきた。
「魔王様、怪しい船がアマクサ方面からやってきました
センナイの辺りに停泊してます! 」
いくら魔法で気配を消し、コソコソ来ようとそもそもいまの魔王軍では船を使わないから、船があればすぐに人間のものだと分かる。
海方面は手薄だから見張りをつけておいて正解だった。
「すぐに倒しましょう破壊神様。こちらの手の内がバレてしまいます」
「いや待て、これはチャンスかもしれない。全軍をキリシマに集めろ。出撃の準備だ」
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「……この数……マジかよ」
「魔王軍は四天王がやられた後すぐに、各地に点在してた軍団を集めて戦争の準備をしてやがったんだ」
「なんて数だ、しかも攻め込む準備までしてやがる」
「すぐ王都に戻って知らせましょう。幸い、我々のことはバレていないようです」
「シロウの隠密魔法すげーな。それにしても、あぶねーとこだったぜ。船も無事みたいだし、言う通り戻ろう」
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「という知らせを受けて、兵士も集めてキヨマサ城を改修したが、敵は一向に攻めてくる気配がないぞ」
「そうですね、王様」
「偵察は成功といっていたが、嘘の報告をしていたのか? 」
「私にはそう見えませんでした……もしかして、魔物が策を? 」
「ふーむ……今までの戦いぶりからしたら、ありえないとは思うが考えられるな……我々も注意しなければ……。策があるとして、奴らの狙いはなんだ? 」
報告した冒険者たちが答える。
「魔族や魔物なんてのは、元来瘴気からできてるんだから、実は食事なんて必要ねえんだ」
「あいつらの作戦は、はなからこっちに消耗を強いることなんですよ」
「前の虫の騒動だってきっとあいつらのせいだ。いままでこの大陸であんな虫が大量発生したことなんてねぇんだ」
「もう攻めましょう、勇者がいなくたって関係ない。苦しいのは向こうも同じですよ」王は悩みながらも決心した。
「むむむ……。よし、キヨマサ城の戦力を、南に向かわせよう」
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「というわけで、戦争になってしまいそうですが、ついに、最強の生物兵器、完成しました。戦争に間に合ったぞ~」
魔法水晶で王都周辺の様子を見ていたが、向こうも準備をしていたし、ギリギリだったかもしれない。
「破壊神様、それはどんな魔物なんですか?」
「この子は人間の血を吸う虫で~血を吸われるとその場所がかゆくなるねんな」
「破壊神様? めちゃ弱そうなんですが。あと前回に引き続き虫好きですね」
「それがね、あらかじめこの虫の数匹に一匹は、あるウィルスを保菌させています」
「ウィルスてなんですか」
「難しいけど、端的に言うと毒みたいなものですね。吸血行為を通じて、各種の熱に脳炎、ありとあらゆる感染症を媒介し、広めます。命名“デスモスキート”」
「それなら全部保菌させればいいのに……」
「主要な街道は全部ガタガタにしとけよ! ついでに畑や林は焼いていい。途中で補給させるのもつまらん。勝負はいかにキリシマに来るまでに敵軍に疫病を蔓延させるかなんだからな」
「イェッサー!! 」
魔王も破壊神の性格の悪さに慣れ、だんだん楽しくなってきていた。
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こりゃまずい……
食糧難の中での遠征ってだけでだいぶ士気は低かったってのに、街道はガタガタ、橋は落ちてるで迂回ばっか
しまいにゃ軍の中で疫病まで流行りやがった
このままキリシマまで行って勝てるのか?
いや、ここまで来たらもう引き返せねえ……
あの火は……ついに敵か?
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「ついに戦いですね、破壊神様。まぁ相手はボロボロのようですが、紛れもなく王国軍の主力。装備も良いし、侮れませんな」
「案ずるな。今回の戦い、一つだけ作戦を練ってある。士気の低い疫病まみれの軍団だが、それでも勝負をかけに来てるからな
万が一にも負けないよう、この作戦のために戦闘部隊の練度を上げていたといっても過言ではない」
「果たしてそれは? 」
「釣り野伏大作戦だー! 」
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「魔王軍が偽装撤退なんて高度な統制が取れた作戦をなぜ……」
「わが軍はは幹部クラスの将も失いボッロボロで退却……、遠征失敗と食糧不足のあおりを受けて民衆の不満は最高潮です」
大臣は感情を失った声で言う。
「うーーーむ。どうしたらいいものか……胃が痛い」
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「この作戦は俺が考えたわけじゃなくて、俺の元の世界のシマヅって武将がやった作戦を、同じ地理で、より有利な状況で仕掛けただけだからね。キリシマ地方伝統の作戦よ。それに、キヨマサ城からキリシマに来るのはあのルートしかないって、歴史が証明してるからね」
「なにを言っているのかイマイチわかりませんが、異世界から召喚した破壊神様があなたでよかったですー」
「さて、ついにこの機に応じてガッツリ攻めるよ。キヨマサ城も取り返しちゃおう。
そして人間の居住区をどんどん狭めていけー! そうすれば食料もキツくなってくるし、感染症も蔓延してくからなー。
小さな村をどんどん滅ぼして、都市に人を集中させていこー! 」
「「「おー!!!」」」
魔王はもうノリノリだった。
デスイナゴの恐ろしさ、それは駆除しても、卵が少しでも残っていれば、同じ場所でまた繁殖するところにある。
敗走した国王軍が戻ったキヨマサ城には食料はなく、また軍から持ち込まれた感染症のせいで、実質的に機能停止。
ここでもさらに兵力は減り、防衛ラインは王都からの距離が近いルーメにまで引き下げられた。
孤立したキヨマサ城は破壊神の指示によりあっけなく落とされたのであった。
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18歳の誕生日になり、夢枕により神託が下された。
俺は勇者だった。18年ぶりの。
勇者になったからには魔王を倒しに行かねばなるまい。
決意を固め、町の酒場へ仲間を探しに行くと、男たちが言った。
「冒険に行くなんてやめとけ、この国最古の城、ダザイフ城をを出たら、魔物に食われるだけだ」
「そんなことより、勇者どの。もう18歳ってこたぁ、テンジンの中央区画にもいけるんだ。あそこは楽しいぜ。とてもこの世界とは思えねえ。俺たちが案内してやろうか? 」
「……一晩だけなら」
そう言って、勇者たちは夜の繁華街へ消えていった……
ゾーア山とクジュー連山は、キリシマを超える魔の瘴気を持つ山だった。キヨマサ城を落とし、ゾーア山とクジュー連山を取ってから、
瞬く間に魔王軍は瘴気から魔力を得、勢力を拡大し、人間の住処はテンジンと、魔法研究自治都市アマクサを残すのみとなった。
テンジンは暴動により王が死んでからは無政府状態、大宰府の限られた兵士によってかろうじて滅亡は逃れているものの、酒やドラッグ、風俗の街となってしまった。
「破壊神様、なんでここは滅ぼさないんですか? 」
「ここが滅びたら僕が遊びに行く場所がなくなるじゃんか。テンジンの夜は楽しいよ」
「きっと勇者もそう思ってるだろう」