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NO.15『心の準備』

へっぽこ娘

母の介護認定がおりる前に、姉弟と一度母の今後について色々相談をする機会を設けた。「要介護3」になると特別養護老人ホームに入所することができるようになるので、入所させるかどうかについてもお互いの気持ちを確認し合った。
私の介護の大変さを心配してくれている姉弟は、特別養護老人ホームは数百人の入所待ちがあると耳にしていることもあって、入所させるならなるべく早く申し込みをしておいた方がいいと提案してくれて、その方向で行くことを皆で確認することができた。
まずは、母の現在の居住地と弟が住んでいる地域で目ぼしい施設をピックアップして見学をすることから始めることになった。また、現在は二女である私が母と同居し介護をしているが、施設入所時の契約者は長男である弟に担ってもらうこと、入所以降の母の金銭の管理なども弟に任せることで合意したとき、「母の入所までが私の役なんだなぁ」とずっと見えなかった終わりが見えた気がして、少しだけ安心する自分がいるのを密かに感じていた。
そして話は母の葬儀にまで進み、複雑な気持ちが湧きながらも、これも避けて通れないとても大事なことだと思い、そんなことが今から子どもたち全員で確認できたことはとてもありがたいことだと思った。具体的にそれぞれが今後どう動いたらいいかを確認し、その日は解散となった。
姉弟との話し合いから家に戻った私は、デイサービスから帰って来た母の姿を何とも言えない気持ちで迎えていた。退院後にしばらく続いた大きな混乱も、日にちが経つにつれて落ち着きを取り戻してきている。度々おかしなことを言ったり、会話が成り立たないのは相変わらずだったが、新しい薬の服用の効果もあるのか、あの混乱から見るとだいぶ落ち着いたように思う。ご飯も普通に食べられるようになり、痩せていた体も以前と同じような体型に戻りつつあった。
そうなると母の知らないところで施設入所の話を進めていることが何となく後ろめたいような気持ちが湧いてくる。混乱しているときはあんなにも大変で「まったくもう!本当に困っちゃう!この状況を早く何とかしたい!」と思ってばかりだったが、こう落ち着いてくると施設に預けることに対して少しだけ気が進まなくなっている自分の気持ちに気づいてしまった。姉たちには強い決心を伝えたばかりなのに…。でもその気持ちもそのままにせず、弟夫婦にはポロッと呟いておいた。相手がどう感じたかは別として、自分の気持ちを大切にしたいと思ったからだった。

数週間経ってお知らせが届き、予想通り母の介護認定は「要介護3」になった。ありがたいことに認定がおりる前から弟夫婦はどんどん動いてくれて、弟の住んでいる地域の特別養護老人ホームを調べて見学の予約を入れておいてくれた。私も仕事が落ち着いたら見学する施設の予約と、葬儀場の確認などを進めようと思う。昨年末から弟夫婦と数か所の施設見学に行き始めたが、実際に行ってみてスタッフさんの説明を聞くことで、それぞれの施設の環境や考え方の違いがあることがわかり、本当にさまざまなことが勉強になった。同時に、いよいよこのような施設に母を預けることになって行くんだなと心がザワザワするのを感じていた。


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