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「ユリシーズ」という店 #下道一組

「ユリシーズ」という店

君とのあの浜辺。下道2時間の逢い引きだった
途中で車がエンストしたこともあったわ
そうだ。「ユリシーズ」まだあるかな?
息子さんが継いだって聞いたわ
誰に?
あの人に
そうか・・・
でも、昨日が3周忌
行ってみようか。ユリシーズへ

嬉しかったわ。電話くれて
独り者になったからね
奥様は?
彼氏と出てった
愛してた?
君と出会う前は
私も
良のやつ気づいてた?
たぶん
色に出(い)でにけり わが恋は、か
逢わないようにしてたのにね
ほら見えてきた

ここで君と会った
お互い結婚したばかり。なのに火が点いちゃった
あの頃と変わらないね、この珈琲の味
見て、息子さんの髭
マスターにそっくりだ
マスターね、良に黙っててくれたの。感謝してるわ
3年だった・・・
実は、マスターに忠告されたの。「潮時だよ」って

あら、今日は私たちだけなんですか?
一組の貸し切りです
え、そんな予約はしてないけど
はい。これは父の遺言です。お二人できっといらっしゃるからと

#短編小説 #ショートショート #掌編小説 #毎週ショートショートnote
#下道一組 #ユリシーズ


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