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独裁者の統治する海辺の町にて(11)


太田清吾は反町長派のリーダー的存在だった。といってもその派閥は3人だけだ。そいつらも太田が殺されると、競って町長派になった。
「いやらしいおじさんだったわ」
太田は自邸の寝室のベッドで裸のまま仰向けで死んでいた。絨毯にはワイングラスが横たわり、こいつも血を流していた。
「聞く?」凛子はあどけない仕草で誘った。おれは無視して、先を急いだ。
「それから門倉か?」
「だーれ、それ」
「津守岳(つもりだけ)のやつさ」
「逃げようとした人ね。もちろんよ」

門倉は父の海難事故の時、通信士として乗船していた男だった。おれはこいつの動きをひそかに見張っていた。彼は人目につかない深夜に太田議員の家に入っていった。父を殺ったのは組織だ。代々受け継いできた網元の家屋敷は敷地ごと没収され、今は組織の支部として九鬼が使っている。門倉は父を「事故」で殺す何らかの役割を務めたはずだ。たぶん、太田に買収されてその事故の情報を漏らしていたにちがいない。太田が死んだ3日後、門倉は逃亡しようとして津守岳山中で殺害された。こいつのジャックナイフで。
「あと一人は?」
「あと一人はねぇ」
「もったいぶるな!」おれはいらだった。
「恩田よ」
「恩田?だれだそれ」
「あたしのアシスタントよ」
ゾッとする話だ。おれはその後釜だったというわけさ。おれは冷静を装った。
「殺した理由は?」
「九鬼さんが殺っていいって」
「だから理由は?」
「バカにするからよ」
「眼か?」
「捨て子だっていったわ」
「・・・」
「えへら、えへらしていうのよ、それで九鬼さんにいったの。そしたら、変わりは誰がいいかって。」
「それでおれを指名したってわけか」
「バカにしない人がいいっていっただけよ。そしたら九鬼さんが康兄ィはどうか、って写真見せてくれた。康兄ィが民革党に入ってるって知ってうれしかったわ」
「どこで殺った?」
「ここよ」 
凛子は自分の座っているベッドを指さした。

おれは平良主席の直属の部下だった。そうだな、もう白状しよう。彼女の半ば愛人でもある。前にも言ったが、生き残るためさ。おれが組まされた理由は、この暴走娘の手綱係のようなものだくらいにしか思っていなかった。だが、この凛子の話でなにがしかの意図があるように思えてきた。ただその意図の中身はまだ分かっていなかった。もちろん、どっちの意図によるかもだ。

自分のアパートにもどっても寝付けないおれをよそに、凛子はソファーでかわいらしいいびきをかいて眠っていた。からだはくたくただったが、おれはあの週刊誌記者のメモ帳を調べた。あいつは、この町のことも組織のことも具体的には何の情報もつかんでいなかった。しかし、携帯の履歴には彼と通じていたやつの名前が残っていた。
そいつが凛子とおれのつぎのターゲットだった。
                            (続く)

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