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えんとつ町のプぺルを見に行ったけど見なかった話。

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本当にちゃんと見に行こうと思ったんだよ。

二時間前に映画館に到着してチケット買ってよ、軽く飯を食って万全な状態でプぺルの上映を待っていた。

十五分前になったら駐車場の車の中に隠してある巻いてきたやつを一服して、さらに万全な状態で鑑賞してレビューしようと思っていたのに。

この「えんとつ町のプぺル」だが、ネットだと評判がズタボロだろ?

タイトルを検索しただけで予測変換で「パクり」「気持ち悪い」「つまらない」と、えげつないワードが表示されるもんな。

画像比較して指摘しているような記事もあって、たしかにワンピースやラピュタ、他の様々な有名映画のオマージュを超えたパクりとしか思えない部分がたくさんあった。

だがしかしだぜ?西野亮廣って男はアンチもたくさんいるだろう。

もしかしたら批判記事は捏造まではいかなくとも過度に脚色されたりとか、一のパクりを十くらいに盛ってるんじゃねえかとも思った訳よ。

まあ多分その通りなんだろうけどな。

でもよ。てめえの目で見てもいないものをあれこれ論じるっていうのも男じゃないだろ?

それで映画館に行くことにしたんだ。

真剣に鑑賞して、真剣にレビューをすれば役に立ててくれる人もいるだろうと思ったからな。

だが無理だった。

どうしてだろうか。まだ見てもいないってのにどうしようもない嫌悪感が俺を襲ってくる。

設営から撤収までなんでも金に変えちまうあの西野の顔は忘れて、これはディズニーか宮崎駿の映画だと思って見よう。

そう決めていたのに俺の意思に反して体が嫌がるんだよ。

「見たら駄目だ、絶対に見たら駄目だ」

いくら見よう見ようと思っても俺の本能が心の中でそう叫んでいた。

でも面白いかもしれねえじゃねえか。その証拠に映画館はガラガラなのにプぺルの所は人が入っている方じゃねえか。

自分を勇気づけるべく俺は自分にそう言い聞かしながら周りを見回す。

目が死んでいるやつが多いな。

どうして楽しみな映画をこれから見るってのにこいつらはこんなにも死んだ目をしているんだ?スーパーで売っている死んだ魚の目に似ている。

そう思ったが、そもそも映画館で他の観客の顔色をこんなにじっくりと見た事なんてない。

もしかしたら映画を見る前は誰でもこうなるのかもしれない。

俺は自分にそう言い聞かす。

そうこうしているうちにツレがボソッと呟いた。

「やっぱりヤクザと家族が見たいです」

お前なあ、そんなもん俺だってそうだよ。でも今日はプぺルを見て感想をnoteに書くって決めたはずだろ。

俺はツレを叱りつけた。

叱りつけている時にさっきの死んだ目をした連中のうち何人かがこちらを見ていた。

映画館で大声を出すのはよくない。例えそれが上映前だったとしてもだ。

そんな当たり前のマナーを忘れてしまうほどに、俺は追い詰められているのか?

しかし俺は見る。プぺルを絶対に見ると決めていたからな

「なんだか一人で来ているお客さんが多いっすね」

叱ったついでにゼロコーラを買いに行かせたツレが戻るなりそう言った。

確かにな。それになんかこの雰囲気は体験したことがあるな。

あれは去年の夏頃だったか。

ポンジスキームで人から金を騙し取りまくって飛んでいた野郎が名前を変えてセミナーを開催し、また集客して何かを企んでいるという情報が入った。

完全に行方をくらましていたいた詐欺師だったから、これはチャンスだと俺は仕事仲間とセミナーに乗り込んだんだ。内容は仮想通貨のHYIPっぽい案件だったと思う。

俺たちが大声を出しながらドアを開けた時に振り返ったセミナー参加者達の目。

さっきの目もそれと同じだったんだ。

いやいや、そんな訳がないだろう。あっちはポンジでこっちは映画だぜ?同じように養分だったとしても、また違った属性なはずだ。勘違いだ。

俺の中で二人の俺が言い争いをしている。

ここまで来たのだからプぺった方がいいと言う俺と、一刻も早くここから逃げ出したいという俺。

一体俺はどうしちまったんだ。

質の悪いLSDでも食ってパラノっちまってるみたいな気分だ。

とにかくこの建物の中にいるとひどく気分が悪くなる。

「まだ上映まで時間あるだろ?ちょっと俺は外ぶらついてくるからお前も時間潰してていいよ。十分前に駐車場集合な。」

ツレにそう告げた俺は外に出て大きく深呼吸をした。

排気ガスだらけの汚い街なのに、なぜか空気が美味しかった。

呼吸と言えば鬼滅の刃も上映していたな。ヤクザと家族もいいけど鬼滅も少しだけ見てみたいな。

いやいや、何を言っているんだ。今日はプぺるって決めてるだろ?俺としたことが吐いた唾てめえで飲むつもりなのかよ。

後三十分か。

後三十分で俺はえんとつ町のプぺルを見るんだ。

そう思いながら俺は緊張を解きほぐすように喫煙所に向かった。

一服して見上げた空がやけに青い。この調子なら今夜は星が見れそうだな。

煙草が消えかける頃に俺は思ったね。

よく考えたらプペルとルビッチが星を見ようが見まいが俺には1ミリも関係ねえって。

誰も見たことのない景色に辿り着くには、常識、あきらめ、権力と様々な困難があるが、信じる力と努力でそれを乗り越えられる。

プぺルのテーマはどうせそこらへんだろ?見てねえけど俺には想像がつく。そんなの別に映画なんかで教わらなくても生きていくには当たり前の考え方だろう。

どうしてこんなに悩んでいたのか、馬鹿馬鹿しくなるくらいに喫煙所から見る空は青かった。

くだらねえからやっぱり帰ろう。

俺には俺だけの探している物があって、それはルビッチの叶えたい夢なんかとは別の物なんだ。

人の安っぽい夢なんかで感動するよりも、てめえで何かをしていた方がいい。たとえ最終的には叶わない夢だとしても前に進む行為にこそ価値がある。

俺はチケットを灰皿に捨ててまた自分の道を歩き出した。

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ツレは置き去りにした。


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